7-8 レーギア襲撃
翌日、俺たちはバウロの船でガルソン島まで送ってもらうことになった。
「お前達、このまま俺の部下として働かないか」とバウロ、昨夜特にアドルとは意気投合してしまったのだった。
「お気持ちはありがたいのですが、こちらも色々と都合がありますので」 レオンは丁重に断った。
「そうか、気が変わったらいつでも言ってきてくれ。 それとガルソン島ではバウロの客だと言えば、誰も悪いようにはしないはずだ」
「ありがとうございます」
俺たちは礼を言うと船に乗り込んだ。 既に甲板にはグレンがいた。
レンガ島からガルソン島までは約3時間とのことだ。 船上で俺はジュリアン達のことを考えていた。
(嵐で助かった人達がいるとのことだ、きっと助かっている。 だがなぜ念話が通じない、怪我をしているのだろうか、特別にレムを遮断されたような場所にいるのだろうか。 あれ、ちょっとまてよ、ジュリアンがだめでも、他の人なら・・・) 俺は今までジュリアンとしか念話をしていない。 それは、基本念話の能力のある者どうししかできないからだ。 だが能力の高い者は、能力のない者とも会話出来る。 だからジュリアンはホーリーやエレインと会話できていたのだ。 俺は、直接はホーリー達と会話出来ないと思い込んでいた。 俺はホーリーと会話を試みた。
「ホーリーさん、聞こえますか」
「えっ、誰、カケル様?」
「無事だったのですね、良かった。 他の人は無事ですか」
「エレインは無事です。 しかしジュリアンが嵐ではぐれてしまい、安否はまだわかりません」
「ジュリアンさんとは何度も念話を試しているのですが、繋がらないのです」
「私もです。 でもきっと大丈夫です」
「いまどこにいるのですか」
「ベレス島です。 カケル様こそどちらですか、レーギアですか」
「いまガルソン島に向っているところです。 あと2時間ほどで着きます」
「えっ、こちらに来ているのですか、レオン達も一緒ですよね」
「ええ、とにかく2人だけでも無事が確認できて良かった」
「分りました。 私たちもガルソン島に向います」
ガルソン島は藍のレギオンのテリトリー内でも最も大きな島で、ほぼ中心に位置していた。 島の西海岸中央にある都市、ディープマーリンは島最大の都市であり、レーギアの所在地である。 この都市は海の南ルートの交易中継地点として繁栄していた。 街のマーケットには様々な地方からの特産物がところ狭しと並べられ、呼び込みの声が盛んに飛び交っていた。
とりあえず、俺たちは宿に入りホーリー達を待つことにした。 俺たちの宿は街の中心からはずれた、レーギアに近い場所だった。 この宿はバウロの部下に案内されたもので、口をきいてくれたようで、離れの良い部屋に通された。 グレンは庭に飛び降りたかと思うと、いつの間にかちゃっかり部屋に入ってきた。 レーギアは巨大な建物ではなく、木造の二階建ての富豪の屋敷か寺院といった感じである。
その日の深夜、ガルソン島の北の海岸に密かに2艘の船が近づいて来た。 月明かりの中、小舟に乗った者たちが次々と砂浜に降り立った。 30分ほどの間に島に渡ったのは総勢50名、皆黒い動きやすい装束に武器は槍、剣、弓を携行していた。
「ゲドン様、全員そろいました」 一人の男が、集団の前に立った一際大きな男に言った。 男は頷くと男達に向って言った。
「皆の者、我らはこれより密かに島を横断し、レーギアに向う。 これよりレーギアまでは敵に気取られてならない。 静かに素早く移動する良いな」 男達は無言で頷くと列を作って行軍を開始した。
その朝、最初に異常に気づいたのはグレンだった。 俺のベッドの脇で寝ていたグレンは、早朝に目を覚ますと外を気にしだした。 それにつられて目を覚ました俺はグレンに言った。
「どうした、外に出たいのかい」
「ソト、ヘン。 イヤナカンジ、オオゼイ」
「嫌な感じ?」
「何かございました?」ファウラも目を覚ました。 ふとファウラの右腕を見ると、腕輪の石が赤く光っていた。
「危険が迫っているだと、ファウラ、皆を至急起こしてくれ。 臨戦態勢を取れと」
ファウラは慌てて部屋を出ていった。
「ボク、ミテクル」 グレンはそう言うと、空に飛び立った。
5分後、皆が俺の部屋に集まった。
「カケル様、どうしたのですか」とレオン。
「まだ分らない、だが危険が迫っていることは確かだ」 その時、グレンから念話が入った。
「オオキナイエ、クロイヒト、タクサン、ブキ、イヤナカンジ」
「大きな家? レーギアのことか。 レーギアへ黒い人達が武器を持って迫っていると言うことか?」
「何が始まるというのでしょう」とファウラ。
「反乱? サムライの一人が強引に天聖球を奪取に出たと言うことでしょうか」とリース。
「俺が外に見に行きます」と言いレオンが出ていった。
「とりあえず皆はすぐに出られるように準備しておいてくれ」
朝の薄闇に西から光が差し始め、人々が活動を始めようとする頃、静寂は突然に破られた。 音も無く忍び寄る黒衣の集団が、レギオンの門前まで来ると先頭の一際大きい男が手と指で支持を与えると、集団は無言でいくつかのグループに別れて行動を開始した。 塀沿いに裏手に回る者、一人の組んだ手を踏み台に飛んで塀の向こう側に跳ぶ者、レーギアの手前を警戒する者。 しばらくすると、門が開き20名ほどの男達が突入していった。
建物の中から、悲鳴や金属のぶつかる音が聞こえてきた。 レーギアの建物の前では、市へ野菜を売りに行こうとする農夫が通りかかったが、こちらの異変に気づいて振り向いた瞬間に、胸を矢で貫かれた。 街を巡回している2人の兵がレーギア前を通りかかると、何が起こったのか分らないうちに、背後から口を押さえられ首を切られた。 レーギアの外にいる者で、今何が起こっているのかを知るものはいなかった、一人を除いては。 遠くの生け垣の影で一部始終を見ていた男は、静かに姿を消した。
レオンがかたい顔をして戻って来た。
「気にいらないですね、カケル様。 事態は深刻です。 これは反乱ではなく侵攻です、奴らは竜人族です」
「何だって、どういうことだ」
「奴らの狙いは天聖球で、黒のレギオンが露骨な攻撃に出てきたということでしょう。 どうしますか、このまま奴らに天聖球を奪われてしまったら、我々の計画は終わりです」
「奴らの数は?」
「約50名です。 ただ奴らは海賊ではありません、軍人です。 しかもこういう作戦のために訓練された特殊部隊だと思われます。 海賊なら50人が100人でもどうってことないですが、奴らは少し厄介です」
俺はどうすべきか、迷った。 奴らを排除すべきか、様子を見るか。
「排除しよう。 こういうやり方は良くないと思う」
「待ってください、カケル様。 カケル様の決断には従いますが、これは藍のレギオンと黒のレギオンの争いに緑のレギオンが介入するということになります。 我々が介入したことがバレれば、緑のレギオンと黒のレギオンの戦争にもなり得ることですがよろしいでしょうか」とファウラ。
「分っている。 だが藍のレギオンとの同盟が無ければ、我らの先行きも非常に厳しいのだ」
「分りました。 では時間がありません。 早速行動しましょう」とレオン。
 




