桃太郎(鬼の子目線)
ボクは鬼の子ども。鬼ヶ島に住んでる。
とーちゃんは、とても強い鬼で、鬼たちのまとめ役。
鬼って言うと、すごい怖いとか思われるかもだけど、
とーちゃんは、優しいし、一緒に遊んでくれるし、
怖いのは怒られる時ぐらい。
鬼ヶ島のおとなたちは、何日かに1度海に出る。
そして、たくさんの宝物とともに帰ってくるんだ。
とーちゃんたちは、昨日帰ってきたとこで、
隣の部屋でわいわいさわいでる。
とーちゃんは、酔っぱらうとよく、ボクの自慢をするんだ。
ちょっと恥ずかしいけど、とーちゃんにほめてもらえるから、うれしかったりもする。
で、今、とーちゃんの隣に座って自慢され中。
そろそろ眠くなってきたんだけど……。
「テキシュウだ!」
突然、響きわたった怒鳴り声に目を覚ます。
…テキシュウって何、おいしいの?
とーちゃんに聞こうとしたら、口を開くまもなく、
近くの押し入れに放り込まれた。
「いいって言うまで絶対にでてくるなよ。」って。
ふすまの閉まる音がして、しばらく経つと、
外で、とーちゃんと若い男の人が言いあってるのが聞こえてきた。
「私の名は桃太郎。
近隣の村から宝を奪う鬼を退治しに参った。」 ……
退治するって…
とーちゃんは、悪い鬼じゃないのに…
なんで……なんで………
そうこうしているうちに、武器のぶつかりあう音が聞こえてくる。
とーちゃんが負けるはずがない、そう思っていたけれど、
心配でならなかった。
どれほど時間がたったのか、
武器のぶつかる音が絶え、誰かが倒れる音がした。
とーちゃん、勝ったんだ!
そう喜んだのはつかの間。
聞こえてきたのは桃太郎とかいう奴が刀をしまう音と、
とーちゃんのうめき声。
ボクは「でてくるな。」と言われていたことも忘れて、
ふすまから飛び出した。
「とーちゃんっ!!」
とーちゃんに駆け寄る。
「出てくんなって言っただろーがバカたれ……」
とーちゃん、そんな弱々しい声で怒られても怖くないよ……
とーちゃん、お願いだから目を開けてよ……
とーちゃん……とーちゃん………
とーちゃんが死んでしまった悲しみとともに
こみ上げてきたのは、桃太郎への『憎しみ』
「なんで、とーちゃんを殺したんだよ!」
ボクは桃太郎に殴りかかろうとした。
……が、
突然、首根っこをつかまれてひきもどされた。
振り返ると、そこに立っていたのは、かーちゃんだった。
ボクは思わずかーちゃんに向かって叫んだ。
「なんで止めるんだよ!コイツはとーちゃんを殺したんだよ!
かーちゃんは、コイツが憎くないの?!」
すると、かーちゃんに顔をひっぱたかれた。
「私だって憎いよ。……でも、ここでこの人を殺したところで、
お父さんは帰ってこないんだよ。」
ボクはうつむく。
すると、今まで我慢していた涙がポロポロと流れ落ちた。
「とーちゃん………」
気がつくと、いつの間にか桃太郎は姿を消していた。