表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/33

#1 帰って来たのはいいけれど

「うーん……ここは……」


 オレはベッドで目を覚ます。見慣れた天井……いや……違う……数年ぶりの懐かしい我が家の天井だ!


「戻ってこれたのか!」


 慌てて体を起こす。

 ああ、間違いない。ここはオレの家、オレの部屋だ!

 見慣れた壁! 見慣れた机! 見慣れたタンス!

 ああ、そうか、戻ってこれたってことは、あいつらが皇帝を倒してくれたのか!


「みんな、ありがとな……」


 オレはつぶやく。本当なら直接言ってやりたかったが、それは仕方ない。


「あいたたた……」


 軽い頭痛がする。そういや、あいつとの戦いって、どうなったっけ?

 うーん……だめだ。思い出せない……まあ、しばらくすれば思い出せるだろ。

 今は帰ってきたことを喜ぶべきだろうしな。


「ん? なんだこれ?」


 そんな事を考えながら、無意識に手を動かす。その手が何か柔らかいものをつかむ。

 すべすべした肌触り……絶妙な弾力……すごく安心する触り心地……こんな上等なクッションなんて持てたっけ? あんまりにも気持ちがいいから、指の動きがとまらない。


「う、うーん……あん……」 


 なんか色っぽい女の声が聞こえる。なんだろ、猛烈に嫌な予感がする。

 でも見ないわけにはいかないよな……いや、でも……。


「おい! てめぇ、なにしてんだよ!」


 その声に思わず振り向く。赤い短い髪に褐色の肌が印象な女が、冷たい目でこちらをにらんでいる……しかも全裸で。

 頭が真っ白になる。

 どういうこと!? 


「お、おまえは!」

「て、てめぇは!」


 ああ、間違いない。見間違えるはずがない。オレの最大のライバルにして、炎滅の名を持つ敵の女将軍。


「フ、フレイ・アルザード!」

「イ、イワサキ・カズマ!」


 ああ、そうだ。この顔を見間違えるはずがない。何度も何度も……最後の最後まで戦った相手だ!

 え? まさか、もしかしてこいつも一緒にこっちの世界に来たって言うのか!?

 でもなんでだ!? ありえないだろ!


「なにやってやがる! その手をどかしやがれ!」

「え? う、うあぁ!」


 驚いてベッドから転げ落ちる。


「いてて……」

「おい、そんな格好で一体、どういうつもりだ……」

「え?」


 フレイがベッドの淵からシーツを身にまとい、ちらちらとオレを覗き込んでくる。

 その声は、間違いなく怒りに満ちている。


「かっこうがどうし……」


 そう言えば、体がスースーする。まるで何もつけて……。


「あー!」


 思わず叫び股間を隠す。

 忘れてた! 転移すると服がなくなるんだった! 向こうの世界に行った時もそうだったのに忘れてた!


 オレは跳び上がるとタンスをひっかきまわし、トランクスとズボン、そして、Tシャツをきる。勇者とか言うダサティーだが、仕方ない。

 とりあえず。これで……。


「おい……」

「ひゃい!」


 フレイの怒りに満ちた低い声の声に、思わず変な声で返事をしてしまう。

 こんな声、戦ってる時にも聞いたことはないって。


「俺の鎧や剣はどうなった?」

「えーと……こっちに来るときに消えたんだと思うけど……」

「はぁ? ったく、マジかよ……」


 急いで服を探す。とりあえず着るものを用意しよう。

 女物なんてないから、とりあえず、オレの……いや下着はどうする?

 あ、確か、新しいトランクスが……ああ、あった、あった。とりあえずこれとTシャツと短パンでいいか。

 Tシャツのデザインが魔王って書いてるが、まあ、こっちもしかたない。


「と、とりあえずこれでも着てくれ」


 フレイを見ないように、服を投げ渡す。

 服を着る音が聞こえる。なんだろ、すごいドキドキする。

 いや、こういう状況は初めてじゃ……あ、いや、こうなりそうなときは、そうなる前に逃げてたけどさ。


「……もう、いいぞ」


 フレイの声に、オレはゆっくりと振り向く。フレイはベッドに座っていた。

 短く赤い髪が窓からの入ってくる太陽の光で輝いている。あと、胸がきつそうだ。


「どうかしたのか?」

「いや、その……服とかきつくないか?」

「胸? ああ、ちょいきつい感じもするけど、平気だろ」


 なんだろ、こいつ、あんまり動揺してる様子もないな。って言うか、オレも意外と落ち着いてるな。

 まあ、あっちの世界に行ってるから、慣れてるってのもあるけど。


「え、えーと……とりあえず、大丈夫か? 体とかケガしてないか?」

「ケガ? えーと……ああ、大丈夫だ。だが、ここは……」


 フレイは部屋の中を警戒した感じで見渡す。


「オレの家……正確には元の世界のオレの家だけど……」

「元の世界って……」

「どうやらオレが戻る時に、お前も一緒に付いてきたらしい」

「はぁ? マジかよ」


 フレイは頭をかきむしる。

 オレは少し離れてフレイの隣に座った。


「えーと……なんでこんなことになったのかわからないんだけど……」

「はぁ? てめぇ、覚えてねぇのか?」

「え?」

「あの戦いのときのあれが原因だろ?」

「あの戦い?」


 オレは目を閉じ、必死で記憶の底からあの時の戦い――最後の決戦の記憶を呼び起こした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ