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8-7 耐える戦い

 翌朝、朝靄の中に忽然と白い兵団が現れた。 盾を持った兵が横に広がり後ろに槍を持った兵が続いた。 後方に騎馬部隊と弓兵が控えその後に本陣がおかれた。 メルデン王は六角形の輿のようなものに乗っていた。 それはレムの力で空中に浮いていた。 王は輿を高く浮かせると、緑のレギオンの陣形を眺めた。

「何と貧弱な軍勢だ、5、6千と言うところか」 王は輿を下げると言った。

「一気に決めてしまいましょう。 このまま攻めますか?」とゲルン。

「だが、橙のレギオンは油断して奴らの罠にはめられました」とアンゲル。

「あんな獣人族と一緒にするでない。 だが恐らく何らかの策を弄しているのは間違いないだろう。 例の物を使え」

「はっ」 ゲルンはそう言うと、部下に命令を出した。


 「敵の様子はどうだ」とアンドレアス。

「まだ攻撃開始の合図は出ていません」 その時、敵の方から風に乗って、甘いような嗅いだことがない臭いが流れてきた。

「どうやら、例の薬を使ったようだな。 来るぞ、備えろ」

 俺は本陣の丘の上から、ファウラとユウキで準備した。 3人は隣同士手を組んだ。 ファウラが呪文を唱え始めると、俺の体の中を急速にレムが駆け巡るような感覚があった。 その時敵陣で太鼓を打ち鳴らす音が響いた。 いよいよ進軍を開始したようだ。 本陣の周りの空気が急にひんやりしてきたかと思うと、周りに霧が立ちこめ始めた。 霧はどんどん濃くなり、こちらの軍勢を飲み込んでいった。


「どうしたというのだ? 何だこの霧は、奴らが作り出したのか?」とアンゲル。

「霧に隠れて脇から伏兵が襲うつもりなのだろう。 備えろ、来ると分かっていれば怖くはない、神兵の時はなおさらだ」とメルデン。

 白い兵達は、どんどん速度を上げ、攻め込んできた。 目は赤く充血し、呼吸は荒く、雄叫びを上げながら興奮状態にあった。 兵達が霧の中に攻め込むと、そこに敵はいなかった。 兵達は獲物を求める飢えた狼の群れのように、どんどん奥になだれ込んでいった。

 突然、兵の足が止まった。 そこには切り倒された大木が横に何重にも並べられていたのだ。 木には茂った枝がついていたため、兵達は容易に進むことができなかった。 そこに兵が後から後から押し寄せたために、兵がすし詰め状態になった。 するとそこへ空から投石機による石が飛んできて兵達を次々になぎ倒していった。 こちらからも敵の状況が霧で見えるわけではなかったが、この状態では狙いをつける必要はなかった。


 「何をしている」とゲルン。

「先頭に障害物があって進めないようです」 その時、ゲルンの2メートルほど左に大きな石が落ちてきて、兵士が押しつぶされた。

「くそ、さっさと突破するんだ。 もたもたしていると切れてしまうぞ」


 しばらくすると、倒木の障害物を越えてくる兵士が出始めた。

「射て!」 レギオンの弓兵部隊とエルム族が一斉射撃を加えた。 そんな攻撃が1時間続いた。 何度矢の攻撃を受けようと、白兵たちは怯まず進んできた。 今や障害物を越えた兵は、どんどん増えていった。 こちらの本陣までもう500メートルほどに迫っていた。

 本陣の脇に控えていたエルム族のレム使い達が一斉に呪文を唱え始めた。 すると敵の前の地面が次々と盛り上がり始めると、地中から太い木の根が生えだして、兵士を捕らえはじめた。 兵士は根に締め上げられて絶命する者が相次いだ。 またそこで足止めされたところへ、藍のレギオンの海兵部隊が一列に並び、火球攻撃を加えたのだった。 時間はもう2時間近く経とうとしていた。 それでも敵兵達は肩や胸に矢を受け、白い軍服を血で赤く染めながらも、火傷で顔を赤くただれさせながらも、笑いながら進んでくるのだった。 まるで不死身の兵士のようで、味方の兵達はその不気味さに、背筋が寒くなる思いだった。


 ファウラがふらついてきた。

「もう限界だ、おしまいにしよう」俺が言った。

「そうだな、もうそろそろ薬の効果が切れ始めるころだ。 きっと切れれば、反動で一気に動きが悪くなるはずだ」とユウキ。 俺たちが手を放すと、次第に周りの霧が晴れ始めた。

 霧が晴れてくると、戦場のようすが良く見えるようになってきた。 敵の軍勢は両脇に控える山の地形のせいで、縦に長い陣形になっていた。 敵兵の先頭は今やこちらの本陣に迫っていた。

「いよいよ俺たちの出番だぞ。 海の男が陸の上でも強いところを見せてやれ」 バウロは槍を持つと、うれしそうに部下に言った。 バウロが海兵部隊の先陣を切って飛び出して行った。

「バウロ様に遅れるな、カケル王に力を示せ」「おおーーー!」 兵達は雄叫びを上げて飛び出していった。


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