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14-8 籠城戦(2)

 アーセル王は激怒していた。 飲みかけの杯を幕舎の柱に叩きつけた。

「なぜあんな砦一つ落とせぬ。 ザウローもトウキンも何をモタモタしている」

「・・・・・」 ガエンはここで何を言っても、火に油を注ぐことになることを知っていたので、黙って王の怒りが静まるのを待った。


 その時、幕舎に兵が慌てて入ってくると報告した。

「アーセル王、夜襲です。 物資の集積所が襲われています」

「なんだと。 いつの間に砦を抜け出たと言うのだ」

「砦からではありません。 空から攻撃を受けております」

「クッ、守れ! 好きにさせるな」 そう言うとアーセル王は幕舎から出ると、空を見上げた。

 集積所の方に火の手が上がっていた。 そしてその上空を無数の飛行物体が飛び交っていた。 暗いために形は明確に判別出来なかったが、飛行物体の前方からは黄色い光の筋が前方を照らしていた。 それが百以上飛び交っていた。

「何だあれは、飛竜か? いや違う」

「青のレギオンの飛行兵達でしょう。 話しに聞いた事がございます」 側にきたガエンが言った。

「青のレギオンだと、忌々しい」

 そして遠くに見える、トウキンとザウローの陣辺りでも同様の光が飛び交い、火の手が上がった。

 黒の兵達は下から弓を射かけるが、闇で姿がハッキリ見えない上に動き回っているため的を絞りきれずに、闇雲に射ている状況だった。 逆に上から兵達の中に矢を射かけられ、混乱して右往左往する有様だった。


 砦の防壁の上

 俺はフィーゲル達が攻撃する様を、ミーアイと見ていた。

「フィーゲル達がしっかり働いてくれているようですね」とミーアイ。

「そうですね。 これで諦めてくれればありがたいのだけれど」と俺。

「それは無いですね」 ユウキが側に歩いてきながら言った。

「これで兵糧を焼いたとしても、今回は王が出張っていますので、ゲートを使って物資を運び込む事が出来ますからね」とユウキ。

「そうか、向こうも使えるのだったな」

「でもこれは、敵兵には心理的に効くはずです」

 青のレギオンの兵達の攻撃は30分足らずで終了し、闇の彼方に消えていった。


 次の日、アーセル王は昨日以上に苛烈に攻撃を加えた。 フル金属鎧に大きな盾を持たせた兵を前面に立たせ、橋の両側を盾で固めながら慎重に橋を渡らせた。 防壁の兵達は矢を射ること無く成り行きを見守っていた。 そして黒の兵達が門前まで迫ると、防壁の上から大きなひしゃくで煮え立つお湯を浴びせたのだった。

「ギャーッ、助けて!」 湯を浴びせられた兵達は、その場で転げ回り、それに押された兵達が次々と堀に落ちていった。


 その様子を見ていたアーセルは怒り心頭に達し、自らが橋の手前まで来ると、兵を下がらせた。 そして右手を突き出すと、レムの爆風で門を一瞬にして破壊したのだった。

「今だ、突入せよ」 アーセルは命じた。

 兵達は盾で防御しながら一気に門の中に突入していった。 しかし百名ほど突入したところで、兵の流れが止まってしまった。 更に内部から兵の悲鳴が次々と聞こえてきた。 門を入ると前方と左は行き止まりで右に行くしか無かった。 しかし右に進むと四角い広場になっていて、右と前方は行き止まりだった。 左に曲がるとそこには第1の門よりも頑丈そうな門が控えていた。 そして四方の壁の上から一斉に矢を射かけられたのだった。 しばらくしても戻って来る兵はいなかった。


 ザウローとトウキンも渡河に苦労していた。 ロープを渡して渡河しようとしても、やはり途中でロープを切られてしまうのだった。 昨日と違うのは、トウキンが2千の別動隊を組織して、2キロ離れた森に木の伐採に行かせたことだった。 筏を作って渡河しようと言うのだ。

 しかしその日別動隊で無事に戻ってきたのは3百人ほどだった。 森に入った途端、森のいたるところからエルム族の矢が飛んで来たのだった。 怒った黒の兵達はエルム族を追って森の奥に入って行くと、今度は樹上や藪の中から武器を手にしたマブル族が襲ってきたのだった。 その結果、木を伐るどころか多くの兵達を失うことになった。


 アーセル王の幕舎

 「あのドラゴンは何だ。 なぜ敵の砦にいるのだ」とアーセル。 グレンの存在が、アーセル王を余計に苛立たせた。 日中、グレンは砦の上を飛び回り、建物の屋根で休憩するのだった。 兵達の間では動揺が起こっていた。 それと言うのもドラク族に取ってドラゴンは神聖なものである。 味方にいるのなら分かるが、敵にいるのは彼らにとって受け入れられない事実であった。

「緑の王は、あのドラゴンは友だと言っていました」とザウロー。

「友人だと、あの姑息な王が“竜朋”だと言うのか。 バカを申すな、有り得ない」 そう言うとアーセルは益々不機嫌になった。


 「どうするつもりだ、お前達。 これだけコケにされて」 ガエンを始め3人のサムライは言葉が無かった。 少し間をおいてからガエンが話し出した。

「これは籠城戦ではございません。 籠城戦とは本来、援軍が来るまでの持久戦ですが、これは籠城戦という体のゲリラ戦です。 砦の中にいるのはせいぜい3千から5千でしょう。 本体は森の中です。 砦に立て籠もっているのは、我らをこの場所に釘付けにするためと、軍を川で隔てて連携を取れなくするためです。 そうしておいて、奇襲攻撃によって少しずつ削っていこうという考えでしょう」


 少し落ち着いたアーセルは、静かに言った。

「どう対応する。 ガエン、策を述べよ」

「では、こうしては如何でしょう」 ガエンは自分の策を述べた。

「なるほど、こちらの土俵に無理矢理引き出すのだな。 やってみよ」

「はっ」 3人は応えた。


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