切ない恋愛小説 【山田くん】
屋上に吹き抜けた風が、俺と田中さんの髪を撫でていく。
「俺も、なんか田中さんの前だと、何でも言える気がする」
「そっか。……嬉しいです」
そう言った田中さんは、こっちを向いて、こてんと首を傾けて笑う。
太陽に照らされたせいか、田中さんの方を向くと、眩しくて目を細めた。
「お弁当、美味しい」
再び声を発した田中さんに顔を向けると、照れ臭そうに下を向いていた。
きっと、一生懸命に話の話題を考えたりしていたんだろう。
「そうだね」
俺がそう答えると、また話は途切れてしまう。
「田中さんは、本はよく読むの?」
田中さんは黒色の綺麗な髪の毛と落ち着いた雰囲気で、側から見ていたら、読書を好みそうな清楚系な女の子と見れる。
俺は本は結構好きだし、よく読むから、自然と口から零れていた。
「……!!」こくこくこくこく
田中さんの首が、上下にすごいスピードで動いている。
どうやら、ものすごく好きなようだ。
「好きなんだね」
と聞くと、こっくんと大きく頷く田中さん。
乱れた髪を耳にかけると、あなたもですか? というような眼差しで見つめられる。
「俺も結構読むよ?」
「主に読むのは__」
「「切ない恋愛小説……」」
二人の声が、風にのって消えていく。
「山田くんも、恋愛小説を読むんですねっ」
「何を読みそうに見えた?」
「ミステリ、とか……」
「ミステリも好きだけどね」
そう言って笑いあう。
本人は無自覚なのかもしれないが、途切れることなく会話ができている。
それも、「相手が俺だから」という理由だったら、嬉しいと思ってしまうのだった。
「あ……もう教室に戻った方が良いかな」
暫くすると、俺は腕時計を確認して言う。
「もうそんな時間ですか」
と、膝にのせていた弁当箱を抱えて立ち上がった田中さんを見ながら、来たときと同じドアから帰る。
お互いに読んでいる小説が一緒で、教室までの間も、その話は途切れなかった。