10,MaximumなEnemy
美味しい物が、食べたい。
でも、中々見つからない。
そんなある日、気付いた。
見つからないんじゃない、気付かなかったんだ。
目の前に、たくさん、あるじゃないか。
美味しい。
皆、とっても美味しかった。
もっと、食べたい。
でも、もう誰もいない。
そうだ、食べたら、無くなっちゃうんだ。
探そう。美味しい物を、探そう。
無くなったら、探せば良い。
……ゾワゾワする。
感じる。
皆が、たくさんいる場所。
きっとこの方向に、皆がいる。
美味しい物が、たくさんある。
行こう。
もっと、もっと、食べたいから。
「……面倒くせぇな」
本当、ふざけてると思う。
月面に仁王立ちしながら、俺は大きく溜息を吐いた。
季節は10月中旬。
いよいよ、来週、夏輪の文化祭だ。
夏輪に一体何のコスプレをするのかと聞いたが、「当日のお楽しみだよ!」との事だった。
もう楽しみ過ぎて1週間前だと言うのにワクワクで眠れない。
全く、おかげで隈が濃ゆくなっちまったぞ可愛い奴め本当にもう。
……そんな時期に、本当にふざけた真似をしてくれる。
『正確な数が出ました。……50~100メートル級が12、100~200メートル級が7、300メートル級が2です」
合計で、21体、か。
今までの最高記録、9体同時出現を、倍以上の数で塗り替えやがった。
いい迷惑だ。
文化祭へ向け英気を養いたい所なのに……ちょっとくらい空気読めっての……
『白は、いる?』
通信機越しのシルヴィアさんの声。
現在、専用機の修理が済んでいないため、彼女も量産GG、リージョン・カードに搭乗している。
『全て黒です』
『わかった』
シルヴィアさんの声からは、少し安堵の様な物が感じられた。
……まぁ、白インバーダ……先日、『G・インバーダ』と命名されたアレには、実際に殺されかけたんだ。苦手意識くらいは持つだろう。
「デカいのは全部、俺が殺ります」
面倒だが、それが1番効率が良いだろう。
現在動かせる戦力は、リージョン・カード5機編成の小隊が17と、アヴァさんのバーニング・ハートだけ。
小物の処理は小隊とアヴァさんに任せて、俺が迅速に大物を潰していくべきだ。
『各隊、出撃準備が整いました』
『おし、ジョーカー、先行して、粗方片しといてくれ』
「了解」
バージャスさんの指示に従い、先行させてもらう。
背面と太腿にスラスターを形成し、月面から跳ぶ。
まだインバーダ達は視認できない。
報告通りなら、まだまだ距離がある。
少しスピードを出しておこう。
そんな感じで宇宙を駆け抜ける事、数分。
「……いた……!」
遠くに見える、青白い光の群れ。
おーおー……流石に20匹越えともなると中々壮観だなおい。
大物も10匹近くいるし……あー面倒臭い。
とりあえず、接触ついでに何匹か轢き殺しておこう。
更に加速しつつ、両手を繋ぎ合わせ、甲殻を変化させる。
俺の体よりもデカい円錐形……漆黒のドリルの完成だ。
このまんま突っ込んで、何匹か頭をブチ抜いてやる。
ドリルをフル回転させ、突撃する。
まず目に付いたのは、目測100メートル級の鳥型インバーダ。
あいつと、ほぼ直線上に並んでるほぼ同サイズの牛……っつぅかあれは牛人型か……手始めに、この2匹からだ。
「どるぁぁぁっ!」
直前で更に急加速を加え、突貫。
狙い通り、鳥型と牛人型、両方の頭部を、抉り抜いた。
「っとと……!」
ちょっと考え無しに加速し過ぎたか。
停止するのに少し時間がかかり、ややインバーダの群れから離れてしまった。
「ギュイァ!?」
「ゴォアアアァアァァ!」
インバーダ達が俺に気付き、次々に反転、咆哮を上げる。
まぁ、目の前で同類が瞬殺されたんだ。俺を敵対認定、警戒・威嚇すんのは当然。
「おうおう、元気なこった」
残りは19匹、俺のノルマは大型7匹。
「ちゃっちゃと終わらせ……」
その時だった。
「……?」
何だ、今の感触。
今、何て言って良いかわからないが……こう……違和感があった。
インバーダ化して手に入れた超直感が、何か大きな変化の前兆を感じ取った。
「……何か、来る……?」
俺の遥か前方。インバーダ達の後方で、宇宙が、裂けた。
「っ……!?」
細い、楕円形の、裂け目。
宇宙の闇よりも暗い、常闇の空間に繋がる謎の穴。
その裂け目の奥から現れたのは、巨大な指達。
白い甲殻に包まれた、10本の指だ。50メートル級前後のインバーダなら握り潰せそうな大きさである。
そして、その関節部は赤黒い光を放っている。
「あれって……」
白い甲殻、赤黒い光。
「おいおい……!」
10本の指が、空間を裂き広げて行く。
そこから這い出した、白い巨体。
ここにいる1番大きなインバーダの倍以上はある体躯……つまり、最低でも600メートル級。
まるで、雪山だ。
「ヴォ、ォォオオオオォォオォォオオォオォォォォォォォオオォォオオオオオオオオオォォオオオオオ…………」
今まで見てきたどのインバーダよりも巨大な、巨人型インバーダ……いや……
超巨人型のG・インバーダが、世界を揺らす様な咆哮を上げた。
超巨人型G・インバーダ。
その出現は、シャンバラも当然検知していた。
「何だ、こりゃあ……!?」
バージャスの頬を大粒の汗が伝う。
ジョーカー1人で、アレを処理できるのか。
アレに加えて、19体のインバーダもいる。
更に言えば、あのG・インバーダ、空間を裂いて現れた。
どこからか、ワープ移動してきた、と言う事だ。
ワープ移動なんて、今まで出現したG・インバーダ2体にも、ジョーカーにも出来ない芸当だ。
未知数の相手にも程がある。
それでも、ジョーカーなら勝算はあるかも知れない。
だが、100%じゃない。
「っ……部隊を急がせろ!」
もう既に、ジョーカーを追って大規模な迎撃部隊が現場に向かっている。
G・インバーダ相手にはGGでは手も足も出ないだろうが、ジョーカーのために陽動作戦を展開したり、通常のインバーダの処理には回れる。
「管制、ジョーカーに通達だ! 無理はするな、部隊到着まで時間を稼げ!」
「言われんでも、そうするっての……!」
撤退して部隊との合流を急ぐか?
いや、そのためには19体のインバーダとあのG・インバーダの横を抜けていく必要がある。
抜けられるのか? あのG・インバーダが巨体相応に鈍ければイケるが……
俺の目論見を察したかの様に、G・インバーダが動く。
その巨腕を、振るう。割と速い。
掴み取ったのは、300メートル級の亀型インバーダの首。
「グボァアァァアア!?」
「ヴォオォォォォォ……」
何で、同類が俺を? そんな感じの疑問が混ざった咆哮を上げる亀型インバーダ。
その首から上を、G・インバーダが食い千切る。
亀型インバーダの体から、光が失せる。
「ギュアァァァ」
「ジィィィアァァァ!」
残る18体は、察したらしい。
この巨大な白い奴も、自分達の外敵だと。
咀嚼を続けながら、G・インバーダは光の失せたインバーダを放棄し、次の獲物を狙う。
だが、インバーダ達も馬鹿では無い。
その魔手から、逃げる。
「ヴォ、ウ、ォォアァァァ」
散らばった18体を全て同時に捕まえようとしているのか、G・インバーダはしきりに頭をキョロキョロとさせながら、その両手をバタつかせる。
目標をきちんと定めずに振るった手で、獲物を捕らえられる訳が無い。
「まるでガキだな……!」
自身の周囲を舞い踊る無数の蝶達に翻弄される小学生、って感じだ。
俺にもあんな時期あったわー……考え無しに2兎以上を追っちゃう感じ。
……って、そういう事を思い返してる場合じゃねぇ。
チャンスだ。
インバーダ達に紛れて、俺も撤退しよう。
「ギュボォォォォォオオオォォォ!」
「ジャァァァアアアァァアァァア!」
インバーダ達が、あちこちからG・インバーダにかじり付く。
「ヴォ!」
かじり付いてきた内の1匹を捕らえ、捕食。
また次を狙うが、躱される。
隙を突かれ、また食いつかれる。
それを捕らえるか逃げられ、また……と繰り返しになっている。
「……待てよ」
インバーダに翻弄されている今なら、あいつのあのクソデカい頭、狙えるんじゃないか?
幸い、向こうも食いでのある大物狙いで、俺みたいな豆粒には目もくれない。
部隊と共に戦うのが賢明だろうが……犠牲は測り知れない。
なら……
「っし!」
インバーダ達が奮戦している内に、奴の頭上へ回り込もう。
そう、思い立った時だった。
「ヴォ、ヴォ、ヴォォォガァァァアアァァァアアアァァァァッ!!」
苛立ちを音にして放出する様な、G・インバーダの激しい咆哮。
その咆哮と共に、G・インバーダの腹部甲殻が、歪に膨らんだ。
「なっ!?」
膨らみは無数の球形に分裂し、そのままG・インバーダ本体から離脱。
「あれって……」
見覚えがある。
俺が、初めて目にしたG・インバーダ……ボール型の奴だ。
大きさは50メートル前後と、あの時より大分小さいが……
「分裂かよ……!」
リモートコントロール式の摂食器官。
要するに、分裂して獲物に食らいつく口って所か。
放たれた白いボール達が、赤黒い光を放ち、そして、インバーダ達を追尾し始める。
ボール達は、口に当たる部分からビームを放ち、インバーダの動きを止め、そして食らいつく。接触と同時、その球形の滑らかなボディから無数の触手を放出、インバーダを絡め取り、体内へと取り込む。
「ヴォオオオオオオオォォォオオオォオォオ」
万が一ボールの追尾を躱せても、ボールに気を取られている内にG・インバーダ本体の腕に捕まり、捕食される。
「おいおい……」
俺がG・インバーダの頭上に回り込んだ頃には、もう小物のインバーダが3匹程しか残っていなかった。
対して、ボールは5つ。しかも、取り込んだインバーダを消化している最中なのか、極端に肥大化しているボールもある。
「嫌な予感がするな……」
俺の予感は、的中した。
G・インバーダの頭が、勢いよくこちらへと向けらたのだ。
それと同時、2つのボールが、俺に向かって飛んできた。
「くっそ!」
どちらも300メートル近い巨大なボールだ。
その2つのボールが、回転を止め、同時にこちらに顔を向けた。
ビームを放つつもりなのだろう。
チャンスだ。
放たれた2筋の赤黒い光線を、斥力の盾をぶつけて四散させる。
「テメェらに撃てるんだ……俺も撃てるのが、道理ってモンだよなぁ!」
両手の甲殻を砲身へと変化させる。
狙いは、こっちを見て口をあんぐり開けてるアホ面2つ。
「こいつでも、食ってろ!」
俺が両手から放った、2筋の青白い光の砲撃。
当然、向こうだってバリアを張る。
それくらい想定している。
だから、
「上、等、だぁぁぁああああぁぁぁああぁぁああああああぁぁぁぁあああ!!」
赤黒いバリアを突破するまで、俺はビームの放出を、止めない。
5秒程でバリアに亀裂が走り、そして、砕け散る。
2筋の光が、ボールの顔面を抉り抜き、そして貫通する。
「っしゃあ! 2丁上がりぃ!」
あ、でもこれ、思ったより疲れる。
強力な遠距離攻撃ってのは便利だが、使い所は考えないとな……
っと、次が来……あれ?
ボールが、無くなってる?
後3つ、あったはずだよな……?
「!」
違和感……?
あれだ、あのデカいのがいきなり出てきた時に感じた、あの奇妙な感か…
『輪助! ワープだ! とにかく動け馬鹿!』
管制室からの通信。シェーナさんの声だ。
管制は望遠カメラでこの戦場の事を観測している。
つまり、ボールがどこへ行ったか、シェーナさんは知っている。
今さっき感じた奇妙な違和感、そしてワープと言う単語。
俺は気付いた。
ただ、気付くのが、遅かった。
俺の周囲を囲む様に、空間が、裂け広がる。
同じだ、あのG・インバーダが、出現した時と。
その裂け目から、凄まじい速度で、3つのボール達が飛び出してきた。
そして、不意を突かれた俺は、
「……あ?」
その内の1つに、取り込まれた。