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6,燃えるキング

 マザーウォールには、エースと称すべき兵士が4人いる。


 生身で最強、兵士であり兵器、ミスティック・ジョーカー。

 クセの強い重砲撃機体を選り好んで乗りこなすロリ大明神、クイーン。

 期待の若手、器用貧乏、ジャック。


 そして……


「ぬーはははははははぁぁああああっ! 俺は今、最高にクールだぞぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉお!」


 クールさの欠片も無い熱い咆哮を上げ、その中年男は操縦桿を全力で引き倒す。

 コックピット内が狭すぎると言わんばかりに、ド派手な動作で操作し続ける。


 普段ならハンサムな顔立ちと言えるのだが……

 今、彼の目は限界までひん剥かれ、鼻の穴は興奮の余り肥大化しており、ハンサムの面影は無い。


「クゥゥゥゥルッ!」


 中年が操縦するのは、紅蓮に輝く装甲を纏った30メートル級の人型機体。

 テンペストの様に細身でも無ければ、デストロイドの様にゴテゴテしている訳でも無い。

 腰の両端に刀剣装備が1本ずつ。バックパックにはパイルキャノンと折り畳み式のジャベリンが収納されている。

 後は手首に機関銃が内蔵されている程度。


 マザーウォールが誇るエース、『覇王キング』の異名を取る男、アーヴァイト・ヴルヴァインの専用機。

 その名も『バーニング・ハート』。


 外観の赤いカラーリングは目立つが、デザインラインは量産型のGGと大差は無いありふれた人型機。

 武装も溶断を目的とした超発熱仕様ヒートチューニングが施されてはいるが、目に見える派手さは余り無い。

 それに発熱兵器よりビーム兵器が効率が良いとさえ言える。なので、むしろ攻撃面では量産機に遅れを取っている節もある。

 一応『必殺の武装』なんてのがあるのだが、1回の出撃で使えても2発が限度、2発撃てば戦闘がままならなくなると言うリスク付き。


 そんな機体で、アーヴァイトはエースと呼ばれる程の一騎当千の働きをするのだ。


 量産機を少しカスタムしただけと言える様な機体でインバーダを容赦無く薙ぎ払う、その果敢な姿。圧倒的な技術と気迫。

 故に彼は『覇王キング』と呼ばれる。


「キンッキンにぃ、クゥゥゥゥルだぜおぉぉぉいッ!」


 紅蓮の機体が槍を放り捨て、その両手に刀剣武装を握る。

 応じて、発熱機構が起動。その刃が薄らと極熱の赤味を帯び始めた。


 暗い宇宙を切り裂いて、バーニング・ハートが突貫する。


 目標は、月をバックに咆哮を上げる熊型の黒いインバーダ。全長は50メートル程。

 ずんぐりむっくりとした体型で、シルエットだけを見ると、どことなくゆるキャラっぽい。


「ゴアアアァァアァアアアアアァァァアアアァァアアアアアア!!」

「うるせぇぇ! 戦場でクゥゥルになれない奴は、死ぬぞおるぁぁぁぁぁ!」


 お前は人の事言えねぇよ、と管制室のオペレーターが総ツッコミしている事など露知らず、アーヴァイトが吠える。


「ゴゥアッ!」


 熊インバーダが、迫るバーニング・ハートに対しその黒い爪を射出する。


「クールに回避ぃぃっ!」


 それをヒラリと躱し、紅蓮の機体がその剣を振るう。

 熊インバーダの頭部を、バッサリ溶断……とはいかない。

 傷は付けられたが、刃が深くは通らない。


「硬ぇなぁ! 中々クゥールじゃねぇか!」


 甲殻が硬いなら、内側を狙うだけだ。

 アーヴァイトは一瞬で狙いを変え、熊インバーダの口に、思いっきり刃を突き立てた。

 もう片方のヒートソードは、熊インバーダの右腕、その肘の辺りへ。

 その剣に、インバーダの甲殻を突破する威力は無い。

 だから、アーヴァイトは甲殻の隙間、青白く輝くその場所に、鋒を滑り込ませた。

 赤味のある刃が、甲殻の隙間を縫ってその右腕を貫通する。


「グ、ギャ……」

「まだまだぁぁっ!」


 そのまま、スラスター出力を全開まで引き上げる。

 出力任せに、自身の機体よりも1回り大きなインバーダを力づくで月面に叩きつけた。


 更に熊インバーダの口に刺したヒートソードを引き抜き、そちらも右腕の甲殻の隙間へ。

 熊インバーダの右腕を、2本のヒートソードで月面に深々と縫い止める。

 しばらくもがかなきゃ抜けやしないだろう。


「ガボァ!」


 月面に叩き付けられながらも、熊インバーダは動かせる左腕でバーニング・ハートを狙った。

 アーヴァイトは熊インバーダに突き立てたままの刀剣をあっさりと放棄し、距離を取る事でそれを回避。


「しゃぁっ! パイル・ストライカァァァ!」


 バーニング・ハートのバックパックが展開、内から現れたのは、大きな鋼の杭が装填された小型バズーカ。

 装填数3発、アーヴァイトの要望で開発された中距離仕様のパイルバンカー、パイルキャノンだ。

 威力は高い。だがその弾数制限故に扱いが難しい武装でもある。


 そのパイルキャノンを熊インバーダの左肘を狙って射出。貫通とまではいかないが、その黒い甲殻に大きな亀裂が入る。

 亀裂を修復される前に、更にもう1発。

 打ち込まれた鋼の杭が黒い甲殻を貫通し、その腕と月面を縫い付ける。


「ギィ!?」


 これで、熊インバーダの両腕は封じられた。


「うぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ! 準備万端! クゥゥゥゥゥルに必殺!」


 パイルキャノンを放棄し、アーヴァイトは再突貫。


 バーニング・ハートの右拳が、赤味を帯びる。

 そう、その拳にも超発熱仕様ヒートチューニングが施されているのだ。

 それも、使用するとその拳が自身の熱で溶解してしまう程の超出力の物が。

 1回使用ごとに腕部を丸ごと解体修理オーバーホールしなきゃならなくなるので、整備班としては使用を控えて欲しい必殺の武装。


 その名も、


「バァァァァニング・ブロォォォォォォォォォォウッッッ!」


 灼熱を帯びたその掌が、熊インバーダの頭部を掴む。

 ヒートソードでは表面に傷を付ける事しかできなかった甲殻が、一瞬で溶解し、朱色に蕩け始める。


「ギ……」


 熊インバーダが何かしらの抵抗を見せる前に、


「クール……エンドォ!」


 その頭部を、握り潰した。




 相変わらず格好良い。

 格納庫のモニターで見るバーニング・ハートの戦闘は、いつだって神作画のロボットアニメを見ている様な気分にさせられる。


 アヴァさんの無鉄砲さと、それを支える確かな操縦技術、一瞬一瞬の判断力。

 それらが上手く相乗する事で、あの人は無茶苦茶とも思える戦い方でも多くのインバーダを撃破、生還し、エースと呼ばれる程になったのだ。


 そんなこんなで感動に浸ってる内に、結構時間が経っていたらしい。

 紅蓮の機体、バーニング・ハートが帰投して来た。


「お、戻って来たなアヴァの野郎。また必要無しにバーニング・ブロウを使いやがって……説教してやる」


 俺の隣、バージャスさんが拳を鳴らしながらそんな事を言う。


 まぁ、確かに、あのノリならバーニング・ブロウを使わなくても倒せた感はある。

 ぶっちゃけ言うと、パイルキャノンを動きを封じるためでは無く、近距離でインバーダのド頭にブチ込めば良かったのだ。

 アヴァさんなら、それくらい余裕でできただろう。


 でも使っちゃうよね。俺でも使うわ。だって専用の必殺武装とか格好良いモン。

 絶対出撃の度に使うわ。


 まぁ、アレを無駄に使って整備班に小言を言われるのはバージャスさんだし、双方の気持ちもわからんでもない。




 格納庫横のレストルーム。

 キャパ100人の広い空間にフードコートの様な簡易テーブルが並び、ドリンクバーも完備されている。


「アヴァ、コブできてる」

「バージャスめ……奴は手加減と言う言葉を知らんのか……」


 俺はオレンジジュース、ロリ大明神(シルヴィアさん)はブラックコーヒー、アヴァさんはレモンティーを入れ、同じテーブルを囲む。

 シルヴィアさんの言う通り、アヴァさんのデコには中々のコブができている。


「クールクール言ってるくせに、ノリで武装を選ぶから」

「俺は、きちんとクールな判断をしたつもりだ」


 戦闘中のアヴァさんと同一人物とは思えない、非常にクールなテンションのハンサムがレモンティーを呷る。


「大体、たらふく砲撃をブチ込む事だけを目的とした機体に乗ってる奴に言われたくは無い」

「私は別にクールビューティ目指してないから良い」

「まぁ、格好良いからつい使いたくなる気持ちもわかりますけどね……」

「ああ、わかってくれるかジョーカー。アレは最高にクールな武装だ。何せ、俺考案だからな」


 バーニング・ハートの武装は、大体アヴァさん考案である。

 でなけりゃ、エースの専用機に超発熱仕様ヒートチューニング武装なんて一昔前の武装ばかり積むなんてありえない。


「実は今、更にクールなアイデアを練っているんだ。聞きたいか」

「マジっすか……!?」

「どうせ、ロクでもない。っていうか、そういうのは技術班に任せとけば良いのに……」


 精神面が大人なシルヴィアさんにはわかるまい、自分の理想の武装を考える楽しさを。

 俺だって、専用機さえもらえりゃ日々の大半を武装の考案に費やしたいくらいだ。


「バーニング・ハートの掌に小型のパイルバンカーを組み込み、バーニング・ブロウで溶解させた部位を貫通破壊する……その名も、『バーニング・スティンガー』!」

「……使い捨てになる武装の製造費を増加させてどうするの……マザーウォールの財政をそんなに圧迫したいの?」

「っていうか……バーニング・ブロウは起動時点から拳の溶解が始まるのに、パイルバンカーが正常に起動しますかね……?」


 インバーダの甲殻を溶解させてる頃には、パイルの射出口も溶けて潰れてしまっている気がする。


「そう、そこが問題なんだ。だから、まだアイデア段階なのだ。どうにかして、あの熱量でも溶解しない素材で拳を作れない物か……」


 それが出来りゃもうやってるだろう。

 出来ないから、毎回毎回整備班の小言でバージャスさんのストレス値が上昇してるんだ。


「燃える拳とパイルバンカーは男の浪曼だからな。何よりクールだ。どうにかしてコラボさせたいのだが……」

「浪曼を優先して、コストや効率の問題を考えない時点でクールじゃない」

「お前のクールと俺のクールは違うんだ、このロリ大明神め。だがジョーカー、お前はわかるだろう? このクールな浪曼」

「そうなの、ジョーカー?」

「う……」


 ほんのり板挟みの予感。


 正直、断然俺はアヴァさんに同意だ。全力で同感ですと言いたい。

 しかしそれはシルヴィアさんを孤立させる事になる。


 うーん、でもシルヴィアさん大人だし、気にしな……

 いや、でもシルヴィアさん、アヴァさんとはちょっとソリが合わないと言うか、よくお互いに抑揚の無い落ち着いた口調で口論してるよなぁ……

 ここでアヴァさんの肩だけ持つと、俺とも軋轢が生まれる可能性が……


 俺がベターな答えを必死に模索する最中、レストルームのドアが乱暴に開け放たれ、バージャスさんが現れた。


「ジョーカー! すまんが出撃してくれないか。大型が出たんだが、バーニングは腕のオーバーホール中、デストロイドは調整中なんだ」


 ナイスタイミングだ、バージャスさん。そしてインバーダ。


「うす! じゃあ、そういう事なんで!」


 インバーダの駆除に駆り出されるのが、こんなにも嬉しく思えたのは初めてである。


 感謝の念を込めて、今回のインバーダは苦しまない様に一瞬で楽にしてあげよう。



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