12-4 調略
俺たちは森で1時間ほど様子を見た後、森から開けた場所に出てきた。 俺は“ゲート”を開いた。 すると藍のレーギアで待機していた第2陣が出てきた。 来たのはスウゲン、アドル、アビエル、レオン、リース、ホーリー、エレイン、そしてハルの8名だった。 彼らも無言で現れると、すぐに森の中に入っていった。
「リオナ殿、中立のサムライの城まではどのくらいですか」 スウゲンは小声でリオナに尋ねた。
「セリナ様のフェアリー城はここから8キロほどです。 石積みの高い城壁に囲まれた城で、3千の兵が駐屯しています」
「分かりました。 ではそのサムライに会いに行きましょう」とスウゲン。
「そのサムライを王側につくように説得するのですか。 ですがもし失敗したら、逆に敵側に売られてしまいますよ」とレオン。
「確かにそのリスクはある。 だが、私がリオナ殿からうかがった話では、恐らくそんなことはしないだろう。 そのサムライがこちら側につけば、仕掛けはほぼ完成する」
俺たちはリオナに案内されながら、フェアリー城を目指して密かに移動した。 月明かりを頼りに影になるような部分を走る様は忍者のようだった。
緊張が走ったのは、城の近くの村を通った時に突然家の扉が開いて、酔っ払った男が出てきて路地で小便を始めたときだった。 俺たちは草むらに一斉に伏せて、男が家の中に消えるまでじっとしていた。
城の城壁の側までたどりついたのは、12時を回った頃だった。
「内部の構造は分かりますか」とスウゲン。
「来たことがあるのは1度だけですが、セリナ様の部屋のおおよその場所は検討がつきます」
「私とカケル様とリオナ殿で行きます。 皆さんはここに隠れていてください。 すぐに逃げ出せるように準備してね」とスウゲン。
「それでは危険です」とレオン。
「少ない方が見つかりにくいし、逃げるにも楽だ」
「スウゲンさんの言うとおりにしてくれ」
「承知いたしました」とレオン。
俺たちは見回りの兵がいないことを確認すると城壁まで走り、リオナとスウゲンは俺の体にしがみついた。 俺は二人の腰に手を回すと体を宙に浮かせた。 そして静かに城壁の上まで上った。 周りを注意しながらリオナの後についていった。
ある部屋の前まで来ると、扉の前に槍を持った兵が立っていた。 スウゲンがここで待てという仕草をすると一人で歩いて行った。 兵が気づいてスウゲンを見たが、急に崩れ落ちて廊下に倒れた。 スウゲンは我々を手招きした。
部屋に入るとそこには一人の女性が机に座って本を読んでいた。
「何者だ」 女性は部屋の壁にかけてあった剣を手に取ったが、リオナに気づいて剣を抜くのを留まった。
「セリナ様、リオナです。 しばしお話をお聞きください」とリオナは小声で言った。
「そちらは?」 セリナは倒れている兵士を見てから俺たちを睨んだ。
「ご安心を、眠ってもらっているだけです」とスウゲン。
「私はカケル・ツクモと申します。 緑と藍のレギオンの王です」
「12王だと、何故ここに・・・」
「私がミーアイ王の命により、救援を求めました」とリオナ。
「何だと。 バカな、そんな事をすれば戦いをなおさら拡大することになるではないか」
「いいえセリナ様、戦いを一刻も早く終結させるにはこれしかありません。 バウマンは銀のレギオンに加勢を求めたと聞いております。 お願いですセリナ様、ミーアイ王にお力をお貸しください」
セリナは部屋の中を見回すようなそぶりをした。
「それは出来ない。 ギーガン王の後継は誰もがバウマン殿と思っていた。 それをミーアイ殿が、王が亡くなられるとすぐに自分が王を名のった。 これはバウマン殿では無くとも、天聖球を盗んだと思われても致し方あるまい」
「セリナ様もそうお考えですか。 私は前王がお亡くなりになられる時に、その場におりました。 ギーガン様は確かにミーアイ様を後継に指名なされたのです」
「言葉だけでは信じられない」
「このままでは王都は銀のレギオンの兵によって、破壊され多くの人々が死んでしまいます。 あなたはサムライなのにそれでよろしいのですか」
「クッ、それでも私は動くわけにはいかない。 私はミーアイ殿を王と認めていないし、ミーアイ殿のサムライではない」
「セリナ様、私は貴方を見損ないました。 他のレギオンの王でさえ、命の危険を顧みず力をお貸しくださいますのに、貴方は自分の保身しか考えておられない」
「カケル様、これ以上は時間の無駄でしょう。 引き上げましょう」とスウゲン。
「分かった、そうしよう」 俺たちは部屋を後にした。
セリナはいつの間にか机の上に二つに折った紙片が載っていることに気づいた。 さりげなく掌に広げ中身を読むと、紙片を握り締めた。
俺たちが城壁の上まで来た頃、場内が慌ただしくなった。 兵達の足音が迫ってきた。 俺は二人を抱え空中に飛び出した。
アドル達の所へ戻ると、レオンが尋ねた。
「如何でした」
「失敗です」俺が言った。
「さあ、次は王に会いに行きましょう」 スウゲンは落胆した様子も無く言った。




