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やってしまった。
いつかやると思った。
ここ、どこ?
うーん。敷地内ではあると思うけど、、
はい、皆さん御察しの通り、迷いましたぁ。
どこだよここ!なんでこんな時に限って一人なんだよ!このまま戻れなくて大騒ぎとか恥ずかしいからやめていただきたい。
適当に歩くかぁ〜
あわよくば、人に道聞ければなぁ。
そもそもなんでこうなったかと言うと、コテージの個室が今日は取れなくて、仕方なく琥珀院と紫藤がいる、一階でお茶をしていたら6年のお姉様方に、月1イリスの会の小学生部門の主催を任されそうになった為、こっそり逃げて来たのだ。樹のところにでも行こうかと思って、いつもと違う道を使おうとしたのが運の尽き。
ちなみに月1のイリスの会メンバーのお茶会は「アイリス」と呼ばれている。虹の女神イリスが女神になるときに使った蜜から生まれた花の名前だそうだ。名前似てるしね。イリスの会の子どもバージョンにはお似合いだ。
アイリスには行ったり行かなかったりだけど、あんまり欠席すると角が立つのでそこそこ参加している。今頃紫藤か琥珀院が主催の被害にあっているだろう。
それにしても私って方向音痴だったかなぁ、、
あまり森の中に入らないよう、木々を避けながら建物沿いに歩く。
「初等部はこっちじゃない。その道を引き返して、左に曲がれ」
え!誰!?
私はキョロキョロしたが、誰も見えない。
「もしかして、幽霊!?いや、まさか雪城学園ともあろう学校に、、じゃぁ妖精!?いや、妖精は樹か。小人さん!?そうか、小人かぁ!」
私は木々のふもとを探してみるが、全く見えない。
「小人さん、私、チョコレート持っているのよ?こちらにおいで。私は怖くないわよ〜!捕まえたりしないわよ〜」
手ぐすねを引いて待ってみる。
返事がない。
「まさか、妖怪の類い!?大丈夫よ!私に悪さしない妖怪なら仲良くなりたいわ!チョコレートあるのよ〜!」
「ぶっ!!いいから早く帰れよ。お前本当にお嬢様なのか?」
私は声が聞こえて来た方を見上げた。
木の上に人間が。
「人間だったの」
これは行けない。口止めせねば。
「お兄さん!チョコレートがあるのよ。あげるから降りてきて?」
「ふっ!チョコレートでつろうとするのやめろ。いいから帰れ」
もー。強情だな。同じ木に足をかけ器用に登っていく。
「ちょ、子どもには危ない。降りて。やめろ」
「そうやって大人は子どもの選択肢を奪うのよ。出来るか出来ないかは自分で決めるわ。」
「自分で責任が取れないうちは、大人の言うことをひとまずは聞いて、何故そう言われるのか考えてみるものだ。」
「一理あるわね。でもおあいにく様。木登りを自分が出来ること知ってるから大丈夫よ。責任も何もないわ」
私はスルスルと登り、彼がいるところまでたどり着く。
「結構高いところまで登ってるのね。」
どこか座れないかと、模索していると、枝がパキッと音をたて、折れた。
げっ!綺麗に啖呵きったから意地でも落ちるわけには行かない。それに私は枝が折れるほど重くないぞ!失礼な木だ!
すると腕が伸びて、気づいたら私はお兄さんの上にいた。
「木登りが、なんだって?」
「今のは勝手に折れた木に非があるの、私の木登りの技術ではないわ」
「屁理屈娘だな。」
私は彼を見て息を飲んだ。目が、緑。外国の血か?でも青は分かるけど緑なんて珍しい。とにかく、凄く綺麗。色白な所も。顔凄く整ってるし、神秘的要素満点だ。
「綺麗。吸い込まれそう」
「は?」
「目が綺麗ね。私、とても好きな色よ」
彼はハッとして、腕で自分の顔を覆った。
私はムッとして
「何で隠すのよ、嫌がらせ?もっと見てたいんだけど。見ても減るもんじゃないし。金か!?金払えばいいのか!?」
「、、、、、、お前気持ち悪くないのか?」
「ああ、そういうこと。気持ち悪いって言われてきたの。私は好きな色だわ」
彼は恐る恐る腕を退けた。
「ふうん?怖くもないわけ?」
「まさか、目からビームでも出るわけ?それなら流石に怖いわ。あとは石になっちゃうとか?どうせ石像になるならこんな格好ではなく、きちんとポーズをとりたいわね。」
「、、、、、、。いや、ビームは出ないし、石にもならない。お前変わってるな。」
まあ、こちとら転生までしてるから。人と違う、で言ったら私が一番だろ。
「目の色の事を言ってるのであれば、私もグレーの色だわ」
「緑とでは大違いだろ。もういい。それで、何の用だ?」
中等部の制服、ということはここは中等部!?こんなところまで迷ったわけ!?は!いけない。口止め口止め。
「あ、そうそう。チョコレートよ!ほら、おたべ。そして私の発言の数々と行動は内緒にして欲しいわ」
私は無理矢理口の中にチョコレートを放り込む。
「むぐっ。お菓子を校内に持ってくるのは禁止されている筈だが。」
「あなたも食べたでしょ?共犯よ」
冷たい眼差しでこちらを見上げる。こいつ、目つきがかなり悪い。いや、本当に、殺人鬼のように。
「目つき凄く悪いのね。怖がられているとしたらその目つきの悪さのせいよ。ずっと驚いてるか、ずっと笑うといいんじゃない?」
「、、、、」
ふと、彼は建物の方を向いた。どこか切なそうな、それであって真剣な目をしていた。多分、建物の女の子に恋をしているのだろう。
ふわっと風が吹き私の髪を撫でた。
その目が私を捉えた時、
私は恋に落ちた。
好みではないのに、、でもダメだ。前世で知ってるこの感覚は、恋に落ちたことを証明している。
私も一緒になって建物を見ると、お兄様がいた。ん!?お兄様に悪い虫がつこうとしている!何てことだ!至急対策を取らねば、、!!!
「あなた何年生なの?」
「俺か?今中等部の一年だ。」
てことは私が中等部一年の時三年か。攻略対象かな?、でもイリスの会でもアイリスでも見たことないが。
「今日はもうお昼休み終わるから戻ります。いつも昼休憩はここに?」
「まぁ、だいたい。」
「また明日くるわ。名前は明日教えて?またね」
教えてもらった道を戻り、初等部の近くまで来た。ここからの道は分かる。
よし。
私は携帯を取り出した。
「ふふ、びっくりした?元気?」
「うん、びっくり、まあまあ元気だよ」
隣の建物から返事がかえってきた。
隣は男子トイレだ。窓付近で私が電話していたようだ。
「今、何してるの?」
「?君と同じだよ。ウンコしてるんだ。」
私は携帯を握りしめたまま、ゆっくりとその場から離れて、小声で「掛け直しますわ、私の質問にいちいちトイレから返事してくる人がいますの」と電話を切った。
放課後になり、吉本が
「そういえば今日不思議な出来事が起きたんだ」
と言い始めた。
「おれ、初等部裏のトイレの中で話しかけられちゃって。返事したんだけどそのままどっか行っちゃったんだよねぇ」
「えー!吉本あんな古いトイレ入ったのかよ。あそこ壁も薄いし、暗くね?」
「え、まさか幽霊!?」
「え、、」
私は何も言わずその場から去った。




