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#8 月の夜

「あー……疲れた……」


 オレはベッドに座りながら大きく背伸びをする。

 久しぶりにゆっくりと飯も食べられたし、風呂にも入れた。

 夢にまで見たこっちの世界の味……帰ってこられたのを実感する。


 マコ姉はとりあえず、日用品や必要なものを持ってくるのに家に帰った。

 オレとフレイの二人きりになるって言うのに、なんだかんだ言って、オレの事は信用してくれているんだよな。


「さて、明日は……」


 なんとなく窓から外を見る。


「ん? フレイ……か?」


 遠目からでもはっきりとわかる真っ赤な髪……なにやってんだ?

 オレは気になって、階段を下り、一階へ。そして、リビングのガラス窓を開けて縁側に出る。


「よっ!」


 向こうを向いているフレイに声をかけながら、縁側に座る。


「ん? ああ、カズマか……どうしたんだ?」

「いや、窓からお前の姿が見えたんでな」


 フレイはこちらをちらっと振り向くと、また顔を元に戻す。真っ赤な髪が月の光で輝いている。


「で、どうしたんだ? なんか気になることでもあるのか?」

「いや、なんつーか、夜なのに妙に明るいのが気になってな……悪い気はしねぇんだけどよ」

「ああ、そうか、むこうじゃ月もなくて、星くらいしか見えなかったからな」


 オレも空を見上げる。雲一つない夜空に月が輝いている。


「それに、戦いのない世界なんて初めてだからな。鎧も剣もないって言うのは落ち着かねぇんだよ」

「そうか」

「ああ、むこうじゃ寝てるときでもいつでも動けるくらいには緊張してたからな」


 風が吹く。遠くで犬の鳴き声が聞こえる。


「まあ、なんだ。休暇だと思って気楽に過ごせばいいんじゃないか?」

「休暇……か」


 なんとなくフレイの声は寂しそうに聞こえる。

 まあ、そうだよな。オレもそうだったけど、別の世界に飛ばされたら不安にもなるよな。


「カズマ。ありがとな」

「なんだよ。急に」

「向こうの世界じゃ敵同士だったのに、俺を助けてくれただろ?」

「なんだよ。そんなことか」

「おいおい、そんな事って言うのはねぇだろ? 普通は敵を助けるなんてやらねぇぜ?」

「まあ、なんつ-か……戦ってる時も別におまえが憎くて戦ってたわけでもないからな」

「そうなのか?」

「ああ、だって、そっちの皇帝が世界を破滅させようとしてるのを止めたかっただけだしな」

「え!?」


 オレの言葉にフレイはこっちを振り向く。その顔は驚きに満ちている。


「破滅ってなんだよ。破滅って!」

「え? 大地の魔力を吸いつくせば帝国と周辺の国なんか滅びるに決まってるだろ。まあ、そうなったら新たな帝国を、別の場所で築くつもりだったらしいけどな」

「はぁ? 初めて聞いたぞ! そんなこと!」

「え? 知らなかったのか?」

「当たり前だ! 知ってたら止めるに決まってるだろ! あー! もう、なんで誰も言ってくれなかったんだよ!」


 フレイは頭を抱えたままその場にうずくまってしまう。

 たぶん、そう言う感じになるから誰も教えなかったんだと思うけどね。

 しばらくフレイはそのままだったが、急に立ち上がる。


「……もう寝る」


 明らかに落胆しているのは確認するまでもない。まあ、そりゃそうだよな。


「ああ、おやすみ」


 フレイはオレの言葉に片手を上げて応えると、そのまま玄関の中に入っていってしまった。

 ほんと、まっすぐな奴だ。


「さて、オレも寝るとするか」


 オレは大きく伸びをする。

 これからしばらくの間だけど、楽しく過ごせたら最高なんだけどな。

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