10-4 弟子入り
俺達は表にでた。
「そうだな、まずは剣から見ようか」とアグレル。
「真剣ですが、大丈夫でしょうか」
「余計な心配は無用だ。 さっさと来い」 そう言うとアグレルは木の杖を構えた。 俺は少し心配になりながら“黒の閃光”を抜いた。 年老いたとはいえ伝説の冒険者と言うことで、殺気がすごいかと思ったら逆にそんな雰囲気は全然なかった。
(ほんとに大丈夫? 怪我でもされたら困ったことになるぞ)
「なんだ、来ないのか。 ならこっちから行くぞ」 そう言った次の瞬間には、俺はレムで保護する間もなく杖でみぞおちを思いっきり突かれていた。 俺は苦しみに息も出来ず、前に倒れ込んだ。
(く、苦しい。 何だあのスピードは、老人の動きではなかったぞ) 俺は呼吸を整えながら立ち上がろうとした。
「バカ者が、剣ならばもう死んでおるわ」 アグレルは何事もなかったように立っていた。
俺は何とか立ち上がると剣を構えた。 アグレルもまた杖を構えた。
(全然隙がない。 あんなやる気無さそうに構えているだけなのに)
俺は意を決して、上段から打ち込んだ。 アグレルは杖の先で円を描くように剣を受け流しながら、すかさず俺の首に打ち込んできた。 その瞬間の殺気は凄かった。 打ち込まれたのは杖なのに、俺は首が切り落とされると思ったほどだった。 恐らくこの人はこの杖でも、その気になればできるのではないかと思った。 アグレルは直前で杖を止めると、即座に引いた。
「分かった、お前のヘボさ加減はな。 次はお前の得意なもので来い。 レムも使って良いぞ」
レオンもエレインも声が出なかった。 自分達も剣を使う者としてその実力差がどれ程のものかが分かったからだ。
俺は剣を置くと、無手で戦うことにした。 左前にやや前傾で構えた。
「ほう、格闘術の方が得意なのか。 まあ剣よりはさまになっておるな」 そう言うとアグレルは杖を近くの石に立てかけると、両手を背中の方で組んだ。 腰が曲がったヨボヨボの老人にしか見えなかった。
(俺はだまされないぞ)
「いつでも良いぞ」とアグレル。
俺は一気に間合いをつめると左の上段突きを入れた。
「ほい」右手で軽く受け流された。 続けざまに右の中段回し蹴りを放つが、アグレルはしゃがみ込みながら回転し、俺の左の軸足を払った。 俺は倒されたがすぐに立ち上がった。 おれはすかさず突きと蹴りの連続技をしかけた。 しかしアグレルは少しも動ぜず、上体の反りと体の回転により触らせることもさせなかった。
(何だよ、この動きじいちゃんと戦っているみたいだ) 俺はだんだんイラついてきた。 左の突きをフェイントにして右の中段突きを出した時、手首をつかまれたかと思うと次の瞬間は空中で回転していた。 俺は頭にきて立ち上がるとすぐに左右の掌から火球を放った。 アグレルは手を後ろの回しながら、何事もないようにかわすと、間合いをつめてきた。 俺は旋風で吹き飛ばそうと右手を突き出した。 アグレルは俺のつきだした右手の掌に、左の小さな拳を“ちょん”と合わせたかと思うと、次の瞬間吹き飛ばされたのは俺の方だった。 20メートルほど吹き飛ばされて、しばらく動けなくなった。
それを見ていたアドル達は、開いた口がふさがらなかった。
「もう良い、だいたい分かった」 そう言いながら服の埃をたたいた。 俺はやっと立ち上がり少しふらつきながら歩いた。
「ダメだダメだ、どれもこれもなっとらん。 剣はまだまだだし、格闘術の方はまだ少しはましだが、レムは適当だし」 そう言うとアグレルはため息をついた。
「おぬし、本当に強くなりたいか」
「はい、ぜひ教えてください」
「教わったからとて強くなるとは限らないぞ。 それに修行は厳しいぞ」
「覚悟のうえです」
「分かった、ならば教えよう」
「ありがとうございます」
「あの、私たちも一緒に修行してもよろしいでしょうか」とレオン。
「勝手にするが良い」
「よっしゃあ」とレオン。
「ところでお前達は、どれ位の期間修行出来るのだ」
「正味25日というところです」
「何だと、なめとるのか」
「いえ、そう言う訳ではないのですが、それ以上はレギオンを空けられないのです」
アグレルはため息をつくと言った。
「ならば時間が惜しい。 早速始める」