8-5 神兵
ゴルゴン山の麓、クリストアから5万の兵が出兵した。 白い軍服に銀色に輝く甲冑をつけた兵達。 4列に並んだ隊列は一糸乱れず、街の石畳に力強く同じ足音を立てながら歩を進めた。 旗には白地に赤い丸に周りにギザギザの太陽をかたどった文様が描かれていた。 延々と続く行進に対して女達は両手を組んで無事を祈った。
「緑の奴らに天罰を!」「神の御力を示せ」沿道の人々は手を振り、声をかけた。子どもも叫んだ。
「かみの・みちからを・しめせ」
行軍の中程には、青の軍服と、黄色の軍服に豪華な銀の甲冑を着けた2人の男が馬を並べて進んでいた。 今回軍を率いる2人のサムライである。
「ゲルン殿、今回の遠征どうお考えか」 黄色の方が声をかけた。
「アンゲル殿、どうもこうもメルデン王がお決めになったこと、我らは従うのみです」と青い方が答えた。
「いや、それはそうですが、戦いの方です。 橙のレギオンは楽勝と思われていたのに敗れました。 今回我らは彼らの10倍近い兵力なので、万一にも敗れることはないと信じていますが、何か引っかかるのです」
「心配要りませんよ、橙の奴らは知能が低いから罠にかかってしまったのでしょうけど、我らには通用しません。 それに我らには秘策があるではないですか。 我が兵達は神兵なのですよ。 神がついているのです、神兵が負けることはあり得ません」
「そうですな、今回はメルデン王自ら出征されるということですし、我らの力を思い知らせてやりましょう」
セントフォレスト、レーギア内一室
アンドレアス、セシウス、ユウキの3人は対水晶のレーギア戦の戦術を検討していた。
「戦場は北のブラブ山脈と西のガレジオン山脈の北、ヤール草原辺りか?」とアンドレアス。
「いえ、兵力が拮抗しているのならその辺りが妥当でしょうけど、今回は地の利が活かせるところ、もう少し南のこの山脈と山脈の間が良いと考えます」とユウキ。
「なるほど、そこなら伏兵もおきやすいな」とセシウス。
「神兵対策は?」
「それについては、案はあるのですが・・・」ユウキが案を述べた。
「なるほど、しかしうちのレギオンにそれを使える者がいたか?」とアンドレアス。
「うーん、聞いたことはないなあ。 もしかしたらエルム族には使える者がいるのではないか」とセシウス。
「後でファウラさんに聞いて見ましょう。 結構これが鍵になるかも知れません」とユウキ。
「それで、各種族の兵の配置はどうする?」
「各種族の特徴を考えると、このようにしてはどうかと考えますが・・・」
「うん、面白いかもしれない」とセシウス。
「では基本的な作戦はそれで、行こう。 それを基本に、敵の状況に合わせて他の選択肢を考えてみてくれ」とアンドレアス。
レーギアの庭
俺はレオンと剣の稽古をしていた。 1カ月ほど前から、合間を見つけてはレオンに剣の指南を受けていたのだ。 エレインもレオンも剣の腕はほぼ互角であった。 しかし、教えるのはレオンの方がうまかった。 エレインは感覚的に言ってくるのだが、レオンは理屈っぽい性格のせいか、理論立てて説明してくれるのだった。
俺が打ち込んだ剣を、レオンがうまく受け流したかと思うと、すかさず上から打ち込まれ剣を叩き落とされた。
「今日はこれくらいにしますか」俺は言った。
「大分上達しましたね」とレオン。
「そうですか? 今日だけでも私は、30回は死んでますよ」
「ははは、始めた頃は100回は死んでいましたよ。 そんなに腐らなくても、間違いなく上達していますよ。 恐らくレギオンの平均的な兵と良い勝負をすると思いますよ。 1カ月でこのレベルになるのは、剣の才能がある者でもなかなか難しいと思いますよ」
「そうですか、エレインさんには才能が無いと言われたのですけどね」
「彼女は教え方がヘタなだけですよ」
「誰がヘタですって!」とエレイン。 いつの間にか側に立っていて、俺にタオルを渡してくれた。
庭の中に設けられてあるテーブルで、休憩してお茶を飲んでいる時にエレインが聞いてきた。
「今度の戦争は大丈夫なのでしょうか。 今回は橙の時よりも更に大軍と聞いています。 しかも兵は死ぬことを恐れないと言うではないですか。 レギオン内でも不安に思っている者がいるようです」
「大丈夫ですよ。 作戦の秘密保持のため、詳しいことは言えませんが、ユウキ達が対応策を考えていますから」
「それともう一つ気になる声を聞いています。 今回、マブル族や他の種族との連携作戦になるとの話を聞いた兵士が、『あんな奴らあてになるのか』とか『いつ裏切られるか分からんぞ、背中も注意しなければならないぞ』と言っている奴がいるのです」とレオン。 レオンもエレインも、アドルやアビエルに対する陰口の話はしなかった。
「そうですか、それは問題ですね」
(何か考えないとまずいぞ)




