15-1 祝勝会
黒のレギオンとの戦争から1カ月後、セントフォレストの近郊にある王墓のある丘の麓で、祝勝会が開かれた。 今回の戦争に参加した全てのレギオン、各種族の部隊長以上の者、約千人を招いて労をねぎらったのだ。 一面には桜に似た薄いピンクの花を咲かせた木が数百本植えられていて、今が満開で見頃だったのだ。 こちらには花見という習慣はないとのことだったが、祝勝会を行なう事になった時に、俺が「じゃあ、花見にしよう」と提案したのだった。
木の下にござを広げ、席は定めなかった。 席を定めると、「何故私があいつよりも下座なのだ」と言うことになりかねなかったからだ。 2カ所に飲み物と食べ物のブースを設け、好きな物を取ってくるというスタイルにしたのだ。
各レギオン、各種族が固まってワイワイやっていた。 そこを俺が回って歩いたのだった。 グーツ族の族長ゾンダやドラク族のケウラスも来ていた。
「カケル様、今回はバスランを救っていただき、ありがとうございました」 ケウラスが言った。
「いいえ、今回の戦いは私を狙った戦いであり、バスランは巻き込まれただけです。 ですがこれで終わりではないでしょう。 黒のレギオンはまた来るでしょう。 その時には、頼みます」
「承知いたしました」とケウラス。
「畑の方はどうなりました?」 俺はゾンダに尋ねた。 ソウラが襲われた時に、防御のために山を崩し畑に大量の岩が入り込んでしまったからだ。 その後、話を聞いた俺は、ソウラに赴きレムの力で岩を浮かせ畑から排除していったのだった。
「王様のおかげで、無事に種まきが出来ました。 街中、皆王様に感謝しております」
「それは良かった。 順調に成長すると良いですね」
アデル族の一団の所へいくと、族長のバウファルの姿を見つけた。 杯を片手にご機嫌で隣の者と話をしていた。 俺に一緒に付いて回っていたアビエルが言った。
「親父殿も来られていたのですか。 珍しいですね」
「おう、アビエルか。 カケル王のご招待だ、来ぬ訳にはいかぬだろう」
「何とも調子の良い。 さんざん渋っておられたくせに」とアビエル。
「カケル王、この酒はとてもうまいですな」
「お気にいられたなら、それは良かった。 今回もアデル族はめざましい働きをしてくれました。 感謝します」
「何の、次に来たらまた我らが蹴散らしてやります」
「それは頼もしい」
「どうやら成功のようですね」 スウゲンが寄ってきて話しかけた。
「そうですね、スウゲンさんのおかげです」 元々この祝勝会の発案はスウゲンだったのだ。
「我らは幾つものレギオンと種族の連合軍です。 ちょっとしたきっかけで結束が崩れてしまう恐れがあります。 今後のためにも結束強めるイベントを行なうのがよろしいでしょう」 そう進言したのだった。
様子を見ていても、各種族どうしが積極的に交わろうとはしなかった。 だが隣にいることに違和感がなくなるだけでも良いと考えていた。 一気に他種族同士が仲良くなるところまではいかないだろうと思っていたからだ。
「婿殿、こちらで飲んでくだされ」 エルム族のベラスラに呼び止められた。 ファウラと兄のグラウスも一緒だった。 そこからはしばらく逃れられなかった。 俺に酒を飲ませようとするベラスラ親子と飲ませまいとするファウラの攻防が続いた。