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11-1 高まる不満

 それは、俺がグラッツ山の修行から戻った翌日の会議だった。 この日のメンバーは通常のメンバーの他に、財務・産業大臣のアウトス・ブランが財務状況の改善策を提案したいと言うことで参加していた。


 「カケル様、私は財務の担当責任者として、常日頃よりこのレギオンの財務改善に努めてまいりました。 その成果が実り、最近の2回の戦争にも関わらず国庫の破綻を防いでおります。 しかしながら今後の戦費増にも備えねばならず、増税は免れられません。 そこで私と法律・学術大臣のガウザー、外交・儀礼大臣のマウセルの連名で今回ご提案させていただきますのは、貴族制の導入です」とアウトス。 するとユウキはあからさまに不快な顔をした。


 「貴族制の利点は、任命された貴族に領地を与えることにより、森が開発され農地が増え、人口の増加、街や産業の振興、それにより兵士を増やすことができます。 更にその領地からの税を上納させることにより税収を増やすことが出来ます。 つまりこの案は、税収の改善のみならず兵の増強という問題も解決できる一石二鳥の優れた案です。 更に申せば、貴族に任命された者は王に感謝し、更に忠誠を尽くすことでしょう」と自信満々に述べた。

「グレアムさん、諸国に貴族制を導入しているところは多いですが、このレギオンに導入されていなかったのは何故ですか」 俺が尋ねた。

「歴代の王はこの森を愛しておりました。 ですので、必要以上に開発することを好まれなかったことが一つ。 それとなるべくレギオンの体制をシンプルにしておきたかったのだと思います」とグレアム。

「他の者は意見がありますか?」


 「私は反対です。 利点よりもマイナス点が多すぎます」とユウキ。 今度はアウトスが嫌な顔をした。

「まず、領地を与えればその領主は環境の調和など考えずに無秩序に開発しようとするでしょう。 その結果洪水や土砂崩れなどの災害が増えるでしょう。 そして森に住む他の種族と土地の権利争いが必ず起きます。 今、王が進められている各種族との融和とは逆行することになります。 更に兵が増えると申されましたが、その兵は誰の兵でしょうか。 王の命令に従うわけではありません。 それから税収が増えるとのことですが、それは微々たるものでしょう。 更に貴族制による弊害が出てきます。 明らかな身分制度が出来あがり、能力など関係無く生まれた身分によって将来が決まってしまいます。 レギオンのためには広く有能な者を登用すべきであり、これは時代に逆行する提案です」とユウキはきっぱり言い切った。 アウトスの顔はみるみるうちに紅潮し必死に怒声をこらえているようだった。 それを見ていたアンドレアスが言った。

「まあ、色いろな意見はあるだろう。 これはレギオンの体制を大きく変える提案だ。 もっと詳しく検討してから結論を出すべきだと思います。 如何でしょうか、カケル様」

「そうですね、これの導入による利点と不都合点を良く照らし合わせた上で結論を出しましょう。 それで良いですね、アウトスさん」

「承知いたしました」 そう言ったアウトスの顔は、まだ怒りが収まらない様子だった。


 会議が終了した後、アンドレアスがユウキを呼び止めた。

「おい、少しは物の言い方を考えろ。 いくらお前の言うことが正論であっても、あれでは相手の立場をなくしてしまう。 賢明なお前なら、こんなことを言わなくても分かるはずだ」

「いえ、彼は王の方針も理解していないし、レギオンのことを考えていると言うよりも自分達の利益しか考えていないのがミエミエでした。 それで聞いていて腹が立ってきて、ついあのような言い方になってしまいました」

「もっと自重するんだ。 でないと周りは敵ばかりになるぞ」


 レギオン内のアウトスの執務室

「どうだった、王の反応は」 今回の共同提案者であるマウセルとガウザーが待っていた。

「あのユウキの若造がぶち壊しやがった」

「えっ、ダメになったのか?」とやせた顔の気むずかしそうな男が、更に不機嫌そうに言った。

「アンドレアスが助け船を出してくれて、もう少し検討した上で結論を出すということになったが、このままでは難しいだろう。 とにかくユウキが邪魔をしやがる」

「まったくアイツは、王と親しいことを笠に着てやりたい放題だ」とガウザー。

「あいつだけではない、王はあんな獣人族をサムライにしたかと思えば、エルム族の嫁に、魔人族のサムライだとしかもあの女は王の愛人だという話じゃないか、今の王はイカレているぞ」とマウセル。

「マウセル、壁に耳ありだ、めったなことは言うものじゃない」とアウトス。

「とにかく、もう一度策を練り直す必要があるな」とガウザー。


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