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8-3 水晶のレギオン

 藍のレギオンに新王が立った3日後

 オーリンの森の遙かな北、大陸で最も高い山、ゴルゴン山の麓に広がる、水晶のレギオンの王都クリストア。 そこに白い六角柱が3本合わせたような巨大な建物があった、レーギアである。 その奥の一室、白い壁の扇型をした部屋の中心には、三角形の白い帽子をかぶった男が座っていた。 青い長い衣服を着た男が部屋に入ってくると、男の前で跪いた。

「メルデン様、藍のレギオンに新王が立たれたとの報告が入りました」

「そうか、では黒のレギオンが藍を飲み込んだと言うことか」

「いいえ、それが新王は緑の王だということです。 先日緑の王として立ったばかりの者が、藍の王も兼ねるということです」

「何だと! 本当に緑のレギオンは忌々しい。 先代の王といい、今度の王といい、私に逆らいおって。 橙のレギオンも、まったくあんな弱小レギオンにやられて役に立たないし。 こうなれば私自ら葬ってくれる。 ゲルン、出兵の準備をせよ」

「はっ、規模はどれ位にいたしますか」

「お前の見込みは?」

「緑のレギオンは5千と聞いております。 それに藍が加わったとしても向こうの主力は海軍です。 加わる兵は2、3千というところでしょう。 恐らく総勢1万弱と思われます。 我が軍は5万もあれば十分かと」

「それで良い、いつ出発できる」

「7日ほどあれば」

「よし、今度こそ太陽神バロスの天罰を与えてくれよう。 準備を進めてくれ」


 緑のレーギアに戻ってくつろいでいると、ジュリアンが明日の予定の連絡にきた。

「明日の午前中は各大臣からの報告と決済になります。 午後は会議が入っております」

「分りました」 俺がそう言うと、帰ろうとする彼女に俺は声をかけた。

「待ってください。 実は相談があるのですが・・・」

「私にですか? 承知いたしました」 そう言うと、俺の向かいのソファーに座った。

「実は・・・」俺は先日のエレインの言葉や、ファウラのこと、ホーリーと何だか気まずい感じになっていることなどを話した。

「正直なところ、どうして良いのか分らないのです。 今まで女性と付き合ったことも無いのに突然嫁ができて、アビエルさんは自分のモノだとか言うし、ファウラさんは『アビエルさんに優しくして』といっているけど、真に受けて良いのだろうかとか、言葉どおりにしたら地雷を踏んでしまうのではないか、とか思ってしまうのです」 ジュリアンは黙って聞いていたが、突然口を押さえながら笑い出した。

「えっ」 俺は驚いた。

「これは失礼いたしました。 カケル様も王とはいえ女性のことに関しては普通の男の子なのだなと思ったら、ついおかしくなってしまいました」 そう言うと、真顔にもどった。

「カケル様、一つお伺いしたいのですが、正直なところ彼女たちのことはどうお考えなのですか」

「ファウラさんのことは好きです。 明るくて優しくて、聡明です。 彼女が族長に無理に送り込まれたとは考えていません。 アビエルさんはあの通り独特の価値観を持っていますが、純粋で真っ直ぐです。 時にその真っ直ぐさがいじらしく思うことがあります。 ホーリーさんについては、良く分らないのです。 彼女といると落ち着くし、彼女を見ていると守ってやりたくなるのです。 十分強いのにね。 たぶん好きなのは間違いないと思うのですが、激しく恋い焦がれるというのとも違うように思うのです」 俺は正直に言った。

「カケル様、どうぞお心の赴くままになされませ。 カケル様がいい加減なお気持ちのままでしたら、お諫めしようと考えていたのですが、その必要はないようです。 女性は基本的に、計算高く、独占欲が強く、嫉妬深いものです、もちろん程度の差はございますが。 それにカケル様がおっしゃるように、心とは裏腹のことを言ったりもします。 お互いに駆け引きをしたり、着飾って振り向かせようとしたり様々なことを試みるのです。 ですがそれに振り回されてはいけません。 王様がそちらにばかり気持ちが行ってしまっては、肝心のレギオンの運営に支障がでます。 カケル様にはこれからも政略的な意味を持つご結婚も出てくると思われます。 王様は一般の人のようには行かないのです。 ただお願いしたいのは、どの方に対しても誠実に接してくださいということです。 そうすればどの方もカケル様を独占できないということは理解されるはずです」

「ホーリーさんにはどうすれば・・・」

「ホーリーのことは心配しないでください。 特に何もしなくて大丈夫です。 逆にカケル様がホーリーを妃に迎えようとしたりすれば、彼女は姿を消すでしょう」

「えっ、どうしてですか」

「愛の形には様々なものがあるということです。 アビエルさんも妃の地位を望んでおられないでしょう。 ホーリーも同じです、彼女の望みはカケル様の側でお仕えすることです。 ただ今回のことはあまりに突然だったので、心の整理がつかないのでしょう。 恐らく頭では理解しているけど感情がうまく抑えられず、側にいると強くあたってしまいそうになるので、距離を取ろうとしているのだと思います。 大丈夫ですよ」 ジュリアンはそう言うと、微笑んだ。

「そうですか、ありがとうございます。 何だか気持ちがスッキリしたように思います」

「どういたしまして、こんなことでしたらいつでもおっしゃってください」


 次の日の会議の議題は、やはり水晶のレギオンの件だった。 いくつかの情報源から、出兵の準備が進められていることが伝えられた。

「まだ詳細は不明ですが、こちらに攻め入るのは間違いないでしょう。 恐らく兵力は5万前後かと思われます」とセシウス。

「こちらの兵力はどのくらいになりますか」 俺が尋ねた。

「まずレギオンの正規兵5千と新兵2千の計7千です。 新兵はようやく基礎訓練が終わった程度なので、前線では使えません。 次にマブル族ほかの各種族の兵ですが、どの程度の出兵が見込まれるのかは分りません。 概算で各2千と考えると8千の兵が集まると考えられます。 それと藍のレギオンから海兵部隊2千の応援が見込まれますので、単純に考えれば1万7千になります」

「ただし、実際にはこの通りに考える訳にはいきません。 特に各種族の兵は連携した訓練もしておりませんので、実際にうまく連携が取れるかは疑問です。 それにこのような連合軍は、士気が低く一部で負けが濃厚になると、一気に瓦解し早々に退却してしまうでしょう。 ですので、作戦と配置が特に重要になってきます」とユウキが補足した。

(確かに、親父どのなら一番最初に、ケツをまくりそうだ)とアビエルは思った。

「それともう一つ厄介な問題があります」とセシウス。

「何ですか」

「水晶のレギオンの兵は“神兵”なのです」

「神兵?」

「水晶の王は太陽教の教祖でもあるのです。 そして兵士は信者でもあるのです。 兵士は、自分達は神の僕で神のために戦いそして死ぬことは、神に奉仕することなので天国に行くことができると信じられているのです。 そのため兵達は死ぬことを恐れないのです。 しかも戦闘前に怪しい薬草の煙を嗅がされ、それにより異常な興奮状態になり、痛みも感じなくなるそうです。 そうなった兵の戦闘力は獣人兵にも匹敵するという話しもあります」

「確かにそれは厄介ですね。 策の方はあるのですか」

「それは今、ユウキと幾つか検討中です」

「そこで、ファウラさん、アビエルさん、アドルさん、それとハルには王の出兵要請書を持って街に戻っていただき、密かに出兵の準備を進めるように話して頂きたいのです」とユウキ。

「敵には、各種族が加勢するということは伏せておきたいのです。 そして敵が近づいたところで伏兵として使いたいと考えています」

「承知いたしました」 アドル達は承知した。

 会議が終了後、各自族長の元に戻って行った。 ファウラだけは一人で行かせられないので、俺が“ゲート”を使い一緒に行くことになった。


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