11-7 処罰
レーギア内は早朝から慌てふためいていた。 俺の所に昨夜ユウキが襲われたこと、その容疑者としてアンドレアスが逮捕されたことが一報として入って来た。 俺はその報に驚き、一睡も出来なかった。
(何故、ユウキとアンドレアスに何があったのだ。 訳が分からない)
朝食の最中にジュリアンが報告に現れた。
「昨夜襲われたユウキ様は無事です。 お怪我もされていないとのことです。 アンドレアス様は現在、ユウキ様を襲った容疑で街中の守備隊本部の牢に入れられているとのことです。 それから深夜、アウトス殿、マウセル殿、ガウザー殿、モーリア殿がこの件に関与した疑いで逮捕されております」
「何だって、一体どうなっているんだ」
「私にもまだ状況が飲み込めておりません。 しかし絶対に間違いだと思います」 ジュリアンも少し混乱している様子だった。
「私もそう思う、ユウキは今どこにいるのですか」
「スペンス殿のところで事情を聞かれているようです」
「分かりました。 事情が分かりましたらまた知らせてください」
守備隊本部
「お体の方は大丈夫ですか」 今回の事件の捜査を任された隊長のローリーはユウキに尋ねた。
「大丈夫です。 私は切られたふりをして川に飛び込んだだけですから」 そう言うとレーギアから襲われて川に飛び込むまでのいきさつを話した。
「アンドレアスさんは、何か話されていますか」
「こちらの問いには答えていただいております。 貴族制導入に積極的な一派が、それに反対しているユウキ様を排除しようとしたのだと言っておられます」
「仲間はだれですか」
「この連判状の6名だとのことです」 そう言うと連判状を見せてくれた。 ユウキはそれを見ると、違和感があった。 紙が通常の大きさよりも小さく、下の部分が少し斜めになっていたからだ。
「これは、下の部分が切り取られているのではないですか」
「私もそれを疑い、問いただすと『この6名だ』の一点張りなのです。 しかしアーレンに問いただしたところ、アイレス様の名前が出てきました」
「そうですか。 ローリー殿、もし前王のご息女が陰謀に荷担していたとなれば、大変なスキャンダルになります。 前王の御名にも傷を付けることになりますので、慎重にお願いします」
「分かりました」
「それにしても、こんなに早く容疑者を逮捕出来たのは何故ですか」
「それは、昨日の昼に匿名のタレ込みがあったのです。 具体的には投げ文があって『今夜、サムライのユウキが襲われる。 主犯はアーレン』という内容でした。 当初はいたずらだろうと思っていたのですが、ユウキ様が襲われたという連絡が入り、急遽アーレンの邸に兵達を送ったのです」
「なるほど。 ところでアンドレアスさんに合わせていただけますか」
「承知いたしました」
牢の前でユウキは、鉄格子ごしにアンドレアスと面会した。
「アンドレアスさん、ありがとうございます。 あなたのおかげで死なずにすみました」 それに対してアンドレアスは無言だった。
「あなたがこのような行動に出たのは、アイレス様のためですね」 ユウキは鉄格子に近づき小声で言った。 するとアンドレアスはその名前に反応して、アンドレアスも顔を近づけた。
「その名は出すな。 いいかその方は関係ない。 誰が何を言おうとだ」
「分かりました」 そう言ってユウキが帰ろうとした時だった。
「カケル様を頼む、カケル様にはお前が必要だ。 それからお前ももっと気をつけろ。 不満を持つ者は他にもいるぞ。 お前は今回不満分子をあぶり出そうとしたのかも知れないがこんなやり方を繰り返していたら、いつか殺されるぞ」
「分かりました、気をつけます」
「カケル様に、申し訳ありませんと伝えてくれ」
昼過ぎにユウキがやって来た。
「おい、一体どうなっているんだ」
「まあ、そうあわてるな、大体の内容はつかめた」 そう言うと説明してくれた。
「じゃあ、例の貴族制の導入に邪魔なお前を、思いを同じにする6人が謀ってお前を殺そうとしたと言うことか。 だが腑に落ちないのは、アンドレアスさんは別に貴族制の推進論者では無かったと思うが」
「アンドレアスさんは、自分の言うことを聞かず勝手なことばかりする王に、レギオンの危機感を持ち、それをそそのかしているのが俺だから、俺を排除する考えにのったと言うことらしい」
「えっ、俺のせいか? だがその話しも違和感あるなあ」
「ああ、それはこじつけだ。 真意は別にある」
「何だ」
「じつは、仲間はもう1人いたようだ。 アイレス様だ」
「アイレス様って、前王の娘のか」
「そうだ、アンドレアスさんはどこかで今回の企みの情報を得たのだと思う。 そしてアイレス様も関わっていることもだ。 それでアイレス様を守るために、自ら奴らの話に乗ったふりをして仲間になったのだと思う。 だから俺の暗殺の実行部隊に加わったのも、逆に俺を助けるためだと思う。 もし本当にアンドレアスさんが俺を殺そうとしたのなら、俺はここにはいないよ」
「ならばアンドレアスさんは、アメリカの麻薬組織の潜入捜査のようなことをしたということだろう。 すぐに釈放させなければ」
「まて、話はそう単純ではない」
「どう言うことだ」
「アンドレアスさんは仲間にアイレス様の存在を認めていない。 そして多くを語っていない。 このまま罪を認めて他の者と一緒に自分を処罰させるつもりだ」
「何だって。 ダメだ、そんなこと。 アンドレアスさんは悪くないじゃないか」
「そうは言っても、全てを明らかには出来ない以上、表面的にそろっている証拠で公平に裁くしかない」
「そんな、アンドレアスさんを罰するなんて出来ないよ。 何とかできないのか。 そうだこの前のレギオンの法の特別条項で・・・」
「ダメだ、あれは乱用できない。 今回俺はこの通り生きている。 未遂と言うことで出来るだけ軽い罪状にするしかないだろう。 いずれにしろ、他にもレギオンの重臣達が関わっている。 この衝撃は大きい。 出来るだけ速やかに決着をつける必要がある」
3日後、レーギアの会議室
スペンスがこれまでの調査結果を報告した。
「これだとどのような罰になるのだ」とセシウス。
「今回の件は、王に対する罪ではありませんので、あくまでユウキ殿に対する恨みからくる殺人未遂事件として処理したいと考えております」 法務・学術大臣だったガウザーの次席の者が答えた。
「アンドレアス、アウトス、マウセル、ガウザー、モーリアの5名は、鞭打ち100回の上、財産没収、そしてレギオン追放。 アーレンは罪状が更に実行犯2名の毒殺があるため、死刑。 これが妥当かと考えます」
「レギオンの追放までしないとダメですか。 謹慎ではダメですか」
「カケル様、これは他の者への見せしめとしての意味も有りますので、厳罰にしないと意味がありません。 これでも軽い方だと考えます」とユウキ。
「追放だと、アンドレアスさんをレギオンに復帰させてやれないではないですか」
「それは諦めてください」とユウキ。
「分かりました、それで進めてください」 俺は了承するしかなかった。
5日後、セントフォレストの中央広場
アーレン以外の5名の公開処刑が実施された。 広場に引き出された5名は並んで跪かされ、5人の刑の執行人に同時にむち打たれた。 アンドレアス以外は背中にむち打たれる度、大きな悲鳴を上げた。 そのたびに周りを囲んで見物している群衆からは歓声が上がった。 レムによる保護は使えないように、脇でレム使いによって監視がされていた。 10回前後でシャツの背中は破れ、血が滲み始めた。 アンドレアスの背中には幾つもの古い傷があった。 アンドレアスだけは顔を苦痛に歪めながらも、けっして弱音を吐かなかった。 他の者達は最後の頃には泣きじゃくり許しを請うた。 群衆の中に泪を流しながらアンドレアスを見ていた者達がいた。 ジュリアン達だった。




