14-11 バスランの選択
スウゲンとバウロはバスラン近くの森の中に潜んでいた。 ハルとブルカ族も一緒だ。 ユウキ達は今回の戦争においてバスランが一つの重要なポイントになると見ていた。 そのため、いつでも対応出来るようにここにスウゲン達を待機させていたのだった。
カケル王からの念話で、3万の軍勢がバスランに向ったと知ったスウゲンは対応策を考えているところだった。
(こちらは海兵部隊が3千、ブルカ族が2千である。 アドル殿とマブル族3千がこちらに応援に回ってくれるとのことだった。 これで8千か。 敵は恐らく夕方までには到着するだろう。 敵はそのままバスランを攻めるのか、翌朝にするのか)
「どうするつもりだ?」とバウロ。
「とりあえず、アドル殿とマブル族を待つ。 恐らく明日の早朝、バスランの北東の辺りで戦いになるだろう」
「それだけか? このままでは8千対3万だぞ。 いつもの小狡い策は無いのか?」
「今のところはな。 だがバスランで何らかの動きをするはずだ。 ハル殿、何人かをバスランまで斥候に出してもらえないですか」
「はい、それはかまいません。 ですがどのような事が起こるとお考えですか?」
「そうですね、恐らくバスランで出兵の準備がなされているでしょう。 それと北へ向う街道を馬車とそれを護衛する兵の一団が通ると思われます」とスウゲン。
「何を考えている」とバウロ。
「最悪のことです」
バスランの族長邸
ケウラスはどうすべきか迷っていた。 今朝早く10人の黒の兵士が騎竜に乗ってバスランに現れた。 兵の指揮官の口上はこうだった。
「これより黒のレギオン軍3万が、バスランを目指し南下を開始する。 アーセル王は、『バスランは兵を興し、軍に合流し緑のレギオン軍に対抗せよ』と仰せである。 これが最後の勧告である、どっち付かずの態度は認めない。 もし従わなければ、このままバスランを攻撃し、住民は皆殺しにする」
そしてケウラスが指揮官と話しをしている間に、他の兵士達が邸の中からケウラスの妻や3人の子ども達を半ば強引に連れてきた。
「良いか、この者達は人質として連れて行く。 バスランが我らに従い緑のレギオンを破ったあかつきには、この者達は無事にお前の所に戻れる。 だが我らに従わなかった場合は、お前は槍の先に突き刺されたこの者達の顔と対面することになるだろう。 そしてバスランは誰も住まぬ廃墟と化す。 よくよく正しい選択をされよ」 そう言うと、邸前に用意させた馬車に、怯えた妻と泣き出した3人の子どもを乗せ、北に向って街を出ていったのだった。
ケウラスは緑の王とは戦いたくないと思っていた。 バスランがこれまで繁栄出来たのは、緑のレギオンには敵対しないと言う昔からの約束を守ってきたからと言える。 同じドラク族とはいえ、黒のレギオンとの交流はほとんどなかった。 今更同じ種族なのだから、アーセル王に従えと言われても虫が良すぎると言うものだ。 どちらか一方に与せよと言うならば、迷わずカケル王と言うだろう。 あの王はとても好感が持てる。 それに“竜朋”でもあるようだ。 だが、冷静に状況を考えれば、緑のレギオンに勝ち目は薄いだろう。 それにもし緑のレギオンが勝ったとしても、その時は妻も子ども達も生きて会うことは出来ないだろう。 ケウラスはバスランを統治する者としての、最善の選択を迫られていた。
ケウラスは部下を呼ぶと、至急兵を集め戦の準備をさせるように命じた。
「はっ、かしこまりました。 敵はどちらですか」
「緑のレギオンだ」