#2 指輪とネックレスと
「よっ、そこの兄ちゃんとお姉ちゃん。どうだい? やってかないかい?」
店のおやじが話しかけてくる。
射的か……うーん、この手のゲームは苦手なんだよな。
「へぇ、面白そうじゃねぇか」
フレイは逆にやる気だ。
「フレイさんはこういうのが得意なんですか?」
「まあな。この手の訓練も受けてるからな」
フレイはそう言うとコルク銃を握る。
「えっと、使い方は……」
フレイはコルク銃を眺める。
むこうの世界でも銃はあったけど、威力はかなり低めだった。多分、弓の方が強いくらいだ。
しかも、量産体制がとれなかったから、王国側じゃ使う機会なんてなかったんだよな。
……まあ、帝国側はその辺の問題を、大量生産と大量に兵士を用意することで解決してたけど。
「はい、おじさん。お金」
「まいど。はいよ十発分」
オレは店のおやじに金を払うとコルクを受け取る。
「このコルク栓を銃の先端からこうやって詰めて……ほら、フレイ」
オレは手近にあったコルク銃にコルク栓を詰めて渡す。
「お、ありがとな」
フレイはその銃を受け取る。
さっきのことは許して……。
「ただ、あの言葉を許しちゃいねぇからな」
ダメだったみたいだ。うーん……まいったな……。
そんな事をしているとフレイは銃を構える。
かなり様になっている。
一発目……狙いが少しそれて景品の端にあたる。しかし、景品はびくともしない。
どうやら、ここのコルク銃は精度もかなり悪く設定しているらしい。
「おっさん。この銃はどれ使ってもいいのか?」
「おう、気に入った銃を使ってくれ」
「そうか」
フレイはそう言うと次々と銃を試す。合計五回。残りは五発だ。
「よっし、じゃあ、やるか」
フレイは使った五丁の銃にコルクを詰める。そして、目の前に並べた。
「カズマ、マコト、あの箱、よく見とけよ」
フレイは指をさす。指輪だ。メーカーが書かれていない。
大きさはティッシュの箱くらい。ああいうのは底に重りが入ってたりして、撃ち倒すのは難しいと思うんだけど……。
そんな事を考えているとフレイは目を閉じ集中する。
マコ姉も、店のおやじも、そして、他のお客さんまでもがフレイを見つめる。
フレイは大きく息を吸い、呼吸を止めると、素早く銃を持ち射撃する。
一発、二発、三発、四発! 次々と銃をを取り換えながらの連続射撃。
その連続した銃撃に箱が大きく揺れる。
「こいつでとどめだ!」
最後の銃撃が大きく傾いた箱に命中する。箱はそのままパタリっと音を立てて倒れ込んだ。
一瞬の静寂……その直後、周りから大きな歓声が上がる。
「うっしゃー! オレの勝ちだな」
フレイは勝ち誇ったように胸を張りながら、屋台のおやじに言う。
「くぅ……仕方ねぇ! いいもん見せてもらったし、もってけ泥棒!」
屋台のおやじは箱から指輪を取り出す、そして、フレイに手渡した。フレイは指輪を受け取ると歩き始める。
「ああ、そうだ。ほらよ。カズマ。やるよ」
フレイが歩きながらオレの方を見ずに、指輪を投げてよこす。
オレはその指輪をキャッチした。
「おいおい、せっかくとったのにいいのか?」
「世話になってる礼だから、いらなきゃ適当に処分してもいいからよ。元はおまえの金だしな」
「別に処分する気はないけどさ」
オレは指輪をよく見る。シンプルな飾り気の一切ない指輪だ。
ただ、悪いものじゃないって言うのはなんとなくわかる。
むこうの世界でこの手のアイテムの目利きは一応は教わ……うん、あのスパルタ教育はあんまり思い出したくないな。忘れよう。
オレは指輪をはめようとする。
「あれ……」
指輪はオレの指に合わない。親指から小指まで試したけど、どの指にも無理をしてもはまらない。あー……これ、女性用か?
「どうした?」
「いや、なんでもない。ありがとな」
「おう、気にすんな」
フレイの声はなんだか楽しそうに聞こえる。
機嫌は直ったみたいだ。無理に女性用とか言い必要もないだろ。
オレは指輪をポケットにしまった。
「さてどうする……ん? あれは……」
アクセサリーの露店が目に入る。。
そうだな……お詫びのしるしに何か買ってみるか。
「カズくん、どうしましたか?」
「マコ姉。先に行っててくれ。ちょっと寄りたい店があるんだ」
「そうですか。わかりました。じゃあ、先に行ってますね」
オレはフレイとマコ姉が先に行くのを見送る。そして、露店に近づく。
黒い布で覆われた簡単な作りの台の上。いくつものアクセサリーが所狭しと並んでいる。
「いらっしゃい。どれでも税込み千円ぽっきりだよ」
若い女の店員が声をかけてくる。
オレはアクセサリーを手に取ってみてみる。
どれもこれも悪いものじゃないのはわかる。むしろ、この値段ならお得かもしれない。
「なるほどねぇ……あ、これはフレイで……こっちはマコ姉に似合いそうだな……すいません。じゃあ、これとこれで」
「はいよ……って言うか、なんだい、お客さん。二つも女性用のを買うなんて、女泣かせだねぇ」
店員さんはにやにやと笑う。
「そんなんじゃないっすよ」
「じゃあ、どんな関係なんです? まさか、一人に2つも渡さないでしょ?」
「そうだなぁ……」
店員さんに言われて考える。
オレにとってマコ姉とフレイって何なんだろう。
マコ姉は……大切な家族……だよな。フレイは……フレイはなんだろ。大切な友達……かな?
うん、そうだな。フレイもマコ姉もオレにとっては大切な人だ。
「お兄さん? 大丈夫ですか?」
「え?」
店員さんが心配そうに聞いてくる。
「ああ、大丈夫。うん、二人はオレの大切な人……かな? って、なに言わせるんすか!」
オレは照れ隠しで思わず大きな声を出してしまった。うん、さすがに恥ずかしいな?
「へぇ、そうですか……じゃあ、これなんかどうですか?」
オレの言葉に店員さんは笑顔で台の下からアクセサリーを取り出す。
「これは……」
赤とピンクと白、三色のハート形をしたペンダントだ。
「これはね。こうすると……どうです? いい感じでしょ?」
店員さんがその三つを組み合わせると三つ葉のクローバーの形になる。
「おお、面白いっすね」
「でしょ? いいアイデアだと思ったんですけどねぇ。二人用なら恋人向けで売れたんですけど、三人用だと誰も買わなかったんですよ」
「あー……なるほど」
「で、これ、安くしますから買いません?」
うーん……まあ、悪くないかもしれない。
フレイには赤、マコ姉にはピンク、オレは白を選べばいいしな。
「おいくらですか?」
「二千五百……いや、大サービスだ! 二千円でどうだ!」
「二千円……うん、買います」
思わず勢いで買ってしまう。まあ、値段分の価値は十分にあるからいいんだけど。
「はい、じゃあ、お金」
「まいどあり! 彼女さんたちによろしく!」
ペンダントを受け取る。そして、マコ姉とフレイのところまで歩いて行こうとする。
「そうだ。さっきの指輪を……」
オレは指輪を取り出すと、白いネックレスの鎖を指輪に通す。
うん、いい感じだ……だけど、今ここで身に着けるのはちょっと恥ずかしいから、またの機会にしておくかな?
ペンダントと指輪をしまうと、賑やかな祭りの雰囲気を楽しみながらマコ姉とフレイを探すために、歩き始めた。




