15-4 黄の王(1)
3カ月前、黄の王都
冒険者のギルダは、黄のレギオンの王都ヒマールの郊外にある遺跡の入り口に立っていた。 ここは数千年前の文明の神殿だということだった。 石の階段の先には太い石の柱が何本も立っており、その左側には巨大な人の石像、右側には翼のあるライオンのような動物の石像があった。 この遺跡の最深部に黄の天聖球があると言うのだ。
黄の12王は2年前に亡くなっており、未だに次の王が立っていなかった。 ギルダが街で聞いた話によると、未だに天聖球まで辿りつけた者がいないとのことだ。 詳しくは分からないが、ただ強いだけではたどり着けないと言うことだった。
石段を上って行くと、そこには王になろうと各地から集まった冒険者や元軍人など腕自慢の者たちが、約30人ほどたむろしていた。
西から陽が昇り始めた頃、一人の男が上ってくると、皆に大きな声で話しかけた。
「今回、黄の王に挑戦するのは、これで全員だな。 それではこれより開始する。 挑戦者はこれよりこの入り口から入り、三つの試練を受けてもらう。 一つ目は力の試練だ。 入り口の先は三つの通路に分かれている。 その先には行く手を阻む者がいる。 それを倒して先に進むのだ、戦いは協力しても良い。 その先には知恵の試練がある。 そこは知恵を絞らないと通過できない。 そして最後が精神の試練だ。 そのいずれもクリアできた者が、天聖球にたどり着ける。 それでは健闘を祈る」 そう言うと、入り口の大きな扉を開いた。
挑戦者の半数ほどは、扉が開くと我先になだれ込んだ。 もう半数は他の人の様子を伺っていた。 ギルダは様子を伺っているグループだった。 なだれ込んだグループが入ってからしばらくしてから、入ったが、同じように入って来たのが5人いた。
中に入ると薄暗い廊下が3本あった。 いずれも奥は暗くなっており、どこまで続くのか分からなかった。 ギルダは中でちょっと迷ったが、真ん中を行くことにした。 すると後ろから声をかけられた。
「一緒に行っても良いかな」 ギルダが振り向くと、そこには背の高いがっしりした体の青年が立っていた。 背中には大剣を背負っていた。
「どうぞ、好きにすれば」 ギルダは素っ気なく応えた。 するとその後ろからも声がした。
「ボクもご一緒させてください」 ギルダよりも背が低い、15才くらいにしか見えない少年が現れた。
「少年、ここは遊びで来ていいところでは無いぞ。 死にたくなければ、帰った方が良い」とギルダ。
「いえ、ご心配なく、ボクにも事情があるので、止めるわけにはいきません」
「そうか、私はギルダだ」
「俺はルークだ。 よろしく」
「ボクはジョエル」
三人は所々レムの灯りが灯った薄暗い通路を歩いて行った。 やがて大きな扉に突き当たった。 ルークが扉を開けた。
そこには体長10メートル以上のトカゲのような恐竜のような生き物がいた。 首が蛇のように長く、しかも双頭の魔獣だった。 よく見ると、部屋の隅にもう一頭おり、何かを夢中になって食っていた。 それはさっき先に入っていったグループの一人だった。 魔獣はその男の内蔵を食っていたのだった。 その近くには他に3人が倒れていた。
正面の魔獣が3人に気づき、二つの頭を持ち上げた。
「来るぞ!」 ルークはそう言うと、背中の剣を構えた。
「こいつはサリューベという魔獣です。 あいつの牙には猛毒があります。 絶対にかまれないようにしてください」とジョエル。
ギルダは剣を抜くと、魔獣の攻撃に備えた。 魔獣は一方の頭がルークを、もう一方がギルダを襲った。 二人はほぼ同時に体を反転させて攻撃をかわすと、一刀ののもとに首を切り落とした。 斬られた魔獣は倒れ込み、足をもがいた。 頭の方はしばらく首をくねらせていたが、やがて動かなくなった。
もう一頭の方が、食事を止めると、口の周りを血だらけにした頭を3人の方へ向けた。 魔獣は怒ったのか、「シャーッ」という音を立てながら、向って来た。
ジョエルは、魔獣の方へ両手向けると、気合いを込めるように両方の掌を握り締めた。 すると魔獣は「ギャオーーッ」と悲鳴を上げると、突然に頭が床に崩れ落ちた。 呆気にとられたギルダがジョエルに尋ねた。
「何をしたの?」
「遠間から、魔獣の脳を握り潰しました」 ジョエルは事もなげに答えた。
「なるほど、ここに来るだけの力はあると言うわけだな」とルーク。
「では次に行こうか」とギルダ。
次の扉を開けると、下の階層に続く階段があった。 薄暗い中を降りて行くとやがてまた新たな扉にあたった。
その部屋は迷路になっていた。 ギルダが入って行こうとすると、ジョエルが止めた。
「待ってください。 闇雲に動くと自分がどこにいるのかも分からなくなりますよ」 そう言うと、自分の鞄から墨壺を取りだした。
「これで、所々に印をつけて行きましょう」
三人はそれから2時間ほど、迷路の中を動き回ったが、出口を見つけることは出来なかった。
「どうなっているんだ」とルーク。
「どこかに出口があるはずだ」とギルダ。
「ちょっと待ってください。 これは知恵の試練ですよね。 最初はどこかに問題か何かがあってそれを解くことによって出口が分かるのかと思いましたが、どうやらそうでは無さそうですね。 もう一度考え直しましょう。 何か気づいたことはありませんでしたか」とジョエル。
「そう言われてもなあ」とルーク。
ギルダはしばらく考えていたが、思い出したように言った。
「そう言えば、さっき通った所の突き当たりの壁が、周りの壁よりも新しい感じがしたな」
「それだ! 行って見ましょう」
ジョエルは壁の隅を確認し、壁を拳で軽く叩いて見たりしてから言った。
「なるほど、ここですね。 壁が薄くて壁の向こうが空間になっています」
「だがどうやって開けるのだ? 隠し扉でもあるようには見えないぞ」とルーク。
「ルークさん、剣でこの壁を壊せますか」
「えっ、これくらいの壁ならば、大丈夫だと思うが、それはまずいのではないのか」
「いいえ、正解はそれ以外ありません。 これは常識を突き破る答えにたどり着くことが出来るかという問題なのです」
「ならば、これくらいの壁は剣を使うまでもない」 ルークはそう言うと、壁に右手の掌を当てた。
「ハッ!」と声を発すると、“ボゴッ”という音とともに壁が崩れ落ちた。 舞い上がる埃の向こうに、通路が見えた。




