3-5 無属性
セシウスたちと合流してから、2日ほどは特に問題なく行程は進んだ。 夕方もしくは夜になると、シローネは兵摩にレムの講義を行った。
「いい、この世界は6つの元素で出来ていると考えられているの。 火、水、木、金、土と光。 そしてこの6つの元素から得られるレムを集約して力や物質に変換しているのよ」
「なんか曜日みたいだな。 まあ難しいことは良いから、具体的にどうすれば使えるようになるのか教えてくれ」
「まず、どの属性に対する適正があるのかを調べないといけないわ」 シローネは袋から丸い小箱を取りだした。 フタを開けると、丸い容器の内側の六カ所に色とりどりの小さな宝石の粒のような物がはめ込まれていた。 真ん中から針が出ておりその針先に、細長い菱形を二つ繋げたような形の物が載っていた。 その内の一方が赤く塗られていた。 一見するとコンパスのような感じである。 シローネはそれを平らな地面に置くと、兵摩に言った。
「気持ちを楽にして、手をこの上にかざしてみて」
「こうかい」 兵摩が手をかざしてみた。 しばらくすると針の上の赤い菱形が少しずつ振動しはじめ、左右に揺れ始めたかと思うと突然急速に回り始めた。
「・・・・・」 シローネは、丸い目を更に丸く大きく見開き、兵摩の顔を驚きの顔で見つめた。
「ん、どうなんだい?」
「信じられない。 無属性だなんて」 それを聞いて、セシウスも驚いた顔をした。
「えっ、適正がないってこと?」
「そうじゃないわ、すべての属性のレムを使える可能性があるということよ」
「それって、すごいことなのかい」
「そうね、とっても。 そんなひとは12王以外では聞いたことがないわ」
「えっ、そうしたらどんな魔法も使えるということかい」
「そんなに単純ではないわ、12王でさえ得意、不得意があって実際には使えるレムには偏りがあると言うわ」
「それで、次はどうするんだい」 シローネは右手でヒゲを触りながら、少し考えていた。
「順番をかなりすっ飛ばした、乱暴なやり方だけど、大丈夫かもしれない。 あなた今たばこ吸いたい?」
「ああ、そうだな。 それがどうした」
「一本出して」
「良いけど、どうするんだ? もう残り少ないんだから、無駄にしたくないんだけど」 ポケットからつぶれかかったたばこの箱を取りだし、一本引き出して渡した。
シローネは地面に土で小さな山を作り、そのてっぺんにたばこを刺した。
「いい、両手をたばこに近づけて、もっと、そう手のひらを向けるようにして。 そうしたら、たばこの先をみつめて。 もっと力を抜いて楽にして、たばこの先に火がついているイメージを浮かべて“火よ、点け”、と強く念じる」 兵摩は言われるとおり念じてみたが、何もおこらなかった。
「もっと強く、たばこが吸いたいんでしょう。 火が点かなければ、たばこは吸わせない」
「なんだと」とその時、たばこの先のところから、突然火球が現れた。 たちまちバレーボールほどの大きさになり、熱さから思わず手を引っ込めると、火球はたばこを一瞬で燃やし尽くし消えてしまった。 シローネもセシウスも驚いて、顔を見合わせた。
「ああっ、俺のたばこが・・・・」
「今の感覚を忘れない内に、もう一度よ。 この木の枝の山に火をつけてみて」 レオンがたき火をしようと木の枝の山をつくり、今まさに火をつけようとしていたところだったのだ。
「ちくしょう、俺のたばこ」
「たばこのことは忘れて、木の枝に意識を集中して」
「ああ、たばこが吸いてー」 次の瞬間、枝の山が突然燃え上がった。
「何なの、こんな人見たことないわ」