13-5 武術大会(3)
準決勝の第一試合は、トウリンとガロンだった。
ガロンが棒を上下左右自在に操りながら連続攻撃をしかけるも、トウリンは紙一重のところでかわしながら、隙をうかがっていた。 しばらくガロンの一方的な攻撃が続いたが、トウリンがガロンの攻撃パターンを見切ったのか、ついに攻撃をしかけようと身構えた。
トウリンはガロンが上から振り下ろした棒を、かわしながら前に出ると一気に間合いを詰めた。 そして剣をガロンののど元に突き上げた。 しかしガロンも上体をのけぞるようにしてかわしながら、棒をトウリンの胴に打ち込んだ。 しかしその棒は体勢が崩れながらの打ち込みなので威力はなく、トウリンの剣で難なく防がれてしまった。 ガロンは上体を戻すとそのまま右手でトウリンを殴ろうとした。 トウリンはそのままガロンの右腕を抱えると、勢いを利用して前方に転がすように投げた。
ガロンが地面に大の字に倒れた。 その時頭に被っている鉄の仮面が地面にぶつかり、留め具が壊れた。 仮面が頭からはずれた。 ガロンは慌てて仮面を拾って着け直したが、一瞬赤い顔が見えた。 ガロンにとっては戦いそっちのけだった。
「勝負あり、勝者、赤」 審判がトウリンの勝利を宣言した。 ガロンに戦意なしと判断したのだった。
いよいよ準決勝第二試合、フィーゲルとレオンの試合だ。 フィーゲルが入ってくるのを見て、俺とミーアイの側に座っていた、セレナが言った。
「フィーゲル殿は3年前まで軍におられました。 バウマンと意見が対立して軍をお辞めになられましたが、当時バウマンよりも強いと噂されていました」
「そう言われれば、名前は聞いたことがあるように思います」とミーアイ。
「レオンさんも強いですよ」と俺。
レオンとフィーゲルの戦いは、大方の予想に反して二人とも慎重だった。 二人は睨み合ったまま、お互いが先に攻撃しようとはしなかった。 お互いに実力は伯仲していることが分かっていた。 些細なミスで勝負が決まるため、お互いに安易に動けなかったのだ。
先に動いたのはレオンだった。 レオンが突きを繰り出すとフィーゲルは右の剣で受け、左の剣でレオンの胴に斬りつけてきた。 レオンは素早く剣を切り返しフィーゲルの剣を払った。 更に今度は逆にフィーゲルの左の胴に斬りつけた。 フィーゲルはそれを後ろに下がりながら避けると、一旦距離を取った。
フィーゲルはレオンに対して斜めに構えた。 左の剣を前に、右の剣を背中の方に隠すような形だ。
(来る、左で牽制して死角から右で攻撃するつもりだな) レオンは備えた。
フィーゲルが左の剣でレオンの胸を突いてきた。 レオンは右の剣を警戒しつつ左の剣を最低限の動きで受け流した。 するとフィーゲルはそのまま右に回転しながら、右の剣でレオンの脚を払いにきた。 レオンも素早く反応し後ずさったが、フィーゲルの剣の方が一瞬早く、レオンの右腿に当たった。 レオンはかまわずフィーゲルの首筋を狙って剣を振り下ろした。 フィーゲルはそのまま前方に転がった。 レオンはそのまま追っていこうとしたが、右腿に痛みが走り、動きが一瞬遅れた。 フィーゲルは素早く立ち上がると、驚いたことに背中を向けたままレオンとの距離を縮めたのだった。 レオンが背中に斬りつけようとすると、体を半回転しながら剣をかわし右の剣をレオンの顔面に振り下ろした。 レオンはそれを剣で受けたが、それと同時に腹に衝撃を受けた。 フィーゲルの左の剣が胴に斬りつけられていたのであった。
「勝負あり、勝者、白」 レオンもついに負けた。
30分の休憩後、決勝戦が行なわれた。 フィーゲルとトウリンの対決である。
この二人の戦いは、正に名勝負と呼ぶに相応しかった。 フィーゲルは二本の剣を自在に操り、変則的動きから虚実を織り交ぜ多彩な攻撃を繰り出した。 それに対してトウリンは、フェイントに惑わされず冷静に受けていた。 素人目にはフィーゲルの手数が多いため、フィーゲルが押しているように見えたが、実際はほとんど互角であった。 勝負は10分以上続いた。
決着の瞬間は突然訪れた。
フィーゲルが右の剣で上段から斬りかかると、トウリンはその剣をしたから跳ね上げ、そのまま剣を弾き飛ばした。 するとフィーゲルは左の剣でトウリンの右の腹を突いてきたが、今度はそれを叩き落とされた。 トウリンは無手となったフィーゲルの腹を突いた。 その瞬間だった。 フィーゲルは体のさばきと左前腕でトウリンの剣を受け流し、間合いを詰めるとトウリンの胴に右腕を回して投げ飛ばした。 更にそのまま右膝をトウリンのみぞおちに落とすと、左の拳を顔面に入れる寸前で止めた。
「勝負あり、勝者、赤」 バウロはフィーゲルの勝ちを宣言した。 観客は歓声に沸き上がった。




