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8-9 王と王

 「あり得ない、こんなことはあってはならないことだ」 メルデン王は輿の高度を上げると、戦場全体を眺めつぶやいた。 水晶のレギオンの兵達は疲れ切っているようだった。 動きは遅く、反応は鈍かった。 もう神兵のカケラも見えなかった。

「メルデン王、もう退却するしかありません。 今ならこれ以上被害を大きくせずに退くことができます」とアンゲル。

 その時北東の方角から、迫る軍勢があった。 メルデンが砂埃をこらして見た。

「あれは、魔人族ではないか。 緑の王は他の種族の軍勢を味方につけたと言うのか? 有り得ない」

 魔人族2千は、ブラブ山脈を越えて敵の背後を突くように指示を受けていたのだった。 指揮をしているのはアビエルだった。


「クソッ、神の軍が負けることなどあってはならぬのだ。 虫けらどもめ、こうなったら私自身で、天罰を与えてくれるわ」 メルデンは空中に浮かんだ輿を前に進めると、立ち上がり両手を前に出した。 両手の親指と人差し指で丸を形作るようにすると、経典を唱えだした。 すると手の平から、まばゆい強烈な光が放出された。 その光が当たった部分の地面は焼け焦げ、そこにいた人間は敵も味方も関係無く、たちまち蒸発するように消え失せていった。 メルデン王は経典を唱えながら、光の束を徐々に前方に動かし始めた。


 「何だ、・・・」 俺は後の言葉が出なかった。

「あれが、水晶の王でしょう」とファウラ。

「敵も味方も関係無しだぞ。 ヤケになっているんじゃないか」とユウキ。

「ダメだ、止めなければ・・・」 俺はそう思った時には、既に空中に飛び出していた。 俺は一気に加速すると、メルデン王のところまで飛んでいった。 俺は飛びながら、水晶の王が乗る輿のような乗り物に向けて火球を打ち込んだ。

 メルデン王は光の放出を中断すると、右手を移動し手の前にシールドを発生させて、火球をはじいた。

「小僧、邪魔をするとは、神を恐れぬか!」とメルデン。

「もう勝負は着いた、軍を退いてください」

「お前が緑の新王か、なめた口をきくんじゃない」 メルデンは右手の人差し指を向けると、指先から赤い光が飛び出した。 俺はレムで体を保護したが間に合わず、赤い光は俺の左の肩に近いところを甲冑ごと貫いた。 俺は痛みと衝撃でバランスを崩し、地面に落下していった。 地面にぶつかる寸前に落下を止めると、俺は気を取り直して急上昇した。 すかさずメルデンの前まで行くと、右手で強力な旋風をぶつけた。 しかしメルデンは慌てず左手で前面にシールドをつくり、旋風を弾き飛ばすとつぶやいた。

「バカめ。 滅せよ!」 メルデンは右の掌を俺に向けると、強力な光の爆流を放った。 俺は両手で前面にシールドを張ったが、光の爆流に飲み込まれてしまった。 ものすごい光と熱の衝撃を受けそのまま100メートル近く吹き飛ばされた。 そのまま強烈に地面に叩きつけられると、そのダメージで俺は動けなかった。


 メルデンは輿を俺の側まで近づけると、地面にゆっくりおろした。 メルデンが輿から降りてきた、手には剣を握っていた。 俺が横たわった地面の周りは、衝撃で直径20メートルぐらいの大きな穴になっていた。

「さすがにあれだけの攻撃を受けても滅することはできぬか、一応は12王だけのことはある。 だが弱い、その程度で2つのレギオンの王だなどと笑止。 私自身の手で決着をつけてくれる」 そう言うと穴の中に入ってきた。 手に持った剣は、水晶の剣なのか透明の氷のような剣だった。 俺はメルデンの姿を見ることはできても、力も入らず体を起こすこともできなかった。 メルデン王が剣を振り上げ、俺の首をはねようとした時、頭上が暗くなったと思うとグレンがメルデンめがけて炎を吐き出した。

「グァーッ!」 メルデンは左手で顔をかばったが、腕と顔に火傷を負った。 その隙に穴に黒い影が走り込んだ。 そして俺の胴をつかまえると、穴を駆け上ろうとした、それはガルに乗ったアビエルだった。

「逃がすか!」 メルデンは剣を振り下ろすと、アビエルの背中を斜めに切り裂いた。

(クッ、死なない、カケル様を安全な所へお連れするまではアタシは死ねない)

「ガル、走って」 アビエルが叫ぶとガルは「ガゥ」と吼え一気に穴を駆け上った。

「クソッ、あいつを殺せばこっちの勝ちだったのに」 穴から顔を押さえながらメルデンが出てきた。 そこは水晶のレギオンの兵とアデル族の兵が混戦になっていた。

「もうダメです、メルデン王」 アンゲルが言った。

「やむを得ない、撤退だ」 そう言うと輿に乗り、空中に輿が浮かび上がった。

「撤退!」 撤退の角笛が鳴り響いた。 白兵達が一斉に退却を進めるのを、アデル族の巨人や鬼人、多手族などが追い立てた。


 俺はガルの背中に腹をのせて横向きにしがみついていた。 それをアビエルが落ちないように片手で押さえながら、アデル族の中を逆に駆け抜けた。 戦乱の中を抜けると、ようやくガルをとめた。 そして空を見上げるとアビエル達を追って飛んでいたグレンに向って叫んだ。

「グレン、お願い! カケル様をファウラのとこまで運んで!」 グレンはすぐに降りてくると、俺の胴をつかむと力強く飛び立った。 アビエルはそれを見届けると、安心したようにガルの背中に突っ伏して気を失った。


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