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11-8 追放

 処刑の翌日、アンドレアスはセントフォレストを追放になった。

 ジュリアン、ホーリー、エレインが俺の前にそろって現れた。


「カケル様、実は・・・」 ジュリアンが言いにくそうに言い始めた。

「アンドレアスさんを見送りたいんですよね。 行ってください」

「ありがとうございます」 3人はうれしそうに言った。

「これを持って行ってください。 餞別です」 俺は白い布の袋に入った剣と革袋をジュリアンに渡した。

「これを、よろしいのですか」

「ええ、ただ目立たないところで渡してください。 それとこれも」 俺は手紙を手渡した。


 セントフォレスト郊外

 セントフォレストから北西に延びる街道沿いにアンドレアスとジュリアン達はいた。


「もうここで良い、お前達は帰れ」とアンドレアス。

「アンドレアス様、私もついて行きます」とエレインが泣きそうな顔で言った。

「ダメだ、お前達はカケル様を支えなければならない。 一緒に来ることは許さない」

「カケル様からこれをお渡しするように頼まれました。 餞別だそうです」 ジュリアンは袋に入った剣と革袋を渡した。 アンドレアスが革袋を開けると、金貨がぎっしり入っていた。

「こんなに、たくさん・・・」 次いで剣の方を開けてみて、アンドレアスは驚いた。

「これは、“雷光”じゃないか。 こんな宝剣もらう訳にいかない」

 ジュリアンは手紙も渡した。 アンドレアスは手紙を読んだ。


 “アンドレアスさん、貴方の今回の行動の真意は分かっています。 貴方を救ってやれず申し訳ありません。 今は一旦レギオンを離れてもらうしかありませんが、必ず貴方の名誉は回復させます。 それまでしばらく世界を見て回ってください。 私は貴方とのサムライの契約は解除していないですよ。 貴方は今でも私のサムライです。 カケル・ツクモ” アンドレアスは泣きそうになり、泪を流さないように空を見上げた。


 少し離れた丘の上から、俺はアンドレアス達の様子を見ていた。 俺は遠乗りに出かけると言って、ハルとアドルだけでレーギアを出てきたのだった。 俺はハルに耳打ちした。

「承知しました」 ハルはニッコリ笑ってそう言うと、騎竜を走らせて丘を降りて行った。


 ハルはアンドレアス達の前に来ると、騎竜を下りその騎竜を近くの木に繋いだ。 そして言った。

「あれ、私の騎竜はどこへ行ったのかな。 逃げられてしまったようだな。 まあしょうがないか」 そう言うと歩いて街道を戻り始めた。 それを見ていたエレインが言った。

「ハル、何を言っているんだ。 お前の騎竜ならそこに・・・」 ホーリーが制した。 ジュリアンが騎竜を連れてきた。

「さあアンドレアス様、野良の騎竜を捕まえましたので、これにお乗りください」

「あっ、そういうことか」とエレイン。

「まったく、どいつもこいつも私を泣かせるんじゃない。 私は二度と泣かないと誓ったのだ」 そう言いながら騎竜にまたがると、俺達がいた丘の方に一礼すると北に向って騎竜を進めた。 ジュリアン達から離れるにつれ、アンドレアスのほほに泪がつたわった。 アンドレアスが泣いたのは13年ぶりであった。


 アンドレアスはアストリア王国の下級貴族の家に生まれた。 グレーガー家は代々軍人の家系だった。 アンドレアスには5才上の兄がいて、軍人として将来を嘱望される優秀な人物だった。 しかしアンドレアスが15才の時にその兄が戦死してしまい、家督を継ぐ者がアンドレアスしかいなくなった。 アンドレアスは勝ち気な性格から、婿を取らずに自分が継ぐことに決めると、王国の士官学校に入学した。 負けず嫌いな彼女は、才能があったところへ努力を積み重ね、士官学校を首席で卒業した。 彼女は剣でも、レムでも他の学生に負けなかったのだ。


 アンドレアスが軍に配属されると、そこでもすぐに能力を発揮しだした。 しかしそれを嫉んで快く思わない者もいた。 隣国との戦争が始まると、上官が無謀な作戦を実行しようとした。 アンドレアスはその作戦に反対したが、上官はそれを恨みに思ったのか、アンドレアスの隊は最も過酷な戦場に配置された。 その結果、その戦いは敗北した。 アンドレアスの隊はほぼ全滅した。 生還したのはアンドレアスただ一人だけだったのだ。 顔や全身に傷を負いながらも生還できたのは、部下達のおかげだった。 100人いた部下は戦場で勇敢に戦ったが、劣勢は覆らず30人ほどになった。 敗戦が決定し退却を始めてからも、敵の追撃は激しく部下達はアンドレアスを守りながら戦い、1人欠け、2人欠けしていき、本陣に帰還したときにはアンドレアス一人になっていた。 アンドレアスは泣きながら一人で戦い、ようやくたどり着いたのだった。 それに対して上官は、今回の敗戦の責任をアンドレアスにかぶせ、軍法会議にかけようとしたのだった。 アンドレアスは激怒し、その上官を斬ると、軍を脱走したのだった。


 その後アンドレアスは、野盗に襲われるが逆に首領を殺し乗っ取ってしまったのだった。 やがて彼女は周辺の同様の盗賊やごろつきどもを糾合し、傭兵団を組織したのだった。 その傭兵団は千人を超え、“レッドローズ”として各国で恐れられた。


 アンドレアスは騎竜に揺られながら、アイレスの事を考えていた。 このままではアイレスはダメになると思い、アイレスをレーギアから追い出したのはアンドレアスだったのだ。 そのため、アイレスが陰謀に荷担しているという噂を聞いたときには、自分が何とかしなければならないと考えたのだった。


(何とか心を入れ替えて、自立してくれると良いが。 オークリー様このような結果になり申し訳ございません)

 剣を背負ったアンドレアスの背中は、いつになく小さく見えた。


 レーギアに戻るとユウキが待っていた。 彼はバツが悪そうに言った。

「今回の件については、俺が悪かった」

「どう言うことだ」

「今回の貴族制の提案については、俺はチャンスと捉えた。 頭の硬い、旧体制に固執する者達の一掃に使えると。 俺が強硬に反対すれば、俺を邪魔に思う奴らが結託して俺を排除するように動くと思ったのだ」

「じゃあ最初から想定内だったと言うのか」

「そうだ、ザウフェルの情報により誰が動いているかも大体つかんでいたのだ。 だが俺の誤算は、アンドレアスさんがあのような行動に出るとは思わなかったことだ。 アンドレアスさんがあんな行動に出たのは、もちろんアイレス様のこともあったが、それだけじゃ無い。 アンドレアスさんは俺が殺されることを心配していたのだ。 何度注意しても俺が言うことを聞かないから、心配になって自分で奴らを潰そうとしたのだ。 牢でアンドレアスさんは、俺にお前の事を頼むと言われた。 お前には俺が必要なのだからとな。 俺はその時、俺のせいだと悟った、そして“すまない”と思ったのだ」

 俺はそれを聞いてしばらく考えていたが、静かに言った。

「アンドレアスさんは自分の行動には、後悔はしていないと思うよ。 アンドレアスさんを失ったのは、千人の兵を失うよりもこのレギオンにとっては大きいけどね。 俺は諦めていないよ。 いつかアンドレアスさんが戻ってくることをね」

「そうだな」


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