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7,ふんわりクソ野郎

 マザーウォール日本支局。

 ここの局長はいわゆる『天才』だ。

 10代でハーバード飛び級卒業とか言う、漫画の「天才キャラ」のテンプレの様な所業をやってのけた程。


 ただ、天才=人間の鑑と言う法則は残念ながらこの世界には存在しない。


「ねぇねぇー、リンちゃん。火星の第2の地球化(テラフォーミング)計画とか興味無い?」

「……いきなりなんすか……」


 余りにも暇だったので、俺は日本支局の本部基地に足を運んでみた訳だ。

 そのレストルームで、不運な事に件の局長に出くわした。


 来築くるつき悠李ゆうり

 マザーウォール日本支局局長。24歳、独身。絵に描いた様なビン底眼鏡と三つ編みおさげが印象深い。

 白衣は似合っている訳でもなく似合わない訳でも無いが、着慣れている感はある。


「この前さー、ゴキブリを火星に送り込んでテラフォーミングを進める漫画を読んだんだけどねー」

「あー、アレっすか……」

「君、インバーダ状態だと黒いし、しぶといし、ぴったりだと思うんだー」

「何がだコラ」


 紅茶片手に人をゴキブリ扱いとはどういう了見だ。


「ってな訳で、火星の第2の地球化(テラフォーミング)計画とか……」

「誰がやるか!」


 ゴキブリの代用品として火星に送り込まれるなんざ冗談じゃない。


「あはははー、本気にしてやーんのー。相変わらずチョロいねー」

「んなっ」

「対インバーダの最重要戦力を火星に配置する訳無いでしょー」

「……あんたなら、思いつきでやりかねないだろうが」

「そーかなー?」


 ケタケタと楽しそうに笑いながら、局長が紅茶を呷る。


 そう、この人はこういう人物なのだ。

 人を小馬鹿にして楽しむ事が生きがいだと、自身のプロフィールに何の躊躇いも無く直で清書する様な人。

 間延びしたおっとり感のある口調や、ふんわりした雰囲気とは真逆の性根。


 それがマザーウォール日本支局局長、通称『ふんわりクソ野郎のユーリ』……!

 しかも、外道だクソ野郎だと呼ばれる度、ちょっと嬉しそうに照れる天性のドSである。


 ……まぁ、でもやはり頭が良いだけはあり、ギリギリ冗談で済まされるラインの嫌がらせで留まる観察眼は持ち合わせているらしい。

 今のところ、この人の行動が問題になった事は、俺が知る限り1度しか無い。


「ところでー、未だに事ある事にGGに乗ろうと色々画策してるみたいだねー」

「画策って程じゃないっすけどね」


 チャンスがあれば、なり振り構わず食らいついてるだけだ。

 ……ま、何故かチャンスが来る度にインバーダが邪魔するけどな……身に覚えは欠片も無いのだが、俺は何か神の不興を買ってしまっているらしい。


「いい加減、諦めれば良いのにー」

「ヤだね」


 諦めなど付くものか。男の浪曼だぞロボットは。


「大体さー、考え様によっては乗ってるじゃーん、何回かさー」

「はぁ?」

「この前も、テンペスト・ダイヤーに乗ったって聞いたよー」


 ……ああ、そういう事か。


「ああ、乗ったな、確かに乗りましたよ……上に」


 この前、可変型GG『テンペスト・ダイヤー』の第2回運用テストに付き合った時の話だ。

 例によってジャックの仮病、バージャスさんの英断により、俺がテストパイロットに指名された直後、巨大インバーダが出現。

 今回のテストはテンペストの高機動モードの動作&武装確認のテストだったので、「丁度良い」と一緒に出撃になった。

 ってな訳で、ステルス機の様な高機動テンペストの上に仁王立ちして俺は現場に向かった訳だ。


 今までも、デストロイドとかを急場しのぎの足場にした事とか何回かあったよ、確かに。


 ……そういう事じゃないんだよ、チクショウ。

 俺はロボットの上じゃなくて、コックピットに乗ってそして操縦がしたいんだよ。


 っていうか、この前のテンペストとの出撃。

 アレ結局、足の裏とテンペストの間で引力を発生させていたので「乗ってた」と言うよりも「貼り付いてた」ってのが正確だし。


「うぅ……マジでどうにかしてGGに乗る方法って無いんすか……?」


 こんな人でも1支局の局長。

 量産型GGをちょっとくらい好きにできる権力くらいはあると思うんだ。

 案外、必死にお願いしてみたらそういう……


「あはー。そんな風に懇願されてー……私が手配してあげると思う?」


 ですよねー……このふんわりクソ野郎。

 恨めしい、そんな感情を込めて睨んでやる。


「んー? 何かなその意味深な視線はー? 発情期かなー? いやーん」

「……もうちょい色気のある体型の人のセリフっすよ、それ」


 せめてもの抵抗だ。嫌味を言ってやる。


「ふーん、私の色気がわからないとは、リンちゃんはまだまだ童貞だねぇー」

「どっ……」


 ダメだな。うん。わかってたけど、嫌味の言い合いではこの人に勝てない気がする。

 そこは「未熟」とか「子供」とかの表現で良いだろうが。

 本当、人が気にしてる所を正確に突いてくる。


「そうそう、童貞と言えば、インバーダ化で君のDNA細胞って結構変質してるけど……」

「?」

「君の精子と人間の卵子って受精するのかなー?」

「まーた悪趣味な冗談を……」

「ううん、これは割りと真面目に興味がある事柄だよー?」


 どうやら、本当に興味が湧いてきたらしい。目の色が、マジモードだ。


 ……ちょっと嫌な予感がしてきた。


「うん、これは面白いかも。ねぇリンちゃん、ちょっと人工卵子でテストしてみたいから、精子提きょ…」

「俺は急用ができる予定ができたのでッ!」


 しばらくこの基地には立ち寄らない方が良さそうだ。





 ………………。


 釜尾さんのマンション。

 テーブルの上に、白いカップと弁当箱くらいのサイズの小型瞬間冷却装置が置かれていた。


「……これは」

「精液検査で使われてる正規品のカップ。それと瞬間冷却装置よぉん。悠李があなたに渡しとけって」

「…………」

「提出期限は明日の14時だってぇ」


 ……しまった。

 この人、あのふんわりクソ野郎の直属の部下だった。


「釜尾さんの裏切り者……!」

「何よぉん。私何か悪い事した?」


 いや、まぁ釜尾さんも仕事だからね。上司の指示に従っただけだしね。

 やはり悪いのはあのふんわりクソ野郎である。


「あ、なんなら、採取を手伝ってあげましょうか?」

「全力で遠慮します」



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