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10-7 試験

 今日は修行の最終日だった。 午前中にいつもの日課をこなすと、アグレルが言った。

「午後に試験を行なう。 だがこの結果で一喜一憂することはない。 これはあくまで修行の成果を確認するものだから。 カケルは私と戦うのだ、真剣でな」


 試験では、2人ずつ好きな得物で戦うものだった。 もちろん真剣や本物の槍ではなかったが。 アドルとエレイン、リースとホーリー、レオンとハル、組み合わせはくじ引きで決められた。 いずれの戦いも白熱したもので、容易に決着がつかなかった。 いずれも修行前とは動きが格段に違っており、今回特に伸びたのはハルだった。 ハルは普段無口で控えめなため影が薄いが、何度もレオンをもう一歩のところまで追い詰めた。 今回は改めて彼の潜在能力の高さを感じられた。


 最後に残ったのは、俺だった。 俺は屈伸したり、肩を回したりしながら体をほぐしていた。 そこへ現れたアグレルの姿を見て、一同は驚いた。 そこに立っていたのはどう見ても30代にしか見えない美しい女性だった。


「うそ、これがアグレル様ですか?」とエレイン。

「用意はできたか? 今回は私も本気で行くぞ」 手にした赤鞘から剣を抜いた。

「これはゴードン王からいただいた剣だ」 アグレルは静かに構えた。

 俺も剣を抜いて構えた。 やはりアグレルは殺気を感じさせなかった。 だが、突然攻撃に転じるので、油断はできない。 そう思っていると剣が早速迫ってきた。 しかし今回は落ち着いてかわすことができた。 と言うより勝手に体が反応したと言うのが正しかった。 そしてこちらも同時に攻撃に移っていた。 アグレルもこちらの攻撃を読んでいたように、難なく受け流した。

「うむ、大分ましになったな」 そう言うとアグレルは笑った。


 今度はこちらから先手を打って攻撃にでた。 上段、下段を織り交ぜながら連撃を繰り出したが、ことごとく防がれた。 俺は別の手を試してみることにした。 剣でアグレルの胸をめがけて突いた。 予想どおりぎりぎりの間合いで下がったところで、剣先にレムを乗せたのだった。 剣先から旋風が巻き起こりアグレルの体を後方へ吹き飛ばした。 アグレルは飛ばされながらも後方宙返りをして体制を立て直した。

「ならばこちらもいくぞ」 そう言うとアグレルの気の質が変わった。 俺の体の皮膚が粟だった。 そして次の瞬間にはもう目の前にいた。 首を狙った剣が目の前に迫ったが、体を後ろにのけぞりなんとかかわした。 一瞬も気を抜けない、ひりつくような攻防がしばらく続いた。

「カケル様が別人のようだ」とレオン。


 俺はアグレルの剣を受けた瞬間に雷撃を発動させた。 剣を伝った電撃に、アグレルの体が一瞬固まった。 更にすかさず右手から火球を放つと、アグレルは右に転がり攻撃をなんとかかわした。 俺の放った火球はそのまま後ろの岩を溶かし崖の一部を吹き飛ばした。


「おい、私の家だけは壊すなよ」 そう言うと、次の瞬間には間合いをつめていた。

(くるぞ、何だ) 上から剣が襲ってきた。 剣をさばけずに剣で受けた瞬間、アグレルはニヤッと笑った。 アグレルの左の掌が俺の胸に触れていた。

(ヤバイ!) 次の瞬間、吹き飛んだのはアグレルだった。 アグレルが放ったレムを俺が逆にはじき帰したのだ。 アグレルは剣を杖のようにしてなんとか立ち上がると言った。

「クソッ、時間切れだ」 そう言うとアグレルの体は、空気の漏れた風船のようにしぼんでいくと、元の老婆に戻ってしまった。 そして少しよろめきながらも剣をしまって杖を持つと、俺の側まで来ると言った。


「少しは年寄りをいたわれ。 これを持つんだ」 そう言うと杖を俺に渡した。

「これであの岩を切ってみよ」 そう言うと庭の隅の大岩を指さした。

「えっ、それは無理でしょう」

「今のお前ならできるはずだ。 糸で果実を切るのと一緒だ。 さっきはできなかったが、あの剣先からレムを放出する要領でやれば出来るはずだ」

 俺は岩の前で杖を振りかぶり、呼吸を整えながら岩を切り裂くイメージを強く持つようにした。 振り下ろそうとした瞬間、アグレルが俺に向って言った。

「あっ、それから、その杖は私の一番のお気に入りだから、折ったりしたらぶっとばす」

「えっ」 俺は思いっきり振り下ろした杖を一瞬引き戻そうとした。 しかし杖はもう止まらず岩に当たった。 その瞬間岩がぱっくり二つに割れたのだった。

「そら、出来ただろう」

「凄い」 エレイン達が驚いた。 俺は杖が折れていないか心配になり端から端まで点検した。

「よし、これで修行は全て終了だ。 お前達は良くやった、私の想定以上だ」 エレイン達は歓声をあげて喜んだ。


 俺たちはアグレルに礼を述べると、帰路の準備にかかった。 何か礼をしたいと金貨の袋を置いて行こうとしたが、アグレルは受け取らなかった。

「バカ者、こんな山奥でそんな物、邪魔にしかならんわ」


 アンドレアスとの約束を守るため、帰りもゲートを利用した。 レーギアに到着すると、アンドレアスやセシウス、グレアム、ファウラ、アビエルが迎えてくれた。

「おお、何か皆たくましくなったように見えるな。 伝説の冒険者は凄かったか?」とセシウス。

「想像以上でしたよ。 セシウス様、一度私とお手合わせ願いたいですね」とレオン。

「ほう、大分自信を付けてきたみたいだな。 だが俺に勝てると思っているなら思い知らせてやらんとな。 じゃあ明日にでもやろう」と言って笑った。

「私もお願いします」とアドル。

「モテモテだな。 他にはいるか」とセシウス。

「私は遠慮しますよ」とリース。 ホーリー達は首を振った。

「カケル様、今夜は約束ですからね」 アビエルは微笑みながら俺の左腕に腕を絡ませてきた。

「ああ、そうでしたね」 俺はファウラの顔をみた。 ファウラは黙ってうなずいた。


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