表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

4,大人少女

 いつもの検査の後、シャンバラ内の廊下にて。

 以前、シェーナさんが言っていたエリンとやらと俺は世間話をしていた。

 活発そうな子だ。俺と同い年らしいがどこか子供っぽい。


「へぇ、妹さんがいるんだ」

「写メ、見るか?」

「あ、うん」

「ほい、このフォルダ内は全部妹の写真だ。好きなだけ見て良いぞ」

「せ、1892枚……」


 まぁ少ないよな。

 スマホには容量の都合でセレクションした一部しか入れていない。


 それと先日、来る文化祭に備え一眼レフのデジカメを買った。

 なので今後はパソコンを中心にデータ管理をするつもりだ。

 ネットのデータストレージで保存しておけばスマホからでも閲覧できるらしいし、そちらも活用していく。


「あ、ジョーカーだ。やっほー」

「んお、シルヴィアさん。ちわっす」


 廊下の向こうから歩いて来たのは、どう見ても小学生くらいの少女。

 俺の腹の辺りに頭がある。

 着ている服も子供服売り場のマネキンからそのまんま流用した感じだし、相変わらず実に小学生っぽい。


 シルヴィア・L・明神みょうじん

 日系ハーフで、マザーウォールに所属するGGのパイロットである。


「シルヴィア……さん?」


 ん? 何でエリンは疑問形なんだ……って、ああ。

 もしかして、シルヴィアさんの事を知らないのか。


「シルヴィアさんは、シェーナさんと同い年だぞ」

「……は?」


 まぁ、そうなるわな。

 俺も最初はそうだった。


「シルヴィア・L・明神みょうじん。今年で29。よろしくね」

「え、う、嘘!? こんな子が……ってあ、すみません、こんな子とか言っちゃって……」

「大丈夫。子供扱いには慣れてる。さっきもバージャスから飴をもらった」


 んべ、とシルヴィアさんは口を開け、舌先に乗っけた赤い飴玉を見せてくれた。


「あ、飴……」

「子供扱いはお得な事もある。色々もらえる。特にお菓子。頭を撫でられるのも嫌いじゃない」


 うん、だってついつい俺が頭を撫で回しても全く意に介する様子が無いからな。

 実年齢はどうあれ、外見がこう子供だとついついお菓子を与えてしまったり頭を撫でたりしてしまうのは人の性だろう。


 ああ、昔はこうやって夏輪の頭も撫で撫でしてあげたなぁ……


「それに小馬鹿にされてイチイチ腹を立てる程、私は子供じゃない」

「……お、大人だ……」


 そう、シルヴィアさんは年齢に全く釣り合わない外見の癖に、精神面は歳相応に落ち着いているのである。

 そのGG操縦技術の高さから『女王クイーン』と呼ばれる一方で、その外見+堂々たる振る舞いから『ロリ大明神』と言う陰のアダ名も存在する。


「っていうか、何で知らないんだよエリン……ついこの間も出撃してたじゃん、『デストロイド・スペード』」


 シルヴィアさん専用に調整されたワンオフGG、デストロイド・スペード。

 重火器やビーム砲門をアホ程搭載した、単騎での超重爆破壊を目的としたGGである。

 大型のインバーダが出現したら、まず俺か、シルヴィアさん、もしくは『覇王キング』の異名を取るあの人が出撃になる。


 エリンはシャンバラ勤務になって2ヶ月程らしいが、この2ヶ月でもシルヴィアさんは何回か出撃しているはずだ。


「デストロイドって……あ、あのゴリ押しの鬼みたいな機体に、こんな華奢な人が乗ってるなんて……」


 デストロイド・スペードは知っている様だが、パイロットの詳細は知らなかった様だ。

 にしても、「華奢」か。良い表現を見つけたモノだ。


「い、一体何であんな機体に……」

「私好みにカスタムしてもらったら、ああなった」


 戦慄するエリンに構わず、ロリ大明神様はマイペースに口の中で飴玉を転がしている。


 その時、シャンバラ内に緊急放送が入る。


『えー……緊急連絡だ。ジョーカー、クイーン。出撃要請だ。格納庫に来い。以上!』


 ブッツン、と乱暴に放送が終了する。

 あの声はバージャスさんだろう。


「ジョーカー、出撃要請だって」

「俺とシルヴィアさん両方って事は、大型の群れってとこか」

「あ、じゃあスマホ、返すね。いってらっしゃい」

「おう」

「うん、いってきます」


 ってな訳で、いつも通りインバーダ退治に出発だ。





 ……いつも通り、なはずだったんだが……


「マジで『白』……だな。ありゃあ」


 漂うスペースデブリの1つの上で仁王立ちしながら、俺は遥か前方の標的に目をやった。


 白いボール、だ。

 そのボールには無数のラインが入っており、赤黒く発光している。


 白い甲殻に、赤黒い発光……今ままで相手にしてきたインバーダの特徴と、真逆とも言える外観である。


 インバーダ共は形は様々だが、色が違うパターンは初めてだ。


 ボール型の白いインバーダはゆっくりと縦回転しながら、こちらへと向かって来る。

 大きさ故にゆっくり回転してる様に見えるが、あれは結構な速度で回ってるな……


『不思議だねー』


 俺の黒い甲殻の下、耳に装着した無線通信機にシルヴィアさんからの通信が入る。


 俺の後方に佇む巨大な影。

 全長30メートル程の、人型ロボット兵器。

 まぁ、色々ゴテゴテ付けすぎてて、シルエットだけだと人型には見えないが。


 人型機を中心に、両肩にミサイルポッド、背中には巨大なビームキャノンを背負い、右腕は肘部から実弾ガトリング砲が2門、左腕には3門のビームライフルから構成される連装砲が取り付けられている。

 脚部はスラスターを大量に積みつつもきっちりバルカン砲を搭載。腰部には腕部の武装をパージした後に使う事を想定されたアタッチメント式のパイルバンカー砲と折り畳み式のビームライフルまで引っ下げている。

 ちなみに、両肩のミサイルポッドをパージする事で、その下に収められている4連装のビーム砲が開放される。


 デストロイド・スペード……いつ見ても、心躍る怒涛の武装ラインナップだ。

 更に武装を追加しようと言うカスタム案も進行中だそうで。もうワクワクが止まらん訳である。


「どうやら、報告通りあれ1体だけっぽいっすね」

『だね。じゃあ、プラン通り私が重砲撃で牽制、その隙にジョーカーが接近してパンチ、って感じで』

「了解」


 本来なら、あのくらいのサイズ……全長100メートル程度のインバーダなら俺かデストロイドどちらか単騎だけで充分なのだが。

 今回は、異質なインバーダと言う事で、警戒の意味を込めて俺とシルヴィアさんが共同戦線を張ることになった訳だ。


『デストロイドの砲撃射程内到達まで残り20秒、19…18……』


 シルヴィアさんのカウントが始まる。

 デストロイドの一斉砲撃だけで勝負が決まる可能性は充分にあるが、念には念だ。

 俺も、全力の一撃を叩き込むとしよう。


 背中と太腿の甲殻をスラスターに変形させ、加速用の気体の精製を開始しておく。


 インバーダは一撃で脳天を潰さない限り、ある程度の傷なら再生・修復してしまう。

 なら、一撃でそこを潰すに越した事は無い。


 あのインバーダの急所は……おそらく、表面に人面の様な模様が描かれている部分。

 あれが頭に当たる部分だと思われる。

 回転しているので少々狙いが付けにくいが……まぁ、やるしか無いだろう。


『3…2…1……射程侵入確認。まずは1発、デカいの』


 ガシャン、と大きな音を立て、デストロイドの背面、一際大きなビームキャノンの砲頭が動く。


 ハイパーメーザーバースト。

 デストロイドの武装で、最も高い威力を持つ逸品。


 まずはあれをブチ込んで、相手の硬度を判断する。

 これが弾かれる様な桁違いの怪物が相手である場合、他の武装は通用しないと判断し、無駄な弾薬の使用を控える。

 問題無いなら、そのまま超火力で押し切る。

 それがデストロイドの基本的なスタンス。


 照準を白ボール型インバーダに合わせ、


『HMバースト、ファイア』


 放たれる、光の軌跡。

 その極太の光の柱はデストロイドのキャノンから真っ直ぐに飛び出し、白ボールインバーダに直撃……はしなかった。


『!?』

「なっ……」


 白ボールインバーダの、寸前。

 赤黒い光の壁が、ビームを防ぎ、四方八方へと飛散させた。


「ば、バリア!?」


 んな馬鹿な。

 確かに、インバーダは気力次第で何でも造り出せる。

 それは、俺が1番良く知っている。

 その気になれば、電力や熱は言わずもがな、大気に加え、自身の周囲で引力や斥力を発生させる事だってできる。

 それを応用すれば、バリアくらいは張れるだろう。


 だが、今まで敵のインバーダがそれを駆使してきた事など、1度も無かった。

 考えられる理由としては、『知性が低い』から。


 つまり……バリアを作ったって事は、あの白いインバーダ……


「知性があるのか……!」

『とりあえず、あのバリアがどれくらいの規模で展開できるかが問題。少し、試してみる』


 デストロイドの両肩のミサイルポッドが開く。

 両腕のガトリングとビーム連装砲も照準をセット。


『ファイア』


 その言葉を合図に、無数のミサイルや弾丸、ビームが雨の様に放たれる。

 ミサイルは広範囲から覆いかぶさる様に一斉に、ビームと実弾は真っ直ぐに白インバーダへと襲いかかる。


 全ての攻撃が、先程のビーム同様、赤黒いバリアにあっさりと阻まれてしまった。

 あのバリア、きっちり全身をカバーしている様だ。


『あらら。これは、ダメっぽい』

「みたいっすね……って、うおっ、こっち見た」


 白インバーダの回転が止まり、顔の様な模様がこちらを真っ直ぐに見据えている。

 そして、その口に当たる部分が、ガパッと大きく開いた。


「!」


 殺気だ。

 来る。


 一瞬にして、その口内に光が満ち、赤黒いレーザービームが射出された。


「うぉおおいっ!?」


 狙いは、正確。


 俺は躱せるが、デストロイドには回避が難しい速度だ。

 防いだ方が良いだろう。


「何か真似っぽくて嫌だが……!」


 ワガママは言ってられない。

 体内で膨大な斥力を精製し、ビームの方へ差し向けた掌から放出する。

 俺の掌と白インバーダのレーザーの間に、強烈な『反発の力』の塊が出現する、って訳だ。


 白インバーダのレーザーが、先程のHMバースト同様、四方八方へと飛散する。


『ありがとう』

「おう。じゃあ行ってくるから、下がっててください!」

『了解』


 デストロイドの武装が効かないなら、俺単独でどうにかすれば良いだけの話だ。


 爆発的勢いでスラスターから大気を放出し、一気に白インバーダへと接近する。


 あのバリアは、おそらく俺がやったのと同じで斥力を利用していると考えられる。

 だったら、攻略は簡単だ。


 あいつが精製し、バリアに乗せる斥力よりも大きな力でぶち抜けば良い。


 反発し合う磁石でも、人力で無理矢理押さえ込み、くっつける事はできる。

 アレと同じだ。

 斥力の持つ『反発の力』の量を圧倒的に越える量の力で、押し切る。


 体内で精製し、己の拳に乗せるのは、ただシンプルな『運動エネルギー』。

 こいつを衝撃波の要領でぶつけて、バリアを圧砕。

 その後、バリアを張り直される前に、突っ込む。


 まぁ要するに、力づくの脳筋戦法だ。


 俺の接近に気付き、白インバーダは俺の目の前にあの赤黒いバリアを展開した。


「うぉぉおおおおおぉぉらぁぁぁああぁぁぁああああああああッッ!」


 右拳にエネルギーを集中させ、振り抜く。

 目の前で、赤黒いバリアが、ガラス細工の如く粉々に砕け散った。


っ…!」


 げっ、俺の右手首から先も一緒に吹っ飛んじまった。

 流石にエネルギーを乗せすぎたか。まぁいいや。すぐに治せるし。

 インバーダは脳天を潰さない限り、気力さえ残っていればいくらでも再生する事ができる。

 俺だって例外じゃない。

 むしろ、俺はインバーダに比べて体が小さい分、修復も早く済む。


 とにかく、今がチャンスだ。


「ブーストォッ!」


 加速し、突っ込む。

 目指すは、白インバーダのアホ面。


「ギィイィィィ!」


 ここに来て、ようやく焦りを覚えたのだろう。

 白インバーダが、初めて鳴いた。


 危機感を覚えるのが遅いっつー話だ。

 今更、ビームを撃とうと口を広げた所で無駄。


 そのビームより先に、俺の拳はお前に届く。


「死ね」


 再生させた右拳を、打ち下ろす。






「多少の知性を持つ、白いインバーダ……ねぇん……」


 マザーウォール日本支局。

 技術研究部にある、釜尾の私室。


 釜尾はそこでPCにかじり付き、たった今送られてきたとてもとても興味深いデータに目を通していた。

 映像データも添付されている。

 ジョーカー&クイーンのコンビと、件の白インバーダの戦闘記録だ。

 デストロイドに搭載されていたカメラの映像である。


「確かぁに……『黒い甲殻に青白い発光』と言う今までのインバーダの特徴とは、かけ離れているわぁ」


 白い甲殻に赤黒い発光……むしろ、今までのインバーダとは、『意識して』反対のデザインを持っているとさえ感じる。

 そして、今までと違い、斥力を精製・操作する知性もある。


「……インバーダには、自身の甲殻を自由に変形させる機能もあったわねぇ」


 ジョーカーが甲殻を変形させ、スラスターや武装を作りだす、あの能力。

 アレは、気力から様々なエネルギーを精製する能力の延長線上の物であると考えられている。


「…………」


 釜尾は静かに考える。

 そして仮説を並べていく。


 ここからは、可能性の話。

 あくまで、仮説の域。


「例えば……インバーダの一部が、意識して自分達の姿を、こうして変化させたのだとしたら……?」


 もちろん、あの白いインバーダだけが異常個体イレギュラーだった可能性は充分にある。

 でも、科学者という生き物は、シンプルな答えより、面白い答えを想像したがる生き物なのだ。


 そこで、考える。

 一部の『知性を持つインバーダ』が、多くのインバーダとは対極の姿を『あえて』選択する。

 その行動が意味する事は、何か。


「『階級』という概念の獲得……」


 階級の区別としての、変化。

 つまり、知性を得た白インバーダは、自らが上位種であると言う主張のために、下等種とは相反する姿を取った。


「ふむ……」


 もしそうだとしたら、これから地球は急速に追い詰められる事になる。

 インバーダの襲撃は、無作為かつ散発的だからこそ、対処できているのだ。


 もし、『ボス』の登場により、統率の取れた幾百幾千のインバーダが押し寄せる様になれば……


「でも、それだとおかしいわねぇ」


 仮にそうだとすると、矛盾が生じる。

 もしインバーダに階級ができたとすれば、何故、上位に位置するであろう知性持ちの白インバーダが単体で襲撃してくる?

 群れの中に階級を制定するだけの知性がありながら、仲間が次々と消息を断つ宙域で単独行動なんてありえるのか。

 せめて他のインバーダを数匹連れていた、とかじゃないと、この仮説は少し無理がある気がする。


 現状から推測するなら、確かに白インバーダは知力を獲得している。

 でも、階級制を得た訳では無い、統率的な行動を取れる程の知的進化を遂げた訳では無い……その可能性が高い、と言う事になる。


 階級分けでは無い。

 なら、何故白いインバーダは自らの姿を既存のインバーダの対極に変化させたのか。


「そうねぇ」


 階級の様な、いくつにも層を作る複雑な上下の区別では無く、もっとシンプルな……原始的な区別のためだとしたら……


「もしかして……」


 そうだったら、大変興味深い。ただそう思っただけ。

 特別深い意図や画策は無い。ただただ不思議だ、興味をそそられる……そういう意味を込めて、釜尾は口角を釣り上げた。


「勢力分裂、もしくは、民族分岐、とか……ねぇん」


 これだから、未知の生物というのはたまらない。

 そう心の中でつぶやき、釜尾はなおも、仮説を連立させ続ける。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ