表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

嗚呼、素晴らしき日本

作者: 東堂柳

 俺はテレビ番組のロケで、アフリカの某国に訪れた。そこの小さな村で、住人の生活を体験し、それを伝えるという名目の番組で、日本では結構な人気番組だった。

 とりあえず俺たちは、頭を下げに下げ、村の長老に撮影の許可を取り、たまたま見かけた一人の若者の家の生活を撮ることになった。

 しかし、一体どんな生活をしているのかと思えば酷いもので、電気もなければガスもない。さらには水道もなく、近くの井戸から水を汲んでこなければならないのだ。おまけに家と言っても、ただ壁と屋根があるというだけで、床は地面がむき出しのままだし、壁も土でできていて、虫が湧いている。


「うわっ、こんなところで生活してんの!? 信じらんない!」

 

 思わず、眉をひそめる。しかし、番組的にはこういう絵面は美味しいので、ありがたいものだが。

 今日はこれから夕食の準備をするというので、調理の様子を見たり、その食事をいただくことになった。大体の予想はついていたものの、その食事もお粗末なもので、何かもわからないような肉だったり、米に似たようなドロドロした穀物だったり。肉のせいなのか、変な臭いが鼻につく。


「くっさいですね~。見てください、これ。美味しいんでしょうか?」


 カメラの近くに肉を持っていく。ちょっとの間、アップの絵を撮ってから、それを口に運ぶ。すると、口の中に、その異臭が立ち込め始めた。


「うぇっ、なんだこれ。ダメダメ。無理だって、これ」


 予想通り、確かに不味かった。が、それ以上にわざとらしい大きなリアクションをとる。こういうのも番組的にはありがたい。今回のロケも取れ高は十分すぎるほど期待できる。

 食後には、日本から持ってきたプレゼントがある。納豆だ。臭いがきついが、食べれば旨い。びっくりするに違いない。嫌がる彼に、半ば無理やり納豆を食べさせる。


「美味しいだろ?」


 自分でも食べてみるが、やはり旨い。日本から離れて、日本の味を楽しむというのもまた乙なものだ。

 彼を見ると、口をもぐもぐ動かしながら、親指を立てている。やはりこの異国の地でも、日本の伝統の味は受け入れられたようだ。やっぱり日本っていいなあ。この番組を見てくれる人も、それを再確認することだろう。




 俺は日本という国からやってきた、色の白い男たちに頼まれて、どんな生活をしているのかを紹介することになった。最初のうちこそ、彼らはペコペコ頭を下げていた。日本人には初めて会ったが、彼らがよく謝る民族だという話は、聞いたことがある。その噂の通りなのだなと思っていたが、いざ家の中に入って、その様子を見るや、途端に眉間にしわを寄せて、


「うわっ、こんなところで生活してんの!? 信じらんない!」


 などとほざき始めた。不愉快だ。いきなりやってきて、どれだけ偉いのか知らないが、空から見下ろすほどの上から目線で、悪態を吐き出している。

 番組のクルーから、食事の様子を撮りたいというので、時間も早くて全く準備もできていなかったが、無理やりにあるもので夕食を作った。残っているのは、俺がとっておいた、好物のサルの肉だけだった。仕方なく、それを調理して出したが、あの男は、それをこれでもかと不味そうな顔して、


「うぇっ、なんだこれ。ダメダメ。無理だって、これ。臭すぎるって」


 とボロクソに言い出した。舌が腐ってるのか? それとも鼻がイカれてるのか? これでも家族からは料理が上手いと褒められたこともあるのだ。それだというのに、あの男はゴミでも食べているかのような反応をしている。沸々と怒りが込み上げてきた。カメラで撮られていなければ、俺はこいつらを殴っていただろう。

 

 俺の作った夕食を食べた後、彼らが、日本からのお土産だということで、『納豆』とか言う食べ物をくれた。どんなものでも、食べ物をくれるのはありがたい。おまけに、俺の作った大好物の料理を食べて、あんな反応をするような奴だ。きっと、俺の想像を超えた旨い食べ物に違いない。

 男が白いパックを開け、中に入った茶色い豆を二本の棒を使って混ぜ始めた。ぐちゃぐちゃと音を立て、次第に糸を引き始める。俺はその様子を興味津々で眺めていたが、段々と妙な臭いがしてきているのを感じた。

 な、なんだこの臭いは!? 臭すぎるぞ!

 男は満面の笑みで、その糸を引いた臭い豆を俺の口に近づけた。

 あまりの臭いに、本当に食べてもいいのだろうかと迷っていたが、男はさらに豆を近づける。


「ほら。食べてごらんよ。絶対旨いから」


 そうだ。臭いは完全に腐ったそれだが、食べてみれば、旨いはずだ。何しろ、先進国の日本の食べ物なんだから。

 俺は勇気を振り絞って、口を開けて、それを食べた。

 何だこの触感は? ネバネバして気持ち悪いし、臭いが取れない。胃の中からずっと臭ってくる勢いだ。涙目になりそうなのをグッと堪えた。完全に腐っているではないか。


「美味しいだろ?」


 男はそんな俺を尻目に、『納豆』を旨そうに頬張る。

 俺はそんな彼の様子を見て思った。日本というのは、こういうのをありがたがって食べなければならないほど、食糧がないのだろうか。かわいそうな話だ。段々と同情心が生まれて、もう、彼がどんな悪態をつこうとも、それを気にすることはなくなった。

最近はよくこういう類のテレビ番組を見かけます。勿論、大半はちゃんとしたものなのですが、時々、それは失礼じゃないの。と思えてしまうような発言や態度をとるタレントが出ている番組があったりして、それで思わず書いてしまった話です。

なので、特にオチにキレがあるとか、ストーリーがよく出来てるとか、そういうわけではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。短いお話の中に、双方向からの視点がうまく盛り込まれていますね。それにしても納豆とはwww うまくやっていくためには、お互いの文化の違いをちゃんと理解することが大切なの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ