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2,ジョーカーの仕事

 あの日、空から降って来た黒い何か。

 所々が青白く光る、黒い塊。

 腕や足も生えていた様だが、もぎ取られてダルマ状態だった。


 もしかして、ウワサに聞く『インバーダ』と言う奴なんじゃないだろうか。

 外見的特徴から、そう思った。

 だとしたら、近づくのは危険だ、そう思った。


 でも、不思議な感覚がした。

 まるで、その黒い塊が、嘆いている様な、そんな感じがしたのだ。


 このまま無駄死にはしたくない、そう嘆いている様に、感じた。


 気付けば、俺はその黒い塊に、触れていた。

 可哀想だとか、思ってしまった。

 あんな化物に同情して、何か自分にしてやれないか、とか考えてしまった。


 そして俺は、そのインバーダに、体を乗っ取られた。



 気付いた時には、周りは瓦礫の山で。

 泣きじゃくる妹に抱きしめられて、俺は倒れていた。



 妹のおかげで、どうにかインバーダから体の主導権は取り戻した。


 でも、世界が俺を放っておく訳が、無かった。





 マザーウォール。

 宇宙のどっかからやってくる怪物、『インバーダ』から地球を守る組織だ。


 現在、インバーダ人間と化している俺の勤め先であり、俺を管理している組織でもある。

 この組織内における俺の職務は、主に2つ。


 1つは、インバーダの研究を進めるために、各種検査に付き合わされたり、新鮮な細胞を提供する事。

 この検査や細胞採取のために、俺は週2で宇宙に浮かぶ要塞『シャンバラ』に顔を出さなきゃいけない。

 自前で飛んで通勤しなきゃならんので、結構面倒くさい。


 もう1つは、この体に宿るインバーダの力を使って、『兵器兼兵士』として、インバーダの駆除にあたる事。

 まぁ、俺が出撃する事はたまにしか無いけど。

 俺がシャンバラにいる時にインバーダが出るか、この前の様にシャンバラから迎撃部隊を出すよりも俺が地表から出た方が早い、って場合くらいだ。

 あと、これは超レアケースにはなるが、インバーダが群れで出現した際などには、俺とGGガイアガーディアンの部隊が共に出撃する事もある。


「ったく……こちとら自前で飛んできて疲れてるってのに……」


 今日は週2回の出勤の日。

 ってな訳で、俺は宇宙要塞シャンバラに来ていた。

 その通路にある自販機横のベンチでちょっと横になる。


 まだあと2項目程検査が残っているのだが、どちらも機器の調子が悪いとかでしばらく『待ち』になった。


 にしても、毎週毎週いちいちここまで飛んでくるのがいい加減に面倒くさい。

 シャンバラももうちょっと娯楽設備を充実させてくれれば……

 具体的に言うと、ネットカフェ『アガルータ』を招致するとかしてくれるなら、俺的にはこの要塞内で暮らすのも悪くないんだが。


「あれ、輪助じゃん」

「!」


 通路の向こうから現れたのは、外国人なお姉さん。


「あ、どうも」


 このシャンバラでオペレーターをやっているベテラン、シェーナさんだ。

 三十路手前で何か自分の年齢をやたら気にする様になったが、ぶっちゃけ俺と同年代でもおかしくないと思えるくらい若く見える。

 ま、この組織には『ロリ大明神』と小馬鹿に…じゃなくて、崇め奉られる年齢と外見が不一致過ぎるお方がいらっしゃるからな。アレと自分を比べると……って事になるのかも知れない。


「今日は検査の日か。あんたも大変だねぇ。毎回結果に特に変化のない検査のために、いちいち地球から行ったり来たり」

「まぁ、面倒くさいっすね」


 この人との付き合いは、3年前からだ。

 檻の奥で膝を抱える俺に対し「不憫だねぇ。私で良けりゃ優しくしてやるよ」と、半ば冗談めかした感じで話しかけてくれたのがきっかけだった。


 そして、シャンバラ内で半ば監禁状態だった俺のために、上層部に「人間として最低限の扱いをしてあげろ」と抗議活動をしてくれた人達の1人でもある。

 それからも俺の話を聞いてくれたり、面倒を見てくれた、要するに良き姉貴分である。


 どうやら、休憩中らしく、飲み物を買いに来た様だ。


「本当、通勤組の気は知れないわー。まだあんたは30分やそこらで済むだろうけど、普通は1回の往復で5時間よ、5時間。片道2時間半」


 シェーナさんは自販機の前に立ち、適当にコインを投入しながら続ける。


「そんな時間あったら、寝るか食うかに使う方が有意義だっての。シャンバラ内に寮がなかったらさっさと転職してたわ」


 食うか寝るか、か。

 相変わらず色気の無い人生を送っているご様子。

 いや、まぁ俺も人の事は言えないけども。


「そうそう、エリンには会った?」

「エリン……?」

「その様子だと、まだみたいだねぇ。可愛い子だよ。あんたの事は紹介しといたから、上手くやりな」

「上手くって……」


 シェーナさんが飲み物を選び、ボタンを押す。


「お見合い? ほら、あんたの国で言う『お節介おばさん』って奴?」

「あのな……」

「ほい」


 出てきた缶を、シェーナさんはそのまんま俺にパスしてきた。

 ……オレンジジュースって……まぁ、好きだけどさ。

 この人の中じゃ、俺はいつまで経ってもガキ扱いの様だ。

 もう18なんだけどなぁ……


「あざーっす」


 まぁ喉も乾いて来た所だし、有難いっちゃ有難い。


「ま、私が言えた義理じゃないが、あんたももうちょい色気だしな。英雄、色を好むって言うだろ。ヒーローにヒロインは付き物ってねぇ」

「へいへい……」


 ……ヒロインねぇ……

 俺だって一応ナニの付いた男だし、彼女なり何なり欲しいって感情は確かにあるけど……色々と問題がねぇ……


「……ところで、その隈、まだ取れないの?」

「全然っすね。薄くなる気配すら無い」


 俺の目の下の隈は、3年前からずっとこのまんまだ。

 インバーダに取り憑かれた、あの日から。


「その隈で大分損してると思うわ。今度、ファンデーション貸したげよっか?」

「化粧でどうにかなる濃ゆさじゃないっしょ……」


 これを隠そうと考えると、歌舞伎の隈取並のメイクが必要だと思う。


「あ、そうだ。あんたに教えとこうと思った情報があったんだわ」

「?」

「今日、新型GGの試運転があるらしい」

「新型GG!?」

「おーおー、予想通りの食いつきの良さだねぇロボオタ」

「え、マジで? 新型ってマジで?」

「ま、正確には試作型らしいけど。興味があるんなら後で格納庫でも見学してきたら」

「興味ビンビンに決まってんじゃん! 行く! 絶対に行く!」


 試作型……この時期となると、以前プランを目にした『可変式GG』か……!?

 可変ロボ……想像しただけで色々とヤベェ……!


 ああ、早く格納庫行きたい。

 検査、早く再開しろマジで。いや、割とマジで。本当もうマジで。





 テンペスト・ダイヤー。


 可変機構を組み込み、高速での宇宙航行を目的とした高機動形態を持つGG。

 全体的なカラーは青が基調になっている。可変機と言う事もあり、そのシルエットはやたら細身だ。いくら軽量スリム化が図られていると言っても、全高30メートルはあろうと言う鋼の塊……あの細い脚部を見る限り、重力圏での運用は想定されていない様だ。

 背中にはステルス機の様にV字に広がる薄い巨翼。

 高機動形態はまさにステルス機の様な形状になると聞いている。


 地球を挟んでシャンバラの真裏にインバーダが出てしまった場合、インバーダの元へ向かうだけでもかなり時間がかかる。

 だから、このテンペスト・ダイヤーは単騎戦闘力よりも移動速度を重視し、可変機構が盛り込まれている訳だ。

 主な役割は、インバーダへの牽制、時間稼ぎ。


 役割は聞こえは地味かも知れない。

 だが、言い方を変えれば、この機体は高速で敵の元へ颯爽と向かい、味方が駆けつけるまで防衛線を維持する役目を担っていると言う事だ。

 何と勇ましいコンセプトだろうか。


「うはぁぁぁああぁぁぁぁ……」


 たまらん。

 乗りたい。

 航行中に可変とかしたい。

 輪助マニューバ、またの名を輪助スペシャル! とか叫びたい。


「おぉう、ジョーカーじゃねぇか」


 大地を揺らす様な声圧のハスキーボイス。

 声に見合った熊の様な巨体。威厳すら感じさせる無精髭。

 俺よりも頭2つ分は高いし、筋肉の量で比較すれば倍近くは上を行ってしまうだろう。


 マザーウォールのGG部隊統括官、バージャスさんだ。


「バージャスさん、これ、完成してたんすね!」

「ああ、テンペスト・ダイヤー。つい昨日、地球から運び込まれてな」

「あのー……それで……」

「残念だが、もうテストパイロットは決まってる」

「……ですよねー……」

「がははははは! お前も好きだよなぁ! 新機軸の試作機のテストなんて、普通は誰もやりたがらんぞ。事故率高いからな」

「いや、だって……」


 正規のパイロットじゃない、パイロット登録もまずさせてもらえないだろう俺には、そこに付け入るくらいしかGGに乗るチャンスは無い。

 何度か起動してないGGのコックピットに乗せてもらった事はあるけどさ……やっぱり、俺としてはただ乗り込むんじゃなくて、操縦したいんだよ。


「もしやりたいなら、僕代わっても良いですよ」


 そんな事を言いながらこちらに歩いてきた優形の青年。

 金髪碧眼な顔立ちからして、まず日本人では無い。

 俺の細胞を研究して開発された、最新の耐Gパイロットスーツを着ている。

 って、あ、この面……


「ジャック・クリストフ!」

「え、僕の事、知ってるんですか?」


 そら知ってる。


 ジャック・クリストフ。

 去年、マザーウォールが運営するパイロット養成機関を1年繰り上げ卒業してきた、次代のエースパイロット様だ。

 この1年ちょっとで、何回テストパイロットのチャンスを奪われて来たと思ってるんだ。

 お前の話はバージャスさんから嫌と言う程に聞いてるし、恨み辛みを込めてお前のプロフィールを眺めた事もある。


 ぐぬぬ……今回のテストパイロットもテメェかよ……って、待てよ。


「今、お前、代わっても良いとか言った……?」

「ええ、ジョーカーさん、ですよね? 映像データで何度か拝見してます」

「お、おう……」


 何か、同い年の奴に敬語を使われるのって違和感すごいな……


「僕としても、危険なテストパイロットはあんまりやりたく無いですし……ジョーカーさんなら、多少の事故は平気でしょうし」


 あ、そう言えば、半年くらい前のテスト中に、こいつ、ブレーキの故障で加速し過ぎて肋骨を圧迫骨折しかけたんだっけ。

 あの頃はまだ耐Gスーツもプロトタイプだったしな。


 その経験から、余りテストパイロットにはノリ気では無いらしい。


 ま、その辺はどうでも良い。


「……マジで、良いの?」

「僕は構いません。あー……そう言えば、僕、今朝から全身くまなく頭痛が酷くて……」

「んー、まぁテストパイロットが急な体調不良に陥ったとしたら、現場の統括官である俺が代理を立てにゃあならんなぁ!」


 ニヤニヤと笑いながら、そんなやり取りをするジャックとバージャスさん。


 んもう、2人とも大好き。

 ジャックへの積年の恨みなんぞ一瞬にして流れ流れて運河の果てである。


「じゃあ……」

「うむ。テンペスト・ダイヤーのテストは、ジョーカーに……」


 その時、バージャスさんの胸ポケットからビーッ、と言う甲高い音が。


「ん? 管制からか?」

『こちらシャンバラ管制室。U17ブロック方面に大型のインバーダの「多数」出現を確認しました。数は4体と思われます』

「え……」

『至急、出撃をお願いします』


 U17って……


「地球を挟んで、シャンバラの真裏、ですね」

「またかよ、面倒な位置に……しかも、複数出現か……こりゃあ……」


 バツが悪そうな顔で、バージャスさんが俺の方を見ている。


「すまん、ジョーカー。俺も仕事だ。効率を捨てる訳にはいかん」

「……わかってますよ……」


 複数のインバーダが出現し、俺がシャンバラにいるとなれば、当然、俺とGG部隊の共同出撃になるだろう。それが最も効率が良い。

 そしてインバーダの出現位置的に考えて、出撃、戦闘、帰投にはそれなりの時間がかかる。


 その間、テストをせずにただ時間の経過を待つなんてのは、不可能だろう。

 テストデータには提出期限ってモンがあるんだ。

 テスト項目も、第1回目のテストとなれば結構な量があるだろう。

 当然、消化するには相応の時間が要る。


 ……俺の一時の快楽のためだけに、バージャスさんが上から叱責を受ける様な展開はあってはならない。


「……じゃあ、ジャック。テスト、頑張れよ……」

「あの……ジョーカーさんも、生きてりゃいつかイイ事ありますよ」


 そんな激励を受けるくらい、今の俺はションボリしているか。

 まぁそうだろうな。


 ハハ、ハハハハハハハ……なんでだろ、何かすっごく八つ当たりしたい気分だわ。


 覚悟しろよ、インバーダ共。




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