9-2 北騎行
3カ月前
王選抜が行なわれ、カケルが最終候補者として最終関門を受けた日、ヒョウマはこれからどうするかをぼんやり考えていた。 するとそこへロレスの弟、クレオンが現れた。
「あんたはこれからどうするんだい?」とクレオン。
「さあな、だがここにはいられないな」
「ならば私と一緒に来ないか。 私なら君を12王にしてやれる」
「どうするんだ」
「今、王が不在のレギオンが4つあると言われている。 そこへ行って天聖球を手に入れるのさ。 君は天聖球の所有者になれるだけのレムの力はある、だが異世界からきた君はこちらの事情に疎い。 だから我々と手を組むんだ」
「あんたの狙いは何だ」
「私にも野望はある、だが私には王になるだけの力はない。 兄の二の舞になるつもりはない。 だから君と組むのだ。 君を王にして世界を動かす」
「なるほど、良いだろう。 具体的にはどうするんだ」
「ここを逃げる、しかも出来るだけ速やかにだ。 王が決まった後では、君がこのレギオンに忠誠を誓わない限り、君の力は脅威と感じ排除されるかも知れない」
「分かった、すぐ行動しよう」
その夜、ヒョウマとクレオンそれとロレスの3人の部下は、騎竜に乗って北に逃げ出した。 その後数日の間は、追っ手がかかるのを警戒して間道を利用したり、日中の行動を控えたりした。 5人はひたすら北に向った。 途中魔獣や野盗に襲われることもあったが、不運だったのは向こうの方だった。 約1カ月後水晶のレギオンの王都クリストアに着いた。
「これからどうするんだ?」とヒョウマ。 宿屋の食堂で夕食をとっているときだった。
「ここで山越えの装備を整え、更に北に向う」とクレオン。
「なぜ?」
「ここから行けるところで、可能性のあるレギオンは二つ、黄のレギオンと白のレギオンだ。 黄のレギオンはここから東の砂漠地帯にある。 仮にそこで首尾良く王になることが出来たとしても、周りを強力なレギオンに囲まれている。 恐らくこちらが力をつける前に潰されてしまうだろう。 かたや白のレギオンはこのゴルゴン山脈の向こう側だ。 一年の半分は雪と氷に閉ざされる厳しい環境だが、その分守りは堅い。 そして今は夏の季節で時期としては好機だ」
「なるほど、それでその白のレギオンで王になれる可能性はどれぐらいあると考えているのだ」
「良くて3割ぐらいだろう。 白のレギオンは前王が亡くなってから約5年になる。 その間に王なろうと冒険者達が大挙して挑んだが、未だに不在のままだ」
「良いだろう、3割ならば上等だ」
大陸一の山脈を越えるのに、一月近くかかった。 険しい山々、夏でも低い気温、めまぐるしく変わる天候、何度も命を落としそうになりながら5人は山越えに成功した。 それから北東方向へ10日、夏草が生い茂る草原を進みレギオンの王都ホワイトキューブに到着した。 街には雪のかまくらのような丸屋根の建物が無数に並んでいた。 壁や屋根は雪の重みや寒さから守るために石作りになっていた。 街の北側に巨大な石の立方体があった。 それは一辺が1500メートルほどの白い石作りで、不思議なことに石を積んで作られたのではなく、どうみても巨大な一枚岩を切り出したようにしか見えなかった。 地元の人に聞くと、これがレーギアだということだった。 正にホワイトキューブだった。 とりあえず街の宿屋に部屋をとると、宿屋の主人に話を聞いた。
「あんたら、冒険者かい?」 腹の出た大柄の主人が、洗い物をしながら無愛想に聞いた。
「ああ」クレオンが答えた。
「あんたらもレーギアを昇るつもりなのかね」
「もし、そうだとしたら?」 クレオンは用心しながら答えた。
「やめておきな。 12王なんて夢は見ない方が良い」
「何故だい?」とヒョウマ。
「前王がお亡くなりになって5年、その間に12王を夢見て1500人以上の腕自慢の冒険者やレム使いがレーギアを昇ったが、誰一人生きて帰った者はいない」
「多くの罠が待ち構えていると言うことかい」とクレオン。
「罠だけじゃない。 あの四角い岩の上は雲に隠れているけどあの上に更にらせん状の塔が立っている。 王になるにはその塔のてっぺんまで登らなければならないと言う話だ」
「てっぺんまで登ることが出来れば良いのか?」とヒョウマ。
「詳しくは分からないけど、そう言う話だ。 どうしても登るということならば、レーギアの入り口近くにある“熊の爪”という鍛冶屋の主人に聞くと良い」




