15-5 黄の王(2)
通路の先にあった扉を開けた先は、奈落のような奥まで見えない崖になっていた。 100メートルほど先の向こう側には、台の上に黄色に輝く球が見えた。 そこまでたどり着くには、崖に沿って続く天然の岩壁に人一人がやっと通れる幅の道を通って行かなければならなかった。
「よくぞここまで辿りついた」 どこからか、男の声が聞こえた。
「天聖球まではもう一息だ。 だが天聖球を手に出来るのは一人だけだ。 心せよ。 それから、浮空術を使うのはダメだ」 意味深な事を言うと、男の声は消えた。
三人は、先頭がギルダ、ルーク、ジョエルの順で壁を歩いて言った。 すこし歩いたところで、ジョエルの頭に男の声が聞こえてきた。
「天聖球を手に入れられるのは、一人だけだぞ。 このままで良いのか」
ルークの頭にも声が聞こえてきた。
「王になれるのは一人だけだ。 後ろに気をつけろ、落ちたら助からないぞ」
ギルダの頭の中にも声が飛び込んできた。
「気を付けろ。 後ろの奴が、お前を突き落とす隙を伺っているぞ」
ギルダは声を無視して進むことだけに集中した。 道幅は30センチも無く、岩の裂け目からしみ出す水で濡れているので、滑りやすくなっていたのだ。
歩みは思いの外遅かった。 道とは言えないようなところを進むためと、所々道が崩れており、壁のくぼみや裂け目に指とつま先をかけて渡って行かなければならない所もあったためだ。
岩壁を半分くらい渡った時、ルークが足を踏み外した。 ルークが谷底に落ちそうになった時、ギルダがルークの右腕を取った。 とっさにルークは左手を岩壁にかけ何とか落下は踏みとどまった。 そのままギルダに引き上げられ助かることができた。
「ありがとう。 だが何故俺を助けた」
「私は仲間を決して見捨てない。 たとえ一時の仲間であってもな」
「ギルダさん、何故王になりたいのか聞かせてもらえませんか」とジョエル。
「なぜ、こんな時に聞く」
「こんな時だから聞くんです」
ギルダは少し考えてから、歩きながら話し出した。
「私の国では戦争で負けて、私の両親を始め多くの人間が他国に連れて行かれ奴隷として売られた。 やがて私はそこから逃げて、冒険者になったが世界を見て多くの国で同じような境遇の人々がいることを知った。 私は強い憤りを感じたが、私一人の力でどうにかできることではない事は分かっていた。 そんな時に強大な力を持つ12王になれれば、それを変える事が出来るのではないかと考えたのだ。 私は王になりたい、そしてこんなクソのような世界を変えたいのだ」
「なるほど、分かりました。 ルークさんはどうですか」
「俺の理由は、そんな重いもんじゃ無いよ。 俺は男として生まれてきた以上、自分の力でいけるところまで行ってみたいと思っているだけだ。 ジョエルはどうなんだよ」
「ボクはこの世界について、色々な疑問を持っています。 それで12王になることが出来れば、この世界の深淵を見ることが出来るのではないかと思ったのです」
「なるほど」とルーク。
その後も男のささやきは続いた。 恐怖、猜疑心、不安をあおり、お互いに潰し合いをさせようという意図はミエミエだった。 だが誰も耳を貸さなかった。 そしてついに三人は向こう岸にたどり着いた。
三人は、天聖球の周りに寄って、黄色の光がうごめく球を見つめた。
「さてと」ルークが言った。 そして三人に緊張が走った。 三人の足下には古い血糊と思われる黒い大きなシミがあった。
「俺はギルダに譲るよ」とルーク。
「えっ」とギルダ。
「ボクも」とジョエル。
「何故、二人とも」
「ギルダが王になるべきだと思ったからさ」とジョエル。
「さあ、天聖球を取るんだ」
ギルダは二人に勧められ、球を両手で持ち上げた。 ギルダの体に光が入り込むと、ギルダの体に変化が現れた。 しばらくすると平静に戻ったギルダの雰囲気は少し違っていた。
「どうですか、天聖球に認められると、胸にアザのような物が浮かび上がると言いますが」とジョエル。 ギルダはシャツの襟の部分を広げ、胸を確認すると丸い太陽のような文様が浮かび上がっていた。
「何かある」とギルダ。
奥から数名の男が出てくると、ギルダの前に跪いた。
「ギルダ様、これより貴方様を、黄のレギオンの王としてお迎えいたします」
「やったな」とルーク。
ギルダはルークとジョエルに向き合うと言った。
「ルーク、ジョエル、お願いだ。 私のサムライとして、私を支えて欲しい」
「えっ、どうする、ジョエル」
「しようがありませんね。 乗りかかった船です」とジョエル。
「と言うことだ。 謹んで受けよう」とルーク。
「ありがとう」
こうして黄のレギオンに、新たな王が誕生した。