14-12 バスランの戦い(1)
昼、バスランの北
森の中に潜伏しているスウゲンの元に、ハルが現れた。
「バスランから北へ向う街道に、10騎ほどの黒の兵に守られた馬車が北へ向ってやってくるとのことです」とハル。
「やはり、そうか」とスウゲン。
「どう言うことだ」とバウロ。
「説明は後です。 直ぐに馬車を止めてください。 馬車の中の人物は傷つけないようにお願いします。 兵は取り逃さないようにしてください」
「承知した」 バウロは騎竜に乗った部下を10名連れて、街道へ向っていった。
バスラン、夕方
スウゲンが街に入ると、夕方になっても街中は慌ただしかった。 馬車をケウラスの邸の前に止めると、家人が慌てて邸の中に駆け込み、しばらくするとケウラスが出てきた。
「貴方はどちら様です」とケウラス。
「私はカケル王のサムライのスウゲン・ラウと申します。 実は道で馬車を拾いまして、お話を聞いたところそちら様の者だと言うことなのでお連れいたしました」
そう言うと、一緒に来ていたハルが騎竜を下りて馬車のドアを開けた。
馬車の中から7才ぐらいの女の子が飛び出し、ケウラスの体に抱きついた。 その後から5才ぐらいの女の子と3才ぐらいの男の子が続いた。 最後に若い女性が泣きながら下りてきた。 ケウラスは驚いた。
「お前達、よくぞ無事で」 ケウラスは娘を抱きしめた。
スウゲン達は邸の中に通されると、ケウラスからあらためて礼を言われた。
「ケウラス殿、こちらも一応事情は把握しているつもりですが、バスランがどう行動されるおつもりなのかうかがいたい」とスウゲン。
ケウラスはスウゲンの目を見つめ、苦悶の表情をすると話し始めた。
「我らは、カケル王を裏切るつもりでした。 我が家族とバスランの人々の命を守るためでした。 だがそれは間違っていた。 道をはずれた行為でした」
「状況から判断すれば、無理からぬことでしょう。 ですが我々は必ず勝ちます。 もう一度お考え直しください」
「分かりました。 我々は緑のレギオンに加勢いたします」
「ありがとうございます」
「ですが我々はどのようにすればよろしいでしょう」
「ではこのように・・・・・」 スウゲンは今後の作戦について説明した。
「承知いたしました」
ザウロー軍は夕方に、バスランの北東3キロのところまで到着するとそこで宿営した。 ここに軍を留めたのは、森に潜伏している緑のレギオン軍に、『バスランを攻撃するぞ、止めさせたかったら出てきて止めて見ろ』とメッセージを出しているのである。
「バスランに出した使いはまだ戻っていないのか?」 ザウローは部下に尋ねた。
「はい、一人も戻っておりません」
「何かあったと言うことか。 まあ良い、明日バスランの奴らの動きを見てみよう。 我らに従うなら良し、さもなくば踏みつぶすだけだ」
翌朝、ザウロー軍は軍を6つに分け、前後2列の陣を敷いた。 するとバスランから、ケウラスが率いる約3千の兵が出てきた。 ザウロー軍の斜め前、1キロほどで兵を止めた。
バウロは海兵部隊とブルカ族の兵を率いて、森の中から現れた。 更にその後ろから、アドルが率いるマブル族が続いた。 3つの兵団はザウローの陣に向かい合う形で陣を敷いた。
「ふん、寄せ集めの兵ではないか。 装備もバラバラ、兵数も総勢8千と言うところか。 恐るるに足らぬ、一気にたたきつぶすぞ」 ザウローが攻撃開始の命令を出そうとしたとき、空に二つの黒い影が現れた。
俺はグレンと一緒に戦場の上空を飛び、両軍の間の空中に留まった。 すると両軍で大きな声が上がった。 しかし両軍でその声の意味は違った。 マブル族やブルカ族などで上がったのは、「王様が来た」という歓声であったが、ザウロー軍で上がったのは「なぜドラゴンが敵に加勢するのか」というどよめきの声であった。
昨夜、俺が砦でスウゲンと状況の確認のやりとりをしていた時だった。
「どうですか」
「状況は厳しいですね。 策を施す時間もなかったので、ガチンコのつぶし合いになります。 勝てたとしてもこちらの損害もかなりのものになると思います」
「そうですか、それはまずいですね。 そうだ、フィーゲルのボーク部隊3千をそちらに回しましょう。 今夜夜襲をかけるため来ることになっています」
「それは有り難いですね。 それともう一つお願いがあります。 カケル様、明日はこちらにおいで願いたいのです。 こちらの兵はいずれも緑のレギオンの正規兵ではありません。 どうしても士気が落ちてしまいます。 ですのでカケル様がお姿をお見せになるだけで兵の士気は全然違ってきます。 それとグレンをぜひお連れください」
「分かった。 今夜移動しよう」
何かこのような凝った演出は芝居がかって嫌だったが、スウゲンが是非にと言うことで押し切られてしまったのだった。
俺は右手を上げ、黒のレギオン軍の方を指さした。 するとそれを合図にグレンが敵軍の前の地面一帯に大きく炎を吐いた。 それが開戦の合図だった。
森の奥から急に、空に黒い一団が浮かび上がった。 フィーゲルが率いる3千のボーク部隊だった。 黒い一団は黒のレギオンの上空で、次々と光の矢を浴びせた。 ザウローの兵達は、ドラゴンで動揺しているところへ急に攻撃され、浮き足だった。 更にブルカ族が次々と矢を射かけた。
その様子を見て、バウロは全軍に突撃を命じた。 ザウローの軍が隊列を乱しているところへアドルを先頭に次々とマブル族の戦士が敵中に飛び込んだ。 海兵部隊も同様に敵中に飛び込んだ。 どちらも乱戦において本領を発揮するのだった。 慌てふためいているザウロー軍の兵士達は、抵抗する間もなく次々と討ち取られていった。
「何をやっている、隊列を立て直せ」 ザウローは大声で叫んだ。 だがその声は兵達の悲鳴や怒号でかき消された。
ケウラスは成り行きを見守っていたが、兵達に命令した。 バスランの3千の兵は、海兵部隊の方へ向っていたが、途中で向きを変え、ザウロー軍の左翼の側面に突撃していった。