11-6 刺客
アーレン邸
「我々の直近の目標であります貴族制の導入のためには、ユウキが障害になっています。 アーレン殿それに対する策の方の準備はいかがですか」とアウトス。
「ユウキの排除のための刺客を準備出来ました。 レギオンの手練れ達にも引けを取らない者達を5人雇いました。 レーギアからの帰路を襲います」とアーレン。
「だが奴も一応サムライだぞ。 レムも使えるし大丈夫なのか」とモーリア。
「そこで、あなたに見届けていただきたいのです。 やる以上は、しくじりは絶対避けなければいけません」とアーレンは7番目の同志に言った。
「それは刺客がしくじった場合、私自身の手で始末をしろと言うことですかな」
「そうしていただけると助かります。 あなたならし損じることは無いでしょう」
「いいでしょう、決行はいつです」
「3日後の夜です」
「承知した」
3日後の夜
ユウキはその日レーギアからの帰りが遅くなってしまった。 と言うのも王とファウラと一緒に夕食を取っていたからだ。 レーギアから街中にある質素な下宿部屋まで歩いて30分くらいだった。 王からはもう少し大きな家を借りるなりすればとは言われていたのだが、ユウキは断っていた。 独り者で、寝るためだけに帰るようなものだから、1部屋あれば良いと考えていたからだ。
時間は夜の8時を過ぎたころだった。 通りには所々街灯が点いていたが薄暗く、人は誰も歩いていなかった。 街を北東から分断するように流れるメーヌ川にかかる石の橋を渡ろうとした時だった。 橋の向こうから3人の男が歩いてきた。 ユウキはかまわず橋を渡り始めた。 すると後ろからもいつの間にか3人の男が歩いて来るのが分かった。 静かな薄闇の中で石畳に響く男達の靴音が近づいて来た。 男達は一様に茶色のコートに黒の帽子をかぶっていた。 襟を立てたその姿は、秋になって少し肌寒くなってきたとはいえ、少し違和感があった。
ユウキは腰の剣を確認した。 橋の中ほどまで進んだ時、前の3人は橋を塞ぐように広がると剣を抜いた。 それと同時に後ろからきた3人も橋を塞いだ。
(なるほど、どうしても逃がさないということか) ユウキも剣を抜いた。
前の3人が剣を振りかざして無言で駆けてきた。 後ろの3人は様子見なのか動かなかった。
真ん中の男の剣が打ち込まれと、ユウキは剣で受けた。 静寂の中に金属のぶつかり合う高い音が響き渡った。 男は続けざまに攻撃をしかけた。 それに対してユウキも冷静に渡り合っていた。 ユウキもこの3カ月剣の鍛錬は続けていた。 時々、セシウスやアンドレアスに指導してもらうこともあったのだった。
なかなか勝負が着かない様子に、脇の男達も攻撃しようとした時、ユウキの側の闇から正確には石の橋からわき出すように黒い影が現れた。 その影は目にも止まらぬ速さで動くと、左の男の首をナイフで切り裂くと、そのまま止まらず右に動き右の男のみぞおちにナイフを突き立てた。 男は何が起こったのかも分からないまま死んだ。 影はナイフを抜くとそのままかき消すように姿が見えなくなった。 突然2人の男が倒れたので、真ん中の男は慌てた。 その瞬間、ユウキの剣が男の右腕を切り裂いた。 男は剣を落とすと、左手で傷口を庇いながら逃げようとした。
後ろ側で見ていた男達が今度は剣を抜いた。 真ん中の男が近づくとユウキに剣を打ち込んできた。 男がつばぜり合いをしながら、ユウキを橋の欄干まで押し込んだ。 顔が近づき、薄明かりの中に男の顔が見えた。 その顔を見てユウキは驚いた。
「あなたは、アンドレアスさん・・・」
「斬られたふりをして川に飛び込め」 そう言うとアンドレアスは離れざまにユウキを斬った。 アンドレアスの剣はユウキの服を切り裂いた。 ユウキは大きな悲鳴を上げると、バランスを崩して川に落下していった。 大きな水音がすると、ユウキの体は浮かんで来なかった。
アンドレアスは剣を鞘に収めると、2人の男と共に街の闇の中に消えていった。
アーレン邸
「アンドレアス殿、ではユウキ殺害は成功したのですね」 アーレンは満面の笑みで、アンドレアスを迎えた。 部屋にいたのはアーレンとアイレスの2人だけだった。 一緒に逃げてきた2人の刺客は別の部屋に通された。
「あの2人はどうなるのですか」とアンドレアス。
「人生最後の酒を楽しむことになるでしょう。 これで秘密が漏れることはなくなりました」 アンドレアスは眉をひそめた。
そこへ使用人が慌てて部屋に入ってきた。
「旦那様、守備隊が来ています。 邸を改めたいとのことです」
「何だと、どう言うことだ」とアーレン。
「何でも今夜街中で殺人事件が起きて、その犯人がこの邸に入るのを見た者がいるとのことです」 アーレンはアンドレアスの顔を見た。
「アーレンもうおしまいだ」とアンドレアス。
「まさか、あなたわざと・・・」
「そんなことしたら、あなたも同罪なのよ、あなたもおしまいだわ」とアイレス。
「アイレス様、連判状をお出しください」とアンドレアスは静かにいった。 アイレスはパニックになりそうになりながらも、アンドレアスの言葉に逆らえず、震える手で連判状を取りだした。
アンドレアスはそれをテーブルの上に広げると、ナイフを取りだしアイレスの名前の上から切った。 そして上の部分をポケットに入れた。 アイレスの名前の部分だけを親指と人差し指でつまむと、突然燃え上がった。
「アイレス様、急いで逃げるのです。 私に出来ることはこれくらいです」 そう言うとアンドレアスは、ズシッと重い皮の袋を握らせた。
「さあ、早くもう守備隊がやってきます」 アンドレアスに促されてアイレスは部屋を出ていった。
入れ違いに守備隊の兵達が入ってきた。 守備隊の隊長は、アンドレアスがいることに驚いた。
「私と、この主人を逮捕するんだ」 アンドレアスは静かに言った。




