16-4 竜王
リンエイは島を一周させると、船を停泊させられるような入り江を見つけ、船を入れた。 俺たちはボートに移り上陸した。 上陸したのはいつもの警護班とファウラ、そしてグレンだ。 リンエイも一緒に上陸すると言い張ったが、俺は許可しなかった。
「リンエイさんは船に残って、何かあった時にはすぐに船を出せるようにしておいてください」
「しかしそれでは・・・」
「大丈夫です。 万一の時にはゲートを使って戻ってきます」
「承知いたしました」 リンエイは渋々承知した。
俺たちは、密林の中を進んだ。 先頭を進むのはグレンだった。 グレンはどこか緊張しているように見えたが、方向を迷う様子は無かった。 グレンはどんどん島の奥に入って行った。
「グレン、どこへ行けば良いのか分かっているのかい」 俺が聞いた。
「ワカッテイルワケジャナイ。 ダケド、コッチカラヨバレテイルキガスル」
時間は午後の3時ぐらいで、まだ日が落ちる時間ではないが、背の高い植物の葉で陽を遮られ、薄暗かった。 樹上には見たことも無いような鮮やかな赤や青の羽を持った鳥や、尻尾の長い猿や見たことの無い動物が行き交っていた。
グレンはまるで勝手知った所へ戻ってきたかのように、どんどん小山の方を上って行った。 2時間ほど歩いた時、小山の峰に到達した。 その山は普通の山ではなく、古い火山の大きな火口跡だった。 峰を下りた向こう側は大きな丸い広場のようになっていた。
その光景に全員が衝撃を受けた。 火口跡には、赤、金、青、緑の巨大なドラゴンが4頭、その子どもなのか同じ色の小振りなドラゴンが4頭、計8頭のドラゴンが寝そべっていたのだ。 まさしくドラゴンの巣、ドラゴンの島であった。
「カケル様、どうされるのですか」とレオン。
「どうって、行くしかないでしょう。 ここまで来たら」
「カケル様、止めましょう。 絶対に生きて帰れないですって」とエレイン。
そう言っている間にも、グレンはどんどん降りていった。 俺達はついて行くしかなかった。
それから30分ぐらい歩いて、ようやくドラゴン達のいるところまでたどり着いた。
青のドラゴンが首をもたげて、俺たちを睨みつけた。
「何者だ。 人族ごとぎが来て良い場所ではないぞ」 頭の中に声が響いた。
「えっ、ドラゴンがしゃべった?」とエレイン。
「いや、念話だ。 俺たちにも聞こえると言うのか」とレオン。
他のドラゴン達も起きだした。
周りの空気が一変した。 凍り付くような殺気を感じ、一斉に身構えた。
青竜は太い尻尾を振ると、俺たちに攻撃をしてきた。
「カケル様、危ない!」 ホーリーがとっさに俺を庇った。 ホーリーは尻尾の直撃を受けて10メートル位飛ばされて、岩に背中を叩きつけた。
「グハッ」 ホーリーは血を吐いて、地面に倒れ込んだ。
「ホーリー姉!」 エレインが駆けよって助け起こした。
俺はそれを見て、一気に怒りが頂点に達した。 さっきまでの凍り付くような空気が、今度は熱く揺らいだ。
「ウオーーッ」 俺は飛び上がると、青竜の顔面を渾身の力で殴り倒した。
青竜は驚いたような顔をしていたが、俺の拳をモロに受けて巨体が後ろに倒れた。 他のドラゴンも驚いていたが、アドル達も驚いた。 青竜はすぐに起き上がると、逆上し俺を攻撃しようとした。 青竜の上あごの長い牙が1本折れていた。
「やめんかバカ者!」 制したのは金竜だった。
「しかし、このような者達の侵入を許す訳には・・・・」
「コノヒトタチ、ナカマ。 ボクヲツレテキテクレタ」とグレン。
「お前は、ギーランの息子か?」 金のドラゴンが言った。
「ソウ、ボクノナマエハ、グレンバロウス」
「ギーランはどうした」
「シンダ」
「そうか、それでお前が来たのか」
「ソウ、ユメデヨバレタ」
「まだガキじゃないか。 人に引率されなければ来られないような」と青竜。
「だまれブロウガス。 結論を出すのは早い」
「グレンバロウス、お前を連れてきてくれた人は何者だ。 並の人間には我らを殴り倒すなんて事できはしない」と金竜。
「アレハ、カケル。 ミドリノオウダ」とグレン。
「何だと!」 年老いた赤いドラゴンが言った。
「なるほど12王か」と金竜。
「カケル王よ、部下の無礼を許してくれ」 金竜はホーリーの容態を確認していた俺に謝った。 俺はファウラにホーリーの手当を頼むと、立ち上がって金竜に向かい合った。 まだ怒りが治まった訳ではなかったが、一息つくと言った。
「こちらこそ、勝手に入って来て申し訳ありません。 本来であれば我々のような者が侵してはいけない聖域のような場所なのでしょう。 しかしどうしてもグレンを連れて来る必要があると考えたのです」
「いや、この子を連れてきてくれた事に感謝する。 我が名はゴーエスライ、我が一族の王だ」




