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#1 飲んで飲まれて

「ただいまっと」


 オレはバイトを終えて家に入る。もうあたりはすっかりと暗い。


「ん? この臭いは……」


 酒と料理の臭いが玄関まで漂ってくる。うん、むこうの世界の酒場でもよく嗅いだ、ある意味懐かしい臭いだ。

 でも、この臭いには嫌な記憶も多い。

 うん、すごく嫌な予感がする……今日はこのまま二階へ逃げ――。


「カ~ズく~ん。おっかえりなさ~い。ちょっときてくださ~い」

「おう、カズマ! とっととこいよ!」


 陽気なマコ姉とフレイの声がリビングから聞こえてくる。

 逃げられないか……仕方ない。いくしかないよなぁ。

 オレは仕方なくリビングに入る。


「おいおい、なんだよ、これ……」


 オレは目の前の状況に自分の目を疑う。

 テーブルの上にはワインのボトルから缶チューハイ、ビールまで様々な種類の酒とコンビニのおつまみが所狭しとならんでいる。

 空き缶や空き瓶も床やテーブルの上に転がって、かなりひどいありさまだ。

 一方、マコ姉とフレイは、そんなことにはお構いなしに、ソファに座ってビールを飲んでいる。


「おう、やっと帰ってきやがったな! この野郎!」


 完全に酔っぱらったフレイが絡んでくる。

 めんどくせぇな、おい。


「カズくんも飲みましょう! と言うか飲みなさい。お姉ちゃんの命令です!」


 こっちも完全に、酔っぱらってる……うーん、マコ姉は酒癖が悪いから面倒なんだよな。

 なんていうか、厄介ごとが二倍だな?


「って言うか、どうしたんだよ。二人とも、そんなに酔っぱらって……マコ姉だって普段は酒なんて飲まないだろ?」

「だって、私はフレイさんと仲良くしたいんですよ? なら、一緒にお酒を飲むのが一番じゃないですか」


 言いながらマコ姉はフレイに抱きつく。


「あはは、もう、マコト! 嬉しいことを言ってくれるじゃねぇか!」


 フレイもマコ姉を抱きしめる。


「そうか……じゃあ、オレはこれで……」


 オレが呆れてその場をさらうとする。だが、、フレイが立ち上がりふらふらと近づいてくる。


「なんだよぉ、カズマ! 逃げるの、うわっと!」

「おっと! あぶないだろ」


 転びそうになったフレイをフレイをオレは抱きとめる。


「あはは! 捕まえたぜ。さ、こっちこい」

「ちょ! おま――」


 フレイのやつはしっかりとした足取りで歩き始める。

 しまった! はめられた!

 そう思った時にはもう遅い。オレは、マコ姉とフレイの間に座らされてしまう。


「さあさあ、カズくんも飲んでください。おつまみもまだまだありますよ!」


 フレイがオレにコップを持たせ、マコ姉が缶チューハイを注ぐ。

 うん、見事なコンビネーションなんですけど?

 いつの間にこんなに仲良くなったんだ?

 まあ、オレがいない時になにやってるのかとか知らないわけだけど。


「あー……悪い。酒はやめとくよ」

「え? どうしてですか? 年齢だったらむこうに何年か行ってるんだから、大丈夫ですよね?」

「いや、実はさあ。むこうで酒は飲んでみたんだけど、ぶっ倒れちまってな。どうも、体に合わないみたいなんだ」


 うん、あれはひどかった。本当にひどかった。

 一口飲んだだけで、次の日はひどい二日酔いだ。しかも、まともに動けないで仲間には迷惑をかけまくったしな。


「なんだよ。じゃあ、俺が飲んでやるしかねぇじゃねぇか」


 そう言うとフレイはオレのコップを奪う。そして、一気に飲み干す。


「ぷはぁ! 最高だな……最高だな!!」


 そう言うとつまみのスナック菓子をわし掴みにして口に放り込む。


「うーん……じゃあ、仕方ないですねぇ。お子様のカズくんにはこのジュースを上げましょう」


 マコ姉は自分の飲んでいたコップの酒を飲み干す。そして、それにオレンジジュースを注ぐとオレに押し付けてくる。


「い、いや、新しいコップを持ってくるから……」


 これ、間接キスになるよな。うん、さすがにそれは恥ずかしいだろ?


「なんですか? お姉ちゃんの注いだジュースは飲めないって言うんですか? ああ、あの頃のかわいいカズくんはどこに言っちゃたんでしょうか。お姉ちゃんは悲しいです」

「いやいや、そう言う事じゃ……なあ、フレイ、おまえ……って、何やってんだよ!」


 振り向くと真っ赤な下着一枚だけのフレイがいた。酒を飲みながら、まったく動揺した様子もない。


「なにって、飲んでるんだけだぜ?」

「じゃなくってなんで脱いでるんだよ!」

「あー……暑いからな。脱がねぇとやってられないだろ」

「そうじゃなくって! オレがいるのになにやってんだよ! マコ姉も何か……って、マコ姉も何やってんだよ!」


 振り向くとマコ姉もピンク色の下着姿になっている。


「え? だって、フレイさんが気持ちよさそうだったんで……あ、この焼き鳥の缶詰、おいしい」


 マコ姉はのんびりと缶詰を食べている。


「ああ、もう! なんなんだよ、これ……」


 オレは顔を覆う。ほんとになんなんだろな。これ。

 むこうでもこんなむちゃくちゃな状況はなかったぞ。


「なんだよ。こんな美人二人が側にいるのに、落ち込んでんじゃねぇよ」

「そうですよ。カズくん。こんな楽しい時間にそんな顔はダメですよ」


 フレイとマコ姉がオレの腕にしがみついてくる。

 うん、その、そうすると……胸が腕に当たるんだけど……。

 オレは酒も飲んでないのに顔が熱くなるのを感じる。すごく恥ずかしいんだけど。

 まいったなぁ。無理やり逃げると面倒なことになるし。


「おい、カズマ! どうしたんだよ! あ、これでも飲んだらどうだ?」

「ああ、悪いな」


 フレイから渡されたコップの中の液体、確認もしないで飲んでしまう。

 え? あ、ヤバイ。これは……。


「ばっか、これ……さけ……じゃ……」


 オレは意識が遠くなるのを感じる。


「カズマ!」

「カズくん!」


 フレイとマコ姉の声が遠くに聞こえる。

 うん、ダメだ。

 意識がどんどん遠のく。

 オレはそのまま気を失ってしまった。



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