14-1 暗雲
年が代わり、冬が終わろうとしていた。 俺は相変わらず三つのレーギアを回って政務に忙殺されていた。 青のレギオンについてはミーアイがいるので、基本的には直接口出しはしなかったが、ミーアイから色々と相談された。
ユウキは、緑のレーギアの北側に大きなドッグを建て、そこで飛空船の建造に注力していた。 森の木を切り出し、ボークの技術者と藍のレギオンの船大工と一緒に設計を検討し、試作品の製作を進めていたのだ。
緑のレーギアの会議
トウリンから一つの報告があげられた。
「昨日、軍の方にグーツ族から訴えが入りました」
「グーツ族?」と俺。
「グラッツ山の北東に住む種族です。 主に農業や狩猟で生計を立てておりますが、元々はトンネルや採掘などの土木工事が得意な種族です」とファウラ。
「グーツ族の訴えでは、最近彼らの街の南側に竜人族の入植者が増えているとのことです。 彼らはもっと南の竜人族の街からの移住ではなくて、黒のレギオンからの入植だと言うのです」
「えっ、それって黒のレギオンから勝手に入ってきているということかい」
「そうです」とトウリン。
「なぜそんな事を・・・」
「戦争のためでしょう」とユウキ。
「どう言うことだい」
「黒のレギオンが、我々と戦争をする決意をしたと言うことでしょう。 その内、黒のレギオンから通告してくるでしょう。 『オーリンの森のグラッツ山から東の地域は、昔から我らドラク族(竜人族)が住んでいた土地だ。 今回更に入植を進めることとした。 こうした我らの権利を妨害する者に対しては断固たる処置をとることを警告するものである』というようなことをね」
「それって森の東側の土地は黒のレギオンの物であると宣言するようなものじゃないか」
「そうです。 当然我々が黙って見ているとは思っていないでしょうから、戦争を仕掛ける口実にするつもりです。 我々が軍を動かせば、人民を守るためと言って向こうも軍を動かすはずです」
「どうするつもりだ」
「とりあえず、外交大臣を派遣してむこうのレギオンに抗議しましょう。 それで向こうが退くとは思えないですが、何の抗議もしなければこちらが認めたと取られかねませんので」
「分かりました。 グレアムさん、外交大臣を向こうに送ってください」
「承知いたしました」とグレアム。
「それと、セシウスさん、トウリンさん、ユウキと共に、戦争の場合の対応策の検討に入ってください。 それから、森の東部の状況を確認させてください」
「承知いたしました」
飛空船のドッグ
俺は目の前の物体に驚いた。 ユウキが飛空船の試作品を造っているのは知っていたが、これほどの物とは思っていなかったのだ。 ユウキも驚かせたいから出来上がるまでは見ないで欲しいと言っていたからだ。
それは正に三角の翼の付いた船と言うべき物だった。 その巨体はとても試作品とは言えなかった。 俺は数人が乗れる程度の大きさの物を想像していたからだ。
「いかがですか」とユウキ。
「驚いた。 失礼だけど本当に飛ぶのか」
「飛びますよ、これから試験飛行をいたします。 試乗なされますか」 ユウキの隣にいた青のレギオンの技師が言った。
「ええ、是非」
「えっ、これに乗るのですか」 エレインは出来れば辞退したいというような顔をした。
ドッグの外に引き出されると、俺たちは乗り込んだ、当然警護班の者たちもだ。 中は荷物を積み込む事を想定しているため内部はがらんとしていた。 操縦は甲板の上に設けられた操縦席で行なうとのことだった。
先ほどの技師が操縦席に座ると、ガラスで覆われた拳大の黄色い石の上に左手を載せた。 すると黄色の石が輝きだし、船が静かに浮き出した。
「飛行自体は、あの飛空石で行ないます。 操縦者の意識に反応して浮力を調整しています。 翼は速度が出てくると浮力が発生しますので、飛空石の負担を軽減するのと、飛行中の安定性、操縦性に寄与します」 ユウキが説明した。
「あんな大きさの石で十分なのか」
「ええ、それにあのエルム族の村で手に入れた摩獣石を組み合わせているので、あれで十分なのです」
「なるほど」
技師が十分高度が出ると船を前に進めた。 前にある操縦桿を右に倒すと、船体が静かに右に傾き方向を変えていった。
「試作品と言うより、もう十分実用で使えるんじゃないか」
「色々課題はあるんです。 もっと軽量化をしたいのですが、アルミがないんです。 それに車輪を付けたいのですが、ゴムがないのでタイヤが作れないのと、車軸が持たない。 改良点は山積みです」
「じゃあ着陸はどうするんだ」
「船底を鉄板で保護しています。 徐々に速度と高度を落としてのソフトランディングです」
飛空船は王都の上をゆっくり旋回しながら飛行した。 街の人々は足をとめ、こちらを見上げて指を指していた。
「ねえ、これ落ちないよね。 アタシ一度乗った船が沈んでいるから、こういうの出来れば避けたいんだよね」とエレイン。
それから約小一時間、色々なテストを行ないながら飛行を続け、ドックの前に戻ってきた。




