14-2 黒の王
黒のレギオンの王都
外交・儀礼大臣のキーファー・グランツは、レーギアで黒の王との謁見を控えて緊張していた。 前任のマウセルが罪に問われて失職して、4カ月ほど前に後任として任命されたのだった。 異例の抜擢だった。 中堅の実務担当者ではあったが、大臣等の要職には絶対に付けない家柄だったのだ。
今回の仕事は重要だった。 この謁見の成否によっては緑と黒のレギオンが戦争状態に突入するかも知れないからだ。 だがキーファーは気が重かった。 どう考えても黒の王がこちらの言い分に従うとは思えなかったからだ。 キーファーが玉座の前で控えていると、王が入って来て玉座に着席した。
「面をあげられよ。 使者殿ご苦労である。 こたびはどのようなご用件ですかな」 脇に控えた側近の者が言った。
キーファーが顔を上げると、そこには青白い肌ととがったあご、丸く大きな目をした人物がいた。 青白いと言っても病弱なイメージはなく、彫りの深い眼窩からはこちらの意図を見抜こうとするかのような鋭さを感じた。 黒の王は見た目では40代だが、既に在位55年とのことだった。 体はがっしりとしており、まだまだ血気盛んで、短気だと言う噂であった。
「この度は黒の王におかれましては、ご健勝のこと・・・」キーファーはひとしきり外交辞令を述べてから、本題に入った。
「オーリンの森の東部において行なわれている、黒のレギオンにおける入植につきまして、直ちに止めていただきたい。 オーリンの森につきましては、我が緑のレギオンの統治下にあることは、ご存知のはずです」
「これは異な事をおっしゃられる。 グラッツ山の東側には千年も前から我がドラク族(竜人族)が住んでいる。 オーリンの森の東部については我がレギオンの統治下にあることは明白である。 今頃になって我らに難癖を付けられるのは心外である」
「いいえ、グラッツ山の東部に居住されているドラク族は、千年もの昔に戦禍から逃れて緑の王に許された者達です。 彼らは緑の王の保護下にある者達です。 今入植が進められているのは黒のレギオンからの移住者達です。 これは侵略行為と言われても申し開き出来ませんぞ」
「何をバカなことを、盗人猛々しいとはこのことだ。 我々から藍のレギオンを盗んでおいて良くそんな事が言えるな。 オーリンの森の東部がドラク族の物であることは自明の理だ。 これについてこれ以上難癖を付けるのなら、こちらは容赦しない。 良いか青二才の王に良く言っておけ、ドラク族に手を出したらこちらは力によって保護する。 これは警告だ」 王が興奮気味に言った。
(やはりこうなってしまうか。 向こうは確信犯だ) キーファーはこれ以上の説得は無理だと判断した。
「どうやら認識の相違があるようですね。 ですがこちらもそちらの行為を認める訳にはいきませんので、そちらの行動次第では適正に対処させていただきます」
(これで交渉決裂だ。 戦争になるのか)キーファーは思った。
「言っておくが、我らは橙のレギオンや水晶のレギオンのようには行かないぞ」王が言った。