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 それからも、私はいそいそと木に登り、翠斗あきとくんの様子をスコープで見ていた。


 余談だが、翠斗くんは3年生なので一階である。

 上から覗き込む私。スナイパーぽいな、、



 辛いんなら見なきゃいいのにと自分でも思うのだが、どうしても気になって定期的に様子を確認してしまうのだ。文化祭から4ヶ月。いそいそと未だに諦めきれない私。立派なストーカーに、、断じてなっていない。


 もうすぐ卒業式か。内部進学が殆どのこの学園は私が高等部に上がったらまた翠斗くんに会えるとは思いつつも、普段会えない距離の2年間で彼への気持ちを諦められたらいいなぁと思っている。



 早咲きの桜を横目に見ながらコテージへ向かう。私が普段登っているのは桜の木ではない。あれは桜が咲いてない時期は毛虫が酷いからね。いや、登ったことはないよ?





 ーーーーーーーーーーーーーー



 卒業式。在校生の私たちは基本座っているだけ。卒業生を送る言葉は翠城すいじょうが発表していた。あんな、心のこもってない送る言葉、いらんだろう。


 歌を歌う。卒業ソングだ。



 あぁ、泣ける。高等部に上がるだけなのに、翠斗くんがどこか遠くへ行ってしまう気持ちだ。




 式の終わったあと、人目のないところで花を渡す。


「卒業おめでとうございます」


「ありがとう。星羅」


 翠斗くんのブレザーのボタンはない。くそっ!

 ワイシャツまでボタンを剥ぎ取られ、チラチラと見える首筋、胸にきゅんきゅんする。くぉーーーーーーー!!!!


 翠斗くんの目は、好きな人の美人さんに送られている。

 ち!人目のない角を選んだのに、角度的に翠斗くんには見えるんか!

 立ち位置まで考えてなかった!今すぐ場所交代しよう!?



「翠斗くんは好きな人と上手くいってるんですか?」


 ギョッとした表情をする翠斗くん。


「なんで、好きな人いるって、、」


「分かりやすいから。出会った頃から知ってたよ」


 恥ずかしそうに頬を染める。痛い。痛いよ〜。私の心が。



「この後、遊びに行くんだ。」


「良かったね。3年越し?もっとなのかな?片思いが実りそうで」


 私の3年越しの片思いはズタズタだがな。


「星羅に出会えて良かったと思ってる。お前がいたから、1人でも平気だったし、お前がいたから、クラスメイトとも打ち解けられた。お前が俺を変えてくれたんだ」



「そりゃどうも」


「ははっ。冷たいな。ボタンはないが、何か持ってくか?と言ってもこれといって何もないが」



「今生の別れでもないんですから、何もいりませんよ」



 いらない。物なんてあったら諦められない。思い出してしまう。



「お前のことは、妹の様に感じてた」




 それ以上何も言わないで。




「お兄様は間に合ってます。友達でしょう?」


「確かに、、。そうだな。一生の友達だ」



 知ってた?恋人に別れは来るものだけど、友達は一生ものなんだよ。友達のが長く仲良く出来んだぜ。



「じゃぁ。また、私が高等部に上がったら仲良くしてくださいね。それでは。」


「あぁ。また」




 私が先に歩き出す。後ろは向かない。涙も流さない。

「お幸せに」なんて言ってあげない。私は大切な友達を振る、ということがどれほど辛いことかを知っている。断る方も辛いんだよね。大切に思っていれば思っているほど。だからこの気持ちを伝えないことが精一杯の「おめでとう。幸せに」だよ。




 トボトボといつも登ってた木のところへ歩く。別に目指してきた訳ではないが、習慣になってる様だ。


 この木に登ることももうない。



 いつもの木を通り過ぎて、森へ森へと歩いてみる。


 特に何もなかった。隠れ家でも見つけようかな、とフラフラしてみる。


 でっかい木発見。虫もいない。これは体育祭の時隠れるのにトイレよりずっといいかもしれない。

 登ってみる。これはいい!この割れ目にベッドマットを置いたら寝れる!しかもごっついから絶対落ちない!雨避けにテントもつけるかな!一人で出来るかな!失恋は創作意欲が湧くぜ!無心で何かをやるって大事。




 1人木を前にうんうん、と首を振っていると


「それより先は戻ってこれなくなるよ」


 と声を掛けられた。つけられていたのか。


 振り向くとそこには若葉翡翠わかばひすい先輩。お兄様の友達だ。


「女の子のケツ追っかけるなんてはしたないですよ」


「ははは!これは手厳しい」


「いつから見ていたんですか?」


「んー、初めから?」


「初めから、というと?」


「角で話していた時に校舎の廊下を歩いていたんだ。窓から全部見えてね。」


「盗み聞きとはどこぞのスパイですか」


 お兄様スパイ?


「いや、役員として見回ってたらたまたま。」


 翡翠先輩も生徒会役員だったな。中等部の卒業式までご苦労なことだ。


「そうですか」


「失恋の余韻中ごめんね」


 ピシッ。身体が固まる。それは今禁句だボケぇ!


「まぁまぁ、落ち着いて。失恋には新しい恋だよ」


「はいはい」


「生返事だなぁ。お、そうだ!星羅ちゃん。俺なんてどう?」


 翡翠先輩はお兄様がいる時には私を妹ちゃん、と呼び、いない時には星羅ちゃんと呼ぶ。お兄様の長年の友人だ。ここで付き合ったらいい腹いせにもなる。そもそも翡翠先輩の色素の薄過ぎる白に近い髪の毛も、茶色い瞳も好みドンピシャだ。ちょい悪なのがたまらない。


「そうですね。是非よろしくお願い致します」


「え?」


 冗談にさせてやんない。新しい恋、是非とも教えて頂こう。







 失恋の末、彼氏出来ました。


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