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11,たまには派手に決めても良いよね


「ジョーカーさんが……食われた……?」


 リージョン・カードのコックピット内、その報せに、ジャックは戦慄した。

 冗談、でこんな悪趣味な情報が全隊通達されるはずがない。


「っ……」


 ジョーカーが食われた。

 つまり、ジョーカーが負けたと言う事。


 そんなインバーダ、いくらGGを投入したって勝てる訳が……


『また食べられたの?』

「へ?」


 通信機越しに聞こえたシルヴィアの声は、とんでもなく軽い調子だった。


「え、えーと……また?」

『あれ、ジャック、聞いてないの?』

「聞いてないのって……」

『ジョーカー、インバーダに食べられたの、これで3回目。3年前に融合した時のもカウントするなら、4回目』


 今までに、ジョーカーは何度かインバーダに食われた事がある。

 そう、何度か。


 つまり、だ。




 どこまでも続く、白い空間。

 2ヶ月に1回ペースで見慣れた光景だ。


「……インバーダって、どいつもこいつも基本馬鹿だよな」


 まぁ、知性が低いんだ。仕方無いだろう。


 ってな訳で、俺の精神世界に侵入して来たアホな白ボールを軽く叩き潰して、今、一息吐いた所である。


「ぐ、ぎ……」


 力無い白ボールの呻き。


 インバーダは食らった生物の魂を、己の魂で喰らい、取り込む。

 そのために、相手の精神世界に侵入し、獲物の魂魄と対峙する……のだそうだ。

 まぁ、この空間の仕組みがわからなけりゃ、成す術なくインバーダに取り込まれてオシマイだろう。

 3年前、俺がそうだった。


 残念ながら、俺は自分がこの空間でできる事を知っている。


「ギギギ……相変わらず容赦無いな」

「あ、クソインバーダ」


 この空間に住む、俺の中のインバーダがひょっこりと顔を出した。

 まだ前回の主導権争いから半月しか経っていないからエネルギー不足なんだろう、その体躯は掌サイズだ。


「そんなミニマムスタイルで闘ろうってのか?」

「我はそこまで愚かでは無い。ただ何か騒がしかったから様子を見に来ただけだ。全く、昼寝の邪魔をしおって」


 すっかりここでの暮らしに慣れているご様子で……


「っと、お前なんか相手にしてる場合じゃねぇや。早く現実に戻らねぇと」

「急ぐモンでも無いだろうに」

「まぁ、そうだけどよ」


 この空間と現実の世界じゃ時間の流れがかなり違う。

 この空間で数時間過ごしても、現実世界では1秒過ぎるかどうか程度だ。


 でも、特に何も無いこの空間に長居する理由は皆無である。


「まぁ、少し待て。丁度良い、僥倖だ」

「僥倖?」

「少しだけ、話をしたい事がある」

「はぁ? こっちは無ぇよ」

「良いのか? 我に定期的に脅かされる生活から、脱する事ができるかも知れんぞ?」

「!」


 別に、こいつ如きに脅かされた記憶は無いが……少し、聞いても良い話題かも知れない。


「どういう事だ?」

「その白いのの魂魄を消滅させれば、現実世界にあるその白いのの体は、所有者が消滅する訳だ」


 まぁ、簡潔に言うと、死ぬ訳だ。


「その肉体を取り込み、我に与えてはくれないか」

「はぁ?」

「そうすれば、我は貴様の体を狙う義理は無くなると言う訳だ。何せ、別の体が手に入るのだからな」


 確かに、こいつが俺の体の主導権を執拗に狙って来るのは、自分の体が欲しいからに他ならない。

 それが手に入る、そして俺の中から出て行く以上、もう俺と体の奪い合いをする必要は無いというか、自動的にできなくなるだろう。


「アホかお前。んな真似ができる訳ねぇだろ」


 それはつまり、俺はインバーダの力を失う事になるんじゃないか。

 別に、それ自体は構わない。むしろ、普通の生活に戻れる分、いくらか幸運にも思える。


 だが、それと同時に、俺はただの人間へと戻った上で、こいつを解放する形になってしまう。

 怪物を殺す力を捨て、怪物を生み落としてしまう。


 そんな真似、できる訳が無いだろう。


「貴様の考えている事はわかる。安心しろ。我が抜けた所で、貴様の体は人間のそれには戻らん」

「え、そうなのか?」

「貴様の体の変異は、あの時、我の肉体と同化した事による物だ。我の魂が抜けた所で、特別な変化は起こるまい」

「……それはそれで残念だけどな」


 こいつの魂の有無は関係無く、俺の体細胞はこいつ(インバーダ)の体細胞と混ざり合い、完全に変質している、と言う事か。

 万が一にも純粋な人間の体に戻る術など無いと、改めて現実を思い知らされる形になった訳だ。


 ま、でも元々インバーダとして生きていく覚悟は決めてたから、そうショックでも無いけど。

 この体での生活には慣れたし、嫌な事ばかりでも無いし、便利な事も多いし。


「我は誓おう、もし貴様がこの取引に応じるのであれば、貴様の仲間として行動してやる」

「仲間?」

「そうだ。貴様らと共に、貴様らを脅かす我が同胞を蹴散らしてやる」

「無理だろ。お前、めっちゃ本能に忠実じゃん」


 人間を始めあらゆる生命体を食いたがる様な奴と、共に戦える訳が無い。


「ああ。当然、生命エネルギーは摂取させてもらう。我が同胞や、あの囮袋ダミーパックとか言う奴でな」

「!」


 なるほど、対インバーダ用の囮にするために、大量の微生物を詰め込んだアレか。


 こいつの言っている条件を簡略化すると、こういう事だ。


 体をくれるなら、俺達人間の戦力として、インバーダと戦ってやる。

 その代わり、襲来したインバーダを喰らう権利、そして、囮袋ダミーパックを報酬として寄越せ、と。


 人間側は不足しがちな対インバーダ戦力の増強ができる。

 そしてこいつは、念願の肉体を獲得、そして定期的な生命エネルギーの摂取が行える。


 人間側の事情を熟慮し、自分もまずまずの利益を得られる。

 中々巧妙な取引をふっかけて来たものだ。


「……お前、少しは賢くなったんだな」

「暇つぶしに貴様の記憶データを見あさっているからな。それなりの知識は付いた」


 お互いの利益だけを考えるなら、悪くない……いや、良い取引だ。

 知力があるって事は、こいつはG・インバーダに匹敵する戦力になる。

 つまり、現状俺しかいない対G・インバーダ戦力が増える訳だ。

 その戦力を、地上で有り余る程に採取できる微生物を給料代わりに支払うだけで、雇う事ができる訳だ。


 更に、こいつをシャンバラに配置すれば、俺はまた地球で生活する事だってできる。


 ……もし、こいつが完全に信用できるのなら、だが。

 こいつが大きな戦力になると言う事は、裏を返せば、それだけの脅威になりかねない、って事だ。


「……あ」


 俺の足場となってプルプル震えるボールを見て、俺はかなり良い事を閃いてしまった。


「……でも、ちょっと不安要素があるな……」


 だが、もしこれが可能なら、……うん。イケる。


「色々、検証しなきゃなんねぇから、今すぐに体をくれてやるのは無理だ。でも、多分大丈夫だと思う。期待して待ってろ」

「検証……? 『プログラム』がどうのと、何か小難しい事を考えているな……」


 流石に、俺の考えている事を何もかも理解できる訳では無い様だ。


「ふむ、まぁいい、期待して良いと言うならば期待する。よろしく頼むぞ」

「おう」


 とりあえず、さっさとあのデカ物を倒して来よう。

 実験は、それからだ。




「ヴォ……?」


 超巨人型G・インバーダが、異変を察知する。


 自身が放った分身体に起こった異変。

 その部位の、主導権が書き変わった。

 自身の体の一部を、何者かにもぎ取られた。


 見上げた先、そこには分身体である、200メートルを越える巨大ボール達が3つ。


 その1番奥の1つが、変異してゆく。


 甲殻が全て黒く染まり、その発光が赤黒い物から青白い物へと変化。

 更に、綺麗な球形だったそのボディバランスも崩壊。

 ぐちゃぐちゃに崩れ、やがて、それはある形を持つ。


 人、だ。


 さっき、あのボールが取り込んだ、2メートル程の豆粒の様な、人型の同胞。

 それに良く似た形状に変化したのだ。


「ヴォ、ウ、ォォォォオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオ!」




「ま、怒るわな」


 自分の手足をもぎ取られ、吸収されたんだ。

 そら怒りの咆哮くらい上げるだろう。


 にしても、デカい体って動かし辛いな。

 形さえ同じなら、そう難なく動かせると思ったんだが……

 ちょっと動くだけでも、普段とは比べ物にならないエネルギーを消費してしまう。


「こりゃ、そうのんびりとは戦えねぇな……っと!」


 目の前のボールの顔面を、殴り潰す。

 そして、腕からその肉体を、吸収する。


 生命体を喰らうには、あの空間に行く必要がある。

 だが、俺に生命体を喰う趣味は無い。

 ぶっ殺して、さっさと体だけいただく。


「んお」


 ああ、インバーダの共食個体化バディベイト現象って奴か。

 取り込んでいる最中、俺の甲殻が白く染まり始めた。


 悪いが、黒の方が気に入っている。何かダークな雰囲気でカッコイイからな。

 ロボアニメでも、黒い機体は大体強いしカッコイイ。

 ってな訳で、白く染まった先から黒に塗り戻させてもらう。


「さ、お前もだ!」


 残っているもう1つのボールも、同じように仕留め、取り込む。


 これで、俺の体はあのG・インバーダとほぼ同等、600メートル級。


 何でこんなにでっかくなったかと言うと……

 別に、あいつと対等に殴り合いたいとかじゃない。

 まぁ、それはそれで熱い絵面だろうが、俺はもうちょっと面白い事を考えている。


 ド派手な敵は、ド派手な必殺技で倒すってのが、セオリーだろう。


 それに、久々に一杯食わされた相手だ。

 俺に楯突いた事と、地球の近くに出てきてしまった事、それと、夏輪の文化祭前に空気を読まずに来訪しやがった事。

 それらを後悔しながら散ってもらおう。


「お」


 唐突に俺に襲い掛かる、奇妙な感覚。

 あのG・インバーダがワープ能力を使う時に感じる違和感だ。


 予想通り、ワープするつもりの様だ。

 G・インバーダの足元の空間が、裂け始める。


「ヴォォォオウォォアァァァアアァァァ!」

「っ! あの野郎!」


 逃げるつもりっぽいな。


 どうやら、伊達にデカい図体してたり、ワープ能力なんてモンを獲得している訳では無い様だ。


 あいつには、それなりの知性がある。

 相手の戦力を見極め、敵わないと思ったら撤退する……それだけの判断はできる様だ。

 だからこそ、あんな規格外なサイズになるまで生き延びる事ができているのだろう。


「まぁ、逃がさねぇけどなぁ!」


 あのワープは厄介だ。

 地球上に突然現れでもしたら洒落にならない。

 絶対に、ここで仕留める。


 一瞬で、右腕の甲殻を特大の大砲へと変形させる。


「ド派手に1発、もってけ」


 俺が、ボール達を取り込んだ理由。

 それは、『砲弾』にするため。


 インバーダは、自身の気力を使い、甲殻を変化させる事ができる。

 その際、質量を増やしたり、減らしたりもしている。

 だが、この世界には質量保存の法則ってモンがある。

 増やす質量はどこから持ってくるのか、減らした質量はどこへ行くのか。


 簡単な話だ。


 俺は、増やす質量は気力から精製している。

 そして、減らした質量はエネルギーに変換し、体内に蓄積、都度消費している。


 インバーダはエネルギーを使って自身の肉体を精製強化する事ができるが、それは、一方通行じゃないって事だ。

 自身の肉体を、エネルギーに変換する事だって、できる。


 後であのクソインバーダにくれてやる分は残しつつ、それ以外の肉体を、全てエネルギーへと変換していく。

 過程、みるみる俺の体が縮んで行く。


 ……俺の全長、ただいま50メートルちょいって所か。

 この砲台の中には、500メートル分の巨体をエネルギーに直変換した力の濁流が渦巻いているって事だ。

 それにプラスして、更に俺の気力も織り交ぜていく。


 さぁ、こんくらいで良いだろう。


 この超エネルギー、どれだけ必死に分厚いバリアを張ったって、防げる物か。

 弾速だって加減しない。こいつは多分、光速を遥かに越えるぞ。躱せるモンなら躱してみろ。


「死ねやオラァッ!」


 俺の放った特大の一発。

 反動で砲身は弾け飛び、俺の全身に亀裂が走る程の衝撃。

 撃ち出されたのは、超農厚密度の、光の拳。


「ヴ、ア、ヴォォォォォオオオォオォォォォォオオオオオオオォォォォオオオオオオオオオォオオオッッッ!?」


 青白い破壊の化身が、超巨人型G・インバーダを、消し炭1つ残さず吹き飛ばした。


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