12-3 潜入作戦
3人は徹夜でまる1日かかって作戦を立案した。 その日の午後、3人は疲れた顔で報告に来た。
「カケル様、出来ました。 これなら大軍を送ること無く目的を達成することができるかも知れません。 しかしこれはカケル様の負担がかなり大きいことと、かなり危険が伴います。 アンドレアスがいたら絶対認めないでしょう」とセシウス。
(えっ、そうなの。 そんな危険な事を俺にやらせる気なの)
俺は不安になったが、平静を装ってとりあえず作戦を聞いた。
「なるほど、分かりました。 行きましょう」
(簡単に言ってくれるなあ。 これ死ぬんじゃないか)
「作戦は大きく3つのパートから成り立っています。 そして最も困難なのが潜入です。 リオナ殿の話しによると、天空島は十字のような形をしていて、長い部分で100キロ以上あるそうです」 スウゲンはテーブルの上に図を広げた。
「この真ん中に王都とレーギアがあります。 そしてこのとがった4カ所に城というか軍の基地があるそうです。 レーギアには王都守備隊兵が2千、そしてこの3カ所にはバウマンの兵が合計1万配置されているとのことです。 そしてここ、この基地にはもう一人のサムライの軍が3千いるとのことですが、現在このサムライは中立を保っているとのことです。 問題は如何に敵に気づかれずに潜入するかです。 リオナ殿話しによると、島に近づく者はこの4カ所の城(基地)で必ず検知されると言うのです。 鳥でさえ検知するそうです」
俺は少し考えてから、リーアを呼び出した。 するとメルも一緒に現れた。
「呼んだ~?」とメル。
「あんたじゃ無いでしょ。 何で一緒に出てくるのよ」とリーア。
「いいじゃ無い、暇なんだから。 あんたすぐサボるし」
「まあまあ、あの王の部屋に、敵から検知されずに潜入出来るような物ってあったかな」
「うーん、そんな物は無いわね」とリーア。
「あれ、藍のレーギアにはあるわよ」メル。
「えっ、あるの」 俺は喜んで言った。
「宝物庫に、レムを外部に漏さないマントがあったはずよ」
俺はスウゲンの顔を見た。
「宝物庫の奥に、王しか入れない部屋がございます。 あるとすればそこでしょう」とスウゲン。
「分かりました、後で見てみましょう。 そうとなれば問題の一つはクリアできるということですね」
「そうですね、これで成功の確率はぐっと上がると思います」とユウキ。
「それと今回は私も行きますので」とスウゲン。
「えっ」
「こちらで机上でいくら策を考えても、その通りにはなかなかいかないものです。 状況に応じて臨機応変に対応するためです」
その後、細かい部分を詰めると、後は出発時間を決めることになった。
「天空島がこのレギオンに最も近づくのは、今夜の10時頃になります」 リオナは見たことも無い丸い機器を見ながら言った。 時計のような針が3本あったが、コンパスのようでもあった。
夜の8時に俺とリオナは宝物庫にあったレムを消すマントを着て準備をした。 今夜は月が出ているため、比較的明るかった。 当初は3人で行くつもりだったが、マントは2着しか無かったのだ。 俺とリオナは向かい合うと抱き合うような形になり、離ればなれにならないように二人の体を帯で固定した。 リオナは恥ずかしそうに俺の首に腕を回した。 俺もドキドキしていたが、平静を装った。 それを見ていたアビエルが少し不満そうに、ほほを膨らませた。
俺はリオナの腰に腕を回すと宙に浮いた。 少しずつ加速しながらぐんぐん高度を上げていった。 足下には街の灯りが点々と固まって見えた。 他の時ならばきれいだと感じたのだろうが、今はそんな余裕は少しもなかった。
「もう少し北の方です」 リオナは手に持った機器で天空都市の方角を確認しながら、俺をナビゲートした。 レーギアを出てから1時間ほど経ったころ、やがて前方に雲の塊が見えてきた。
「あの雲がそのようですね。 用心しながら近づいてください」
「分かりました」
とその時、強めの風が吹き俺のマントのフードがめくれ上がった。
「やばい!」 リオナがすぐに直してくれた。
「大丈夫ですわ、たぶん」
天空島の最後部にある城
外部警戒室の中で当直にあたっていた兵士が、丸い大きなスクリーンに映ったオレンジ色の輝点に気づいた。 だが良く確認しようとすると、その輝点は突然消えた。
「おい、今あそこが一瞬光らなかったか」 隣にいた同僚に言った。
「えっ、そうか。 鳥でも横ぎったんじゃないか。 まあ問題ないんじゃないか」
「ならいいが」兵士はまだ見つめていた。
俺たちは雲をギリギリ避けながら、島の最後尾の城の近くの地面に降り立った。 どうやらここは麦畑らしい。 俺はすぐに帯を解くと、周りを警戒しながら近くの森まで二人で走った。 そして我々を捜索しにくる者が無いかしばらく観察を続けた。
(どうやら潜入には成功したようだ)




