#1 夏の日差しと思い出と
焼けるような午後の日差しの中。オレは縁側に座っている。
フレイは外で散歩中だ。
あれから三日くらいたつけど、何となく元気がないんだよなぁ……まあ、本人は何でもないって言うし、無理やり聞き出すわけにもいかないから様子を見るしかないんだけど。
俺はそんなことを思いながらスイカを食べる。
この時期に食べる冷えたスイカは最高だ。むこうの世界でもスイカみたいな食べ物はあった。
だけど、品種改良とか、肥料の問題とかでこういう甘いスイカは食べられなかったんだよなぁ。
オレはスイカの種を庭に吐き出す。
「どうだ!」
うん、なかなか飛距離が出た。
そういや、どっかでスイカの種飛ばし大会があるとか言ってたっけ?
「こら、カズくん。お行儀が悪いですよ」
洗濯物を持ったマコ姉がやってくる。
いつもの穏やかで優しいマコ姉だ。
「はいはい」
「あ、カズくん。そう言う態度をとるんですか? 小さいときはスイカの種を飲み込んで、おへそからスイカが生えちゃう~……とか泣いていたのに変わりましたね」
「ちょっと、マコ姉! もう昔の事なんだからやめてくれよ!」
「じゃあ、お姉ちゃんに逆らうんじゃありません」
楽しそうに笑いながらマコ姉は外に出る。そして、洗濯物を干し始めた。
「マコ姉。そういや、こんなに休んで平気なのか?」
「え? どうしてですか?」
「いや、ここんところ有給休暇をどんどん使ってるからさ」
オレはスイカを食べる。種を飛ばしたくなったけど、さすがにマコ姉がいる前でやると怒られるからやめておこう。
「ああ、それは大丈夫ですよ。総務の方から使えって言われてるんでですよ。うちの会社はその手の法律に厳しいですからね」
「へぇ、そうなんだ」
「ええ、一応、お役所と取引をしてるんで、その辺はきちんとやらないと大変なんですよ?」
マコ姉は言いながら、テキパキと洗濯物を干していく。
ほんとに家事がうまいよなぁ。
これで彼氏がいないって言うんだから世の中は不思議でいっぱいだ。
「なに見てるんですか?」
「いいや、なんでも……洗濯物が終わったんならスイカでも食べないか?」
「うーん……そうですね」
マコ姉はオレの隣に座る。
「あ、それよりもカズくん。耳のお掃除はしていますか?」
「え?」
「あー、やっぱり! これは久しぶりに耳かきをしなくちゃダメですね」
「えー……」
「そんな声を出してもダメです」
マコ姉はそう言うと家なのかに入る。
めんどくさい……いや、マコ姉にしてもらうのは嫌いじゃないんだけどね。
「はい、じゃあ、カズくん。どうぞ」
マコ姉の声。振り向くと手に耳かきを持ち正座して待っていてくれる。
こうなったら行くしかないよな。
「じゃあ、お願いします」
オレはマコ姉の膝に横になる。シャンプーの臭いと柔らかくて温かい太ももの感触……安心する。
そう言えば、久しぶりだよな。
「じゃあ、じっとしていてくださいね」
「了解」
マコ姉が耳を掃除してくれる。くすぐったい。
けど、やっぱり気持ちいい。
「はい、終わりですね。次は反対ですね」
「ん……」
オレは体を半回転させる。
外から入ってくる風と、セミの音……なんだか眠くなってきた。
「はい、終わりです」
「ん? ああ、ありがとな。マコ姉」
オレは上を向いてマコ姉の顔を見る。
マコ姉もほほ笑みながらオレの顔を見ている。
「少し寝ますか?」
「んー……そこまで甘えるのも悪いだろ?」
「お姉ちゃんとカズくんの間で遠慮することなんでありませんよ」
優しいマコ姉の声、実はあれからあんまり眠れてないんだよな。
うん、でもそこまで甘えるわけにはいかない。
「いや、夕飯の買い物もあるだろうから起きるよ……あ、そうだ。耳かきのお礼に買い物に行ってこようか?」
オレは起き上がりながら言う。
「そうですか? じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
マコ姉は縁側に置いてあったスイカの皿を持つとキッチンに消える。
そして、しばらくするとメモを手に出てきた。
「じゃあ、これをお願いします」
「えーと……あ、これは今日はカレーか!」
「正解です。今日はお姉ちゃん特製のカレーですよ」
マコ姉は優しそうな笑顔で言う。
「じゃあ、急いで買ってこないとな」
マコ姉のカレーは最高なんだよな。普通の材料に、普通のカレーのルー……二種類を混ぜただけなんだけど、それが不思議とまねできない。
あ、やばい、思い出しただけでもよだれが出そう。
オレは立ち上がると二階へ財布を取りに行く。そして、玄関へ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
マコ姉に見送られ、オレは買い物に出かけた。




