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16-3 竜の島

 王の専用船サフィルスは晴天の中を、快調に南に向けて進んでいた。 相変わらずアドル、レオン、リースは甲板に青い顔をして寝ており、時折船縁から撒き餌をしていた。


 「カケル様、今回は酔わないのですね」とファウラ。

「ああ、何故か大丈夫だ。 それよりどうして今回はついて来ようとしたのだい?」

「あら、いつも私はついて行きたいと思っておりますわ。 ですが、戦いのような場所には、私が一緒では足手まといになると考えて、遠慮していただけです。 ですが今回は、必ずしも戦いになるわけではないでしょう。 それに私もドラゴンの島を見てみたいのです」

 当のグレンは、船の上空を飛んでいた。 しばらく飛び回って飽きてくると、船の甲板で昼寝をするのである。


 リンエイが近づいてきた。

「どうなのですか、これは順調なのですか」

「そうですね、今の所は。 カエンが地図に丸く印をつけた場所までは、おおよそ10日ほどで行けると思います。 この潮の流れとこの船の足だと10日かからないかも知れません」

「そうですか」

「カケル様、ですが問題があります」 そう言うと、リンエイは真顔になった。

「何ですか」

「この海域は、船乗りの間では“魔の海域”と呼ばれているところなのです。 嵐が良く発生し、船の遭難が頻発することから、通常はこの海域は皆避けるのです」

「それは、ドラゴンの島と何か関係があるのでしょうか」と俺。

「分かりません」とリンエイ。

「ドラゴンの力で嵐を起こして、船を近づけないようにしているのか、あるいは嵐が起きやすく人が避ける場所なのでドラゴンが棲み着いたのか。 どちらもありそうですね」とファウラ。

「では、いずれにしても島に近づけば、嵐に見舞われる可能性が高いと言うことですね」

「そうです。 それとあの海域には魔獣が棲んでいるという噂もあります」

「ドラゴン以外にですか」

「そうです。 鯨よりも巨大な姿をしていると言う者もいます」

「では、天候、ドラゴン以外にも危険があると言うことですね。 用心しながら行きましょう」


 出港から7日間は特に何もなく、天候にも恵まれて順調だった。 だが南に行くにしたがって、暑さはますます強くなり、風も熱風のようになっていった。 さすがにこの頃には、アドル達も船酔いは治まっていたが、今度は暑さにバテ気味だった。


 異変が現れたのは、8日目だった。 その日は巨大な積乱雲が発達してくると、風が強くなり海面が大きくうねりだした。 空がたちまち暗くなっていった。 遠くの黒い雲の中で稲妻が走るのが見えた。


 「帆を降ろせ、嵐が来るぞ」 リンエイが部下に命令した。

「カケル様、危険ですので、中にお入りください」

 俺たちはリンエイに促されるままに船室に入った。 エレインの顔は引きつっていた。

「大丈夫だよ」 ホーリーが声をかけた。 エレインは前の遭難の事がトラウマになっているのだった。

 俺は今回、ホーリーとエレインには辞退して良いと言う話はしたのだったが、二人とも頑として拒否したのだった。


 嵐は一晩中続いた。 船は右に左に、上に下にうねりにもまれながらも、サフィルスは耐え抜いた。

 翌日は、前日のことが嘘のように穏やかな海に戻っていた。


 「カケル様、右前方に島が見えます」 リンエイが指さした。

「あの島がそうなのだろうか」

「どうでしょう、しかし恐らく位置的にはあの島が怪しいですね」

「とりあえず、あの島に行ってみましょう」

「承知いたしました」

「面舵、あの島に向うのだ」


 近づくにつれ、島の様子が分かってきた。 かなり大きな島で雲まで届く高い山がそびえていた。 その山の隣はラクダの背中のような小山になっており、その裾野には木々が生い茂っており、沢山の生物が棲んでいるように思えた。


 島まで10キロ位まで近づいた時に、アビエルが異変に気づいた。

「何だ、あれは!」 船の右の海面を指さした。 その先には碧い海面の下に黒い物が船に併せて泳いでいた。

「鯨か?」 俺は言った。 その物体は巨大で船の船体よりも長かった。 やがてその海面が盛り上がってくると、そいつは海面に姿を現わした。 その姿は、巨大なウツボの様な魔獣だった。 目をぎょろつかせると、こちらを見ながら船の前を斜めに横切った。


「あれを知っていますか?」 俺はリンエイに聞いた。

「いえ、私も知りません。 初めて見ました」 リンエイも驚いていた。 船員達も同じで、嵐も恐れない男達でも、動揺を隠せなかった。

 魔獣は船の周りを回りながら、攻撃の機会を狙っているように見えた。


 やがて再び魔獣が海面から首をもたげ、船に襲いかかろうとした時、“バサッ”という大きな音とともに空が暗くなった。 見上げるとそこには、青い巨大なドラゴンがいた。 ドラゴンはその大きな顎で魔獣の首に食らいつくと、翼を大きくはばたかせ、空に舞い上がっていった。 そしてその時、一瞬こちらに目を向け甲板にいたグレンと俺を見たように思った。 ドラゴンは魔獣を咥えたまま、島の方へ飛んで行ったのだった。 全員あまりのことに、声が出なかった。


 「ビックリしたなあ。 小便ちびりそうになった」とリース。

「あの島に飛んで行ったぞ」とレオン。

「カケル様、どうやらあの島で間違いないようですね」とリンエイ。

「そうですね」

「エーッ、あんなドラゴンがいるところに行くの。 ドラゴンって言ってもグレンより少し大きいくらいかと思っていた」とエレイン。

「オイオイ、あの島の上空を見てみろよ。 鳥が飛んでいるのかと思ったら、あれもドラゴンだぞ」とアドル。

「生きて帰れるのだろうか・・・」 側にいた船員が独り言を言った。


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