表情の話 【山田くん】
高校一年の入学式。
おれは憂鬱だった。
だって、話すのも得意とは言えないし、話が滑るときだってあるからさ。
クラスに着いて真っ先に席順を確認したら、一番後ろで少しほっとした。
後ろからの視線って、何だか苦手なんだよな。
「隣の席は、田中……って」
よくありそうな名前同士だな、って、ちょっと笑ってしまった。
『田中 早代』
女の子だよな。
早く来ないかな~って前の方の扉を見つめてたら、ガラッと開いて、黒髪の女の子が入ってきた。
胸の辺りまであるかな。
光に反射してて綺麗だったから思わず見とれたけど、まさかの田中さんだった。
「田中さん?」
って喋りかけたら、言葉は返ってこなかった。
それでも表情がよく動いていることに気がついた。
不思議だと思ったら、キョトンと首を傾けてる。
驚いたら、目を見開いたり。
初めは無表情だったし、気難しい子かなって思ったけど、俺には、田中さんみたいな子の方が良いのかも知れない。
一緒にいて疲れないというか、相手が喋らなくても、一緒にいて楽しいって感じ。
だから俺、田中さんと友達でいたいって思ったんだ。