16-2 出航
その後もグレンの夢は続いていた。
俺はスウゲン達にもこの件を相談した。 スウゲンもしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「確かに、南の海のどこかにドラゴンの島があるという伝説は、聞いた事があります。 ですが場所までは私も知りませんね」
「そういえば、私の配下の者が昔、南の海で嵐に遭い知らない近くの島に避難したことがあるそうです。 そしてその島にはドラゴンが何頭も飛んでいたそうです」とリンエイ。
「そこだ、じゃあその島は実在するんだね」
「その者に聞けば、おおよその場所は分かるかも知れません」とリンエイ。
「それで、カケル様、場所が分かったらそこへ行かれるのですか」とバウロ。
「かかる日数にもよるが、基本的には行きたいと考えている」
「ではサフィルスの出番ですね。 私がお供いたします」とバウロ。
「お二人はダメですよ。 銀のレギオンとの戦いに備えて、戦力の強化が急務と言われておりますよね。 それに毎回私は留守番だったのですから、今回は私がお供いたします」とリンエイ。
「セシウス殿達は、何とおっしゃっているのですか。 今回はかなり危険が高いですよ。 私はお勧め出来ません」とスウゲン。
「やはり、ユウキと同じ事を言うなあ。 まだセシウス達には話していない。 場所がハッキリしてから説得しようと思っていたからな」
「リンエイさん、とにかくその者に確認してみてください」
「承知いたしました」
翌日の昼、リンエイが50代の小柄な白い無精髭を生やした男を連れて来た。
「この者が昨日、お話ししたカエンと言う者です」とリンエイ。
「カエンさん、良く来てくれました。 実はドラゴンの島の事を聞かせていただきたいのです」
男は話し難いように頭を掻きながら話し始めた。
「あれは、16年ほど前の事です。 ワシは当時商船に乗っていたのですが、ある日船の舵が壊れ、潮に乗ってどんどん南に流されました。 5日ほど流された頃、嵐に遭いました。 そして嵐を何とかやり過ごすと、近くに島が見えたのです。 そこで何とか島にたどり着くことが出来たのですが、その島には巨大なドラゴンが何頭も飛び回っていたのです。 ワシ等はそれを見て、背筋が凍りました。 ワシ等はそこで急いで舵を直すと、命からがら逃げてきたのです」 カエンは思い出したように身震いした。
「場所はどこか分かりますか」
「潮の流れと日数からおおよその場所は見当を付けられますが、正確な場所は分かりません」
「もう一度行くことは可能ですか」
「滅相もありません。 二度とご免ですね」
「そうですか、地図におおよその場所を書いてもらえますか」
「それは出来ます」
「ではお願いします」
「リンエイさん、サフィルスの出航準備を進めてください」
「随行する船はどうしますか。 少なくとも3隻ほどは要るかと思いますが」
「いや、サフィルス単独で行く。 万一嵐やドラゴンの攻撃を受けた場合、被害は最小限に留めたい。 それに船が大破して航行不能になった時は、最悪1隻ならばゲートで避難させることができる」
「承知いたしました」
「準備に何日かかりますか」
「5日、いや4日あれば」
「分かりました。 それで進めてください」
それからが慌ただしかった。 セシウスやファウラ、ミーアイ等を説得するのが、実に大変だったのだ。
「グレンには何度も命を助けられている。 そのグレンが困っているのだ、今度は私が力になってやりたい」と必死で説得した。 最後は皆、納得はしていなかったが折れた。
4日後、藍の王都の港を出航した。 今回のお供はいつもの警護班、それにファウラが今回はどうしてもついていくと言い張った。 そしてリンエイとその部下達だった。




