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7-5 藍のサムライ

 「バウロ殿、遅いですぞ。 この方がたがおられなかったなら、この船は今頃どうなっていたやら」 レギオンの船から乗り込んできた、大きな体の四角い顔をした男に、船長は文句を言った。

「いやあー、面目ない」 笑いながら船長にそう言ったが、船上の様子を一瞥すると真顔になった。

「これをやったのは、あなたですか?」

「いや、私の仲間です」

「ほう、いずれも腕に覚えのある方がたの用ですな。 海賊どもも殺されていないし、しかも大した怪我もしていなようだ。 武器も使わずこれだけの人数を制圧されたとなると、余程の実力差がないとこうはいかないものです」 バウロと呼ばれた男は、アドルやリース達をしげしげと見回した。

「そうです、それは凄かったですよ。 この人の一声で一斉に動き出したかと思うと、あっという間に倒してしまわれたのです」 側にいた客の男が言った。

(あちゃー、余計なことは言ってほしくなかったのに)

「あなた方は何者ですか?」 バウロは疑わしそうな目で俺たちをみた。

「我々は冒険者です。 ある大富豪からドラゴン捕獲の依頼を受けまして、その捕まえたドラゴンの移送中だったのです」 レオンが説明した。

「それで、そのドラゴンはどこですか」

 レオンは空を指さしながら言った。

「あそこです。 海賊が剣で刺激したために、怒って檻の扉を壊して逃げ出しました」

「それはお気の毒でしたな」 バウロは部下に指示して海賊達の移船と海賊船の移送をさせていたが、準備が整ったとの報告を受けると船長に言った。

「船長、ガルソン島の側までは、我々も随走いたします」

「ありがとうございます」と船長。

「それと、あなた方は我々の船に移ってもらいたい」とバウロ。

「何故です?」とレオン。

「そう構えなくても良いですよ。 あなた方は本来我々のやるべきことをやっていただいた。 申し訳ないので、我が家に招いて一献さしあげたいのですよ。 明日にはガルソン島までお送りいたしますし、あなた方に後ろめたいことが無ければ、問題ないでしょう?」

「分りました」 俺が答えた。


 大きな島に近づいてきたところで、俺たちが乗り換えたレギオンの船は商船から離れていった。 俺たちは商船が向ったガルソン島の西にあるレンガ島に向っているとのことだった。 しばらくすると前方に島があらわれた。 海岸線は切り立った崖になっているため近づけず、港まで島を回り込まなければならないとのことだった。

 岬を回ると港が見えてきた。 そこには今乗っている船より一回り大きい軍船とおぼしき船が100艘ほど並んでいた。 きれいに手入れされた黒光りする船団が並ぶ、その景色は正に壮観だった。

 船を下りてバウロについて行くと、大きな平屋の屋敷が現れた。 そしてその屋敷の回りにもいくつかの建物が並んでいた。 そこまでくると、バウロはこちらに向き直った。


 「さあて、ここからが問題なんだよなあ。 あんたらの行き先が、屋敷の客間になるか、牢屋になるか」 バウロから笑顔が消え、鋭い目で俺たちを見つめた。

「どういうことですか?」 レオンが聞いた。

「あんたら、怪しすぎるんだよなあ。 悪い人間には見えないんだが・・・」

「どこが怪しいのですか?」とファウラ。

「第1に、冒険者には見えない。 こっちの二人は、どっちかというと軍人に見える。 第2に獣人族にエルム族、魔人族にブルカ族までいる、こんなパーティきいたことがない。 第3にあんたら命がけで捕まえたはずのドラゴンが逃げ出したのに、さほど落ち込んでいない。 しかもああやって上空を旋回しながら、まるであんた達についてきているみたいだ」そう言いながら、上空を飛んでいるグレンを指さした。

「あら、全然不思議ではありませんわ。 レオンさん、リースさんは元ボスリアの軍人ですので、軍人に見えてもおかしくありません。 また私たちは命がけで、魔獣と戦ったりするのです、種族や出身より命を預けることができる能力を持っているかが重要なのです。 それからあのドラゴンのことは、確かに落胆していません。 何故なら戻ってくると信じているからです。 あの子ドラゴンは、親が死んで途方にくれているのを私たちが保護したのです。 それ以来私たちに懐いています」とファウラが説明した。

「なるほど、弁が立つやつがいるのだな。 だが俺は弁が立つ奴は嫌いだし、信用しない。 聞き方を代えるとしよう」

「拷問でもするというのですか?」とレオン。

「いや、拷問してしゃべる奴としゃべらない奴は見れば分る。 無駄なことはしない。 儂と戦ってもらう、一番強い奴は誰かな」

「オレだ」すかさずアドルが言った。 バウロが俺を見ていたが、アドルの方へ向くと言った。

「そうか、儂は戦うことによって相手を見極めることにしている。 正面からしか攻撃してこない奴、姑息な手段を使う奴、見かけ倒しな奴、弱いふりをする奴、手を合わせてみれば、大体本質がわかる」

「良いだろう」とアドル。


 アドルは兵士から槍を借りた。 数回振り回し、感覚を確かめるとバウロと向き合った。 バウロも槍を手にすると滑りを確認するようにしごいた。

 アドルが胸を狙って槍を突き出すと、バウロは難なくはじき上げ槍先の軌道を変えた。 さらにアドルの胸めがけ突いてきたが、アドルもそれは予測済みで、手元で難なく受け流した。 バウロは“ニヤリ”と笑うと槍の速度を上げていった。 アドルもテンポを上げていくと、静まりかえった中に槍のぶつかり合う音だけが、小気味よく響いた。

 二人の攻防は10分ぐらい続いた。 外から見た限りでは全くの互角のように見えた。 どちらも有効なダメージを与えることができず、せいぜい腕や腹を槍先がかする程度だった。

 バウロはラチが空かないと考えたのか、変則的な攻撃に変えた。 突きをかわして体勢が崩れているアドルの頭を狙って、槍を打ち込んできたのだ。 アドルはそれを、槍を横にして受けたのだったが、槍の柄が持たずに折れてしまった。 バウロの槍はアドルの肩に打ち込まれたが、勢いが殺されていたため有効なダメージにはならなかった。 アドルはそのまま体を回転するようにかわし、バウロとの距離をつめると、左手に握っていた槍先をバウロの顔面に突き立てた。 が、槍先が額に当たる寸前にバウロの左手に止められてしまった。 アドルが笑うと、バウロも笑った。

「これくらいにしよう」 バウロが言った。

「で、我々は牢屋ですか?」とアドル。

「いや、客間で一緒に酒を飲んでもらう。 至急準備いたせ!」 バウロは部下に命じた。


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