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#6 夕焼け

「はぁ……はぁ……」


 立ち止まり呼吸を整える。そして、あたりを見回した。

 見覚えのある坂の上――家への帰り道だ。無意識でこの道を選んでいたらしい。

 日も沈みかけている。


「ったく、まいったな」


 つぶやきながら、額の汗を手でぬぐう。

 うーん……今までは平気だったけど、どうやらあんな感じになるとまだダメらしい。

 まあ、仕方ない。そんなことも……。


「え……」


 なにげなく見た街並み。

 軽いめまいを感じる。全身から汗が噴き出す。

 向こうの世界の記憶……戦闘……破壊……放火……悲鳴……。

 目の前でそれらすべてがリアルに再現され始めた。


「ぐぅ……うう……」


 思わず壁にもたれかかりうずくまる。

 怒り、悲しみ、恐れ、恨み……様々な感情が沸き起こってくるのを感じる。


「はぁ……かはっ……」


 心臓が破裂しそうなほど脈を打つのを感じた。全身がしびれるような感覚、体がうまく動かない。


 苦しい……助けて……。


 意識がだんだんと遠のいていくのを感じる。

 まぶたが重い……もう何も考えられない。意識は完全に闇に沈――。


「カズくん!」

「カズマ!」


 声が聞こえる。オレはゆっくりと前をみる。

 夕日を背に二人の人影が見える。


「フレ、イ……マコ、姉……」


 二人が駆け寄ってくる。

 向こうの世界の映像が消え、こっちの世界の映像に変わる。音も消えた。

 苦しさが和らいでいくのがわかった。


「大丈夫ですか!」

「おい、どうした!」


 何とか立ち上がり。大きく深呼吸をする。

 二人とも心配そうな顔でオレを見てくる。


「いや……ちょっと気分が悪くなってな……昨日、ちょっと夜更かししたからかもな」


 オレは笑顔を作りながら嘘をつく。

 マコ姉はもう知ってるけど、フレイだけには隠さないとな。


「それよりもどうしたんだ?」

「どうしたって、カズくんこそこんなところでどうしたんですか? 電話にもでないから探したんですよ」

「え? あ、ああ、悪い。ちょっとな」


 オレはあいまいに笑う。さすがにケンカして逃げて来た、とか言うわけにはいかないよな。


「とりあえず、帰りましょうか……歩けますか?」

「ああ、大丈夫だ。マコ姉。ありがとな」


 まだ少しふらふらするけど、歩けないほどじゃない。

 なんとなくフレイを見る。さっきから黙っているけど、どうしたんだろ?


「フレイ? 大丈夫か?」

「……え? あ、ああ、大丈夫だ」

「そうか、ならいいんだけど」


 フレイの態度は気になる。だが、今はちょっと余裕がない。

 また今度でいいよな。


「よし、行きましょう」

「ああ、」


 オレは歩き出す。その両隣にフレイとマコ姉が付き添って歩いてくれる。


 しばらく歩くとなんとか家にたどりつく。


「ちょっと待ってくださいね」


 キッチンへとマコ姉入っていく。だが、すぐに戻ってきた。手にはスポーツドリンクが握られている。


「水分はしっかりとってくださいね」


 スポーツドリンクを受け取る。冷たくて気持ちいい。


「マコ姉。ありがとな」

「ええ、なにかあったらすぐに読んでくださいね」

「ああ、了解。フレイもありがとな」

「……え? あ、ああ、気にすんなよ」


 フレイの表情が少し暗い気がする。だけど、今は少し横になりたい。

 オレは二階に上がり自分の部屋に入る。

 ベッドに座り、スポーツドリンクを一口……うん、冷たくて甘い。

 そのままベッドに横になる。


「まいったな……」


 むこうの世界での記憶……どうしようもなかったのはわかってる。

 だけど、頭ではわかっているが、心ではそう言う風に割り切れない。

 こればっかりは仕方ないと思う。

 そんな事を考えているとドアがノックされる。


「開いてるよ」


 オレが声をかけるとフレイが心配そうな顔で入ってくる。


「どうした? なんか用か?」


 オレは体を起こし、フレイを見る。


「なんつーか、大丈夫かと思ってな……」

「ああ、悪かったな。まさか、寝不足くらいであんなことになるとは思わなったな」


 オレは頭をかきながら言う。フレイに心配をかけないようにできる限り、普通に話しかける。


「えーと……なんか用か?」

「あ、いや……ほら、俺は色々と世話になってるだろ? なんかできることがねぇかなって」

「なに言ってんだよ。いてくれるだけでも十分だよ」

「でもな……」


 フレイの顔は暗い。まいった。こういう雰囲気は苦手だ。


「えっと、フレイ。その、なんだ」


 ちょっと恥ずかしが、まあ、仕方ない。

 フレイが少しでも元気になってくれる方がいいからな。


「あのさ、おまえがいてくれるだけで、オレはすごい感謝してるからさ」

「え?」

「なんつーか、むこうの世界のことを知ってる奴がいるって、すごく安心したんだよな。あと、こう、ばたばたしちゃっただろ? あれで、余計なことを考える間もなく冷静になれたと思うんだよ」


 ああ、そうだ。フレイには感謝しかない。

 こいつには、フレイには余計なことを背負わせたくはない。


「だから、本当にいてくれるだけで十分だし、無理する必要もないから」


 笑いながらオレは言う。それは嘘じゃない。

 この問題は、オレがなんとかしなくちゃならない問題だ。

 フレイが気にする必要はない。


「さて、じゃあ、少し休みたいからまたな」


 大きく伸びをして話を打ち切る。やっぱり、こういう雰囲気は苦手だ。


「そうか……わかったぜ。じゃあ、ほんとに何かあったらすぐに言えよな」

「ああ、その時は期待してるよ」

「おう、任せてくれ。じゃあ、おやすみな」

「ああ」


 フレイはそう言いながらドアを閉める。表情がまだ暗いのは気になるけど、まあ、少しすれば何とかなるだろ。


「寝るか……」


 オレはベッドに横になる。

 マコ姉やフレイと話したことで気分はずいぶんと軽くなった。

 これからどうするか……不安だけど、今は少し休もう。

 まあ、なんとかなるさ――。

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