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7-9 レーギアの攻防

 「いいかい、戦うのは黒衣の竜人のみ、レーギアの守備兵と戦ってはいけない。 それと、レーギア内に入ってはいけない、我々も侵入者と思われて攻撃されるぞ」 俺は走りながら言った。

 表に出ると、状況は悪化していた。 レーギアの前の大通りには街の人々が増え、黒衣の兵達は騒ぎを押さえるために人々を殺すが、それが更に騒ぎを大きくしていた。 逃げ惑う人々、追う竜人兵、レーギア前は異様な光景になっていた。


 俺は風のように加速すると、倒れた老人を槍で突こうとする竜人兵に迫り、その右顔面に拳を叩き込んだ。 殴られた兵は後ろに吹っ飛び空中で一回転すると、うつ伏せに石畳の道に倒れ動かなくなった。 俺の後に続いたアドル達が、驚いてこちらを見ている近くの兵達に襲いかかった。

 レオンとリースは剣で敵兵に向って行った。 敵も剣で迎え討とうと身構えた。 剣と剣がぶつかり合い、高い金属音が響いた。 さすがにこの兵たちは海賊のようにはいかなかった。 しばらく攻防が続いたが、二人が遅れをとるほどでは無く、ほぼ同時に敵兵を切り伏せた。


 ファウラとハルは少し離れた場所で、邪魔にならないように見ていた。 すると一人の兵が、中年の女性を斬ろうと剣をかざして迫っていた。 ファウラは両手をその兵士の方へ向けると何か呪文をつぶやいた。 突然女性と兵士の間の石畳が盛り上がってくると、石の隙間から木の根が伸びてきて、兵士の体にまとわりついた。 木の根は更に兵士の体を締め上げ、兵士は口から泡を吹いて気を失った。

「ふうっ」ファウラがため息をついた。 とこちらへ向ってくる兵士がいた。 ハルは懐から吹き矢の筒を取り出すと、一方を口につけ矢を吹いた。 矢は兵士の首に刺さり、兵士が左手で払い落としたが、突然体から脱力しその場に倒れ込んだ。

「ハル、その矢って毒矢?」

「しびれ薬が塗ってある。 でも魔獣も倒れる」

 ほっとしたのもつかの間、左からファウラを槍で狙っていた兵士がいた。 兵士が槍で突こうとした瞬間、“ヒュン”と音がしたかと思うと兵士の腕と槍にアビエルの鞭が絡みついていた。

「気を抜くな!」とアビエルが怒鳴った。 鞭に動きを止められた兵士は、ハルがすかさず放った吹き矢で倒れた。

「ありがとうございます」 ファウラは一瞬驚いた顔をしたが、アビエルに礼を言った。


 アドルは兵士を力任せに殴り倒すと、奪った槍を頭上で数回回転し腰の位置で構えた。 相当の使い手と判断したのか、5名の兵士がアドルを取り囲んだ。 一人の兵が、アドルの左から槍で攻撃してきた。 アドルは素早く左を向くと、敵の槍を叩き落としそのまま兵のみぞおちに槍を深々と突き刺した。 アドルは絶命した兵士をそのまま槍で持ち上げると、その右にいた兵士の体にぶつけていった。 アドルは素早く槍を引き、体を反転させると後ろで剣を構えていた兵の腹を突き刺した。 あっという間に3人がやられたのを見て、回りを囲んだ他の兵達が怯んだ。


 アビエルは3条鞭を自在に振るい、兵達が街の人々を襲うのを牽制していた。 アビエルが一人の兵の剣を持つ手を鞭で絡め取った時、右から別の兵がアビエルに斬りかかろうとしていた。 兵が剣を振り上げた時、一瞬動きが止まった。 兵士の左脚のふくらはぎにガルが噛みついていたのである。 アビエルは左手を兵士に向けると、掌から炎が吹きだして兵士の体を火だるまにした。

「良くやった、ガル」とアビエルが褒めると、灰色の子犬が思いっきり尻尾を振りながら「ワン」と吼えた。


 俺たちが戦いを始めてから30分くらい経った頃、表にいた約30名の黒衣兵達はほぼ無力化されていた。 するとレーギアの建物の中から、内部に突入していた部隊が戻ってきた。 男達は一人の若い女性を捕らえていた。 兵達は門の近くまでくると外の異変に気づき、女性と隊長とおぼしき男を半円状に囲むように警戒しながら外に出てきた。

「何だこれは!」表に倒れている部下の惨状を見て隊長が言った。 そいつはトカゲのように丸い目の体の大きな男で、皮膚が銀色がかった鱗状のもので覆われていた。

「お前達がやったのか、何者だ。 レギオンの兵士には見えぬが」隊長はイラつきながら俺に言った。

「何者でもない。 このようなことを見過ごせない者だ」

「まあいい、そこをどけ!」

「断る、その女性を放せ」

「それはだめだ、素直に俺たちを通さないとこの女の命はないぞ」

「脅しは通用しない、俺たちはその女と何の関係もないし、お前達はその女に何か情報を聞きたくて生かして連れてきたのだろう? 殺したら何も手に入れられなくなるぞ」とレオン。


「ちっ、時間がない、強行突破する」と隊長が部下に命令した。

 黒衣の兵達は、二人を囲みながら俺たちを突破しようとした。 それを阻止しようとアドル達が一斉に攻撃を開始した。 俺は素早く走り出すと、一団の中に飛び込んでいった。 兵が槍で突こうとした寸前にジャンプすると、女性を捕らえていた兵士の脇に着地した。 すかさず兵士の顔面に左の掌底を入れ、女性から手が離れた隙に女性を抱え、上空にジャンプした。 一団から20メートルほど離れた場所に着地すると、女性を地面に降ろし縄をほどいてやった。

「大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます」 それまで女性は青い顔をしていたが、硬いながら微笑んだ。

「カケル様、危ない!」 ホーリーの声だった。 振り返ると剣を振りかざした兵の右腕に、ホーリーが投げたナイフが刺さっていた。 俺は立ち上がりながら兵士の右腕と襟をつかむと、柔道の払い腰で投げた。 石畳に思いっきり背中を叩きつけられた兵士は呼吸が出来なくなり、その場で動けなくなった。


 ホーリーとエレインが兵士の一団を連れて駆けつけてきた。

「一人も逃すな!」指揮官と見られる女性が100名あまりの兵達に命令した。 兵達は黒衣の兵団を取り囲んだ。 指揮官がホーリーとエレインと一緒にこちらに歩いてきた。

「私は、このレギオンのサムライ、リンエイ・ホーだ。 どちら様ですかな」 リンエイは疑わしげな目で俺を見ながら言った。

「私は、カケルと申します。 訳あってそれ以上は、今は聞かないでください」

「お前達の知り合いなのか?」 ホーリーに言った。

「私たちがお仕えする方です。 ですがこの方はこのレギオンの敵ではありません」とホーリー。

「その通りです、お姉様。 この方は私をあの者達から助けてくださいました」 先ほど助けた女性がリンエイに近づきながら言った。

「シュエン! そのようだな、あの竜人兵達をくい止めてくれたのは、あなた方なのですね」

「レギオンを代表して礼を申し上げます。 詳しい話は後ほどいたしましょう」 そう言うと兵達の方へ歩いて行った。 黒衣兵達は抵抗したが、次第に討ち取られ今や隊長を含め5名まで減っていた。


 「天聖球は見つかったか? もう観念しろ」とリンエイ。

「クソッ、これまでか」 隊長はそうつぶやくと剣を抜き、リンエイに斬りかかった。 リンエイは慌てず腰から三日月のような曲刀を目にも止まらぬ速さで抜くと、隊長の剣を握る右腕を切り上げ、返す刀で袈裟斬りにした。 飛んでいった腕が地面に着くのと、体が前に倒れ込むのがほとんど同時だった。 リンエイは剣を振ると剣を鞘にもどした。

「武器を捨てろ」 リンエイがそう言うと、残った4名は観念し武器をすてた。


「無事で良かった」 俺がホーリー達に言った。

「喜んでください、ジュリ姉が見つかったのです」とエレイン。

「本当か、どこです」

「ここから東のアードン島です。 頭に怪我をして何日も熱でうなされていたそうです」

「大丈夫なのか」

「怪我はもう大丈夫だそうです。 今朝念話がありました」とホーリー。

「そうか、それは良かった」 そう話しているときにアドル達が集まってきた。

「ところでカケル様、何故ファウラさんがここにいるのですか。 それにあの魔人族の女は何者ですか」とエレイン。

「う、うん、それは話すと長くなるから後でゆっくり説明するよ」

「へー、そうですか、それでは後でじっくり伺いますね」と少しトゲのある言い方をした。


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