14-13 バスランの戦い(2)
「さあ、マブル族がどれだけ強いか見せてやろうぜ」 アドルがそう兵達に向って叫ぶと、敵陣めがけて走り出した。 アドルは特殊な槍を使っていた。 穂先の下に斧が付いたヤツである。 それを自在に操り、豪腕で次々と敵兵をなぎ倒していった。 その姿は人混みの中に飛び込んだ魔獣のごとくで、誰も近づくことができなかった。 それに続いた熊や狼など、マブル族の兵達も野獣の咆哮を上げながら縦横に暴れ回り、ザウロー軍の右翼は大混乱を起こしていた。
その反対側では、バウロと海兵部隊がザウロー軍の左翼に突撃していた。
「さあ野郎ども、ここが今回の山場だぞ、気合いを入れろ」 そう言うとバウロは槍を持って戦闘を駆けた。
バウロは盾を並べて防御しようとする兵達に向けて、左手を突き出して「ハッ!」と声を発すると、赤い炎が渦を巻き暴風と共に放出された。 その先にいた先頭の兵達は全身が燃え上がって、一瞬で炭の塊となった。 その後ろに続いた兵達は、炎の暴風で更に奥の兵達まで吹き飛ばされ、敵陣の中に大きな穴が空いた。 そこへバウロ達はなだれ込み、次々と兵達を打ち倒していった。 更にその陣形が崩れた所へ、横からケウラスが率いるバスランの兵が攻撃を加えたのであった。
ザウロー軍の前衛の中央は、両翼ほどではなかったが、大きく動揺していたところへ、ボークからの攻撃とブルカ族の弓による攻撃で次々と兵が倒されていった。 こちらも陣形が保てないくらい混乱しているのをみたハルは、槍を持った兵達に突撃を命じた。
ブルカ族の兵達は小柄な体ながら長い槍で密集隊形を作り、敵陣に対して槍衾をみまった。
戦況はザウローが思い描いていたものとは、全然違ったものとなってしまった。 敵に機先を制せられ、兵もこちらの方が倍以上も多いはずなのに、戦の流れは完全に向こうにいっていた。
(何たることだ。 このままではもう前衛は持たない。 後衛まで浮き足立っていて、これではいつ総崩れになって兵が逃げ出してもおかしくない。 全てあいつのせいだ) ザウローは戦場の上空で、戦いの成り行きを見ているカケルを睨んだ。
(こうなれば、直接オレが戦うしかない。 2度も失敗は許されないのだから)
ザウローは剣を抜くと、空中に浮かび上がった。 そして俺の前に現れた。
「しばらくぶりだな。 この前の借りを返してやる」 そう言うと剣で斬りかかってきた。 俺も剣を抜き、ザウローの剣を受けた。
二人とも空中で、もつれ合うように斬り合った。 ザウローの表情は必死で、凄まじい殺気を放っていた。
ザウローは剣では勝負が着かないと判断したのか、距離を取ると左手を振り下ろし“光の弧”を放った。 俺はシールドで防ぐと、剣を横様に振りその剣先にレムを載せた。 するとザウローの銀の鎧の腹部が割け、赤い血が噴き出した。 ザウローは腹に左手をあて、手に付いた血を驚いた表情で眺めた。
「おのれ、2度もオレの体に傷を付けてくれたな」 ザウローはそう言うと逆上し、突進してきた。 俺はザウローの剣をかわすと右腕を脇の下で挟んだ。 そして右腕をザウローの胸に当てると、レムを打ち込んだ。 ザウローの体はその衝撃でザウローの本陣の幕舎まで吹っ飛んだ。 ザウローは完全に気を失っていた。
グレンは俺たちの周囲を飛びながら、勝負の成り行きを見守っていたが、勝負が着くと戦場中に響き渡るように「グオーーッ」と咆哮した。
それを合図にするかのように、ザウロー軍は総崩れとなった。 ザウローの副官は、やむを得ず全軍の退却を命じた。
バウロは5キロほど追撃をした後、兵をまとめて戻ってきた。
俺が兵達をねぎらっているところへ、ケウラスがやってくると跪いた。
「カケル王、申し訳ございませんでした。 私は黒の王の脅迫に負けて、緑のレギオンを裏切るところでした。 どうか責めは私一人の命でご容赦願いたく」とケウラス。
「頭を上げてください。 バスランは裏切ってはいないではないですか。 我らに加勢してくださったではありませんか。 誰も罰する必要などありませんよ」
「それでは、お許しいただけるのですか。 カケル王の温情に感謝いたします。 今後バスランは、他の種族同様カケル王の命に従います」
「それはありがたい」 俺は言った。