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アネモネ  作者:
2/4

動き出した歯車

朝の陽ざしが私に降り注ぐ。その陽ざしによって私の安眠は奪われた。携帯で時間を確認する、時刻は午前11時23分、今日は自主休校にするつもりの日だったので慌てることもなかった。眠い目をこすり改めて自分の状態を確認する。昨日はねむかったので制服のまま寝てしまっていた。とりあえず、活動しやすい服に着替えることにした。そして、私は遅めの朝食をとった。昔だったら食事なんて一日一回が普通だったのだがどっかのおせっかいさんが「今は、成長期なんだから一日三食食べろ!」なんて言ってきたので一応従うことにはしている。

「今日は何しよっかな…今更、学校に行く気はないし。」

私はふと、昨日のことを思い出す。謎の老婆、あの人はいったい何者なのだろうか?そればかり気になっていた。

「あそこに行けばまたあの人と会えるのかな…?」

トースターのタイマーが鳴る音が聞こえた。私の思考はその音によって断ち切られた。私は、適当に冷蔵庫にあった卵とベーコンでベーコンエッグを作った。お皿に盛り付け、食卓に置く。私も席について食事をとる。たった一人で。そう、私に家族という概念は存在しない、家族だった人はみんなバラバラに生活している。私はお婆ちゃんとこの家に二人で暮らしているのだ。基本的に食事はいつも一人で食べている。寂しいなんて思ったことはないさ、むしろ洗い物が少なくて助かるくらいだ。

 食事を終え、食器を洗い、一通り片づけを済ませて外を眺める。よく晴れた寒空だった。こんな日はいくら寒くても外に行きたくなる。思い立ったらすぐ行動、いつもなら行く当てもなく外に行くのだが、今日は違った。私はあの場所に向かうことにした。

最寄駅から電車に乗って20分ほどのところ、昨日、洋子さんとあった場所だ。あの人がいるなんていう確証はなかったが、行ってみたくなってしまった。いつもとは違う方向の電車に乗り込むことはめったになかったので少し緊張した。田舎の路線ということもあってこの時間は人が少ない。私も座席についた。外にはのどかな田園風景が広がっている、見渡す限り田んぼや畑、山といった景色が並んでいる。私はその景色をぼんやりと眺めながら目的地へと向かった。

 昨日は真っ暗だったあの場所も今日は良く見渡せる。その駅に降り立って最初に目についたものはやっぱりあの待合室だ。中をのぞいてみると、中にはまだ誰もいないみたいだった。

「やっぱりいないよなー…」

何もすることがなくなってしまった私は辺りを見回してみた。辺り一面田んぼ、たまに民家…普通の田舎の風景といった感じだ。

「これからどうしよ…暇だしこの近くをぶらぶらしようかな…」

改札口を通過すると、駅前には一日数本しかこなそうなバス停と寂れた一軒の駄菓子屋があった。バス停にある時刻表を確認すると案の定一日に6本しかなかった。

「どんだけ田舎なんだよ…ここは…」

その時正午を告げる鐘が山のほうから聞こえた。どうやら、山の方向には神社があるみたいだ。

「久しぶりに行ってみるか…」

そういって彼女は山の方向へと歩き出した。山までの道は想像していたものよりも楽だった。こんなド田舎だから道もまともに整備されてないのかと思ったら、神社への道だけは整備されていた。

 神社に着くと、さっきの鐘の音の正体であろう鐘と、古びた鳥居、狛犬そして拝殿があった。私は神様なんて信じているような人間ではなかったがここに来たのも何かの縁だろうと思い参拝することにした。まず、御手洗で外界からのけがれを落とす。その後、拝殿前に進み出て最初軽くおじぎをする。お賽銭を入れ、鈴を鳴らす。そして、二礼二拍をしてお願いごとをする。何を願ったかは内緒だ。1回深く礼をした後、軽くおじぎをして退く。最近の人はこんなことしないだろうけど、私はやる。参拝を終えて、後ろを振り返ると一人の男性が立っていた。その男性が着ているものが袴だったのですぐにどんな人なのか理解した。

「若いのに珍しいですね。ちゃんと参拝の仕方を知っている人を久しぶりに見ました。」

「いえ、これくらいできて当たり前じゃありませんか?」

「最近の若い人は適当なんですよ…古き習慣を大切にするという考えが失われていってるように思えますね。」

「確かに…そうですね。」

私に話しかけてきたこの男性、おそらくこの神社の神主さんだと思う。年齢は30代後半から40代前半といったところだろうか、物腰が柔らかそうな人だった。

「ここら辺ではあまり見ない顔ですね…今日はどういったご用件でこちらに来られたんですか?」

「いえ…特にこれといった用事もなくただぶらぶらしてただけなんです…」

神主は物珍しそうに私のことを見ている。私は人と顔を合わせるのが苦手なので神主から目を背けた。

「失礼ですが…おいくつですか?」

痛いところを突かれた。ここで本当の年齢を言ったらめんどうくさいことになることは間違いない。やはり、ここは嘘をつくべきだと思った。

「十九歳です。」

「年の割にはとても大人びていますね、いいことです。それに、並々ならぬ苦労をされてきたのでしょうね…雰囲気でなんとなくですがわかります。」

なんなんだ…この人、ただものじゃない…。私の頭が危険信号を発する。私は無意識のうちに神主から距離をとった。

「いきなりすいません…驚かすつもりはなかったんです…ただ、あなたの雰囲気からそう思っただけなんです。」

「いえ…別にいいですよ…よく言われるんで。」

とにかく、この場所から逃げたいと思った私は駅に行くために神主の横を通過した。すると、神主は私に会釈をして

「最後に、一つだけいいですか?」

と言ってきた。

「なんですか…?」

「あなたには大切な人がいますか?」

予想外の質問だ。本当のことを言うべきか迷ったが、本当のことを言うことにした。

「ええ、いますよ。二人ほど。」

「そうですか、その二人のことを大切にしてあげてください。そのお二方はこれからある試練に直面することになるでしょう。その二人を支えられるのはあなただけです。がんばってください、幸運を祈っています。」

妙なことを言われた気もするが気にせず私は駅の方向に向かって歩き出した。

 駅前まで戻り、携帯で時間を確認するとまだ3時だった。もうここには用がないと思った私は家に帰ることにした。駅のホームの待合室には誰もいなかった。



 頭がいい奴学校に通ってるやつみんなチンピラに怖じ気づいて財布を渡すと思ったら大間違いだ。中にはぞんじょそこらのチンピラは比べ物にならないくらいの奴だっている。それは通学途中の出来事だった。

「ねぇねぇ、そこの君―、お金持ってない?」

(またチンピラか…めんどくさいし素通りしよ…)

少年はチンピラの横を素通りした。すると、チンピラは少年の腕をつかんで自分の方に引き寄せようとする。しかし、少年はびくともしない。それどころか、チンピラはどんどん引きずられていく。別にチンピラの力が弱いわけではない、ただ、その少年の力が強すぎたのだ。

「オイッ!テメェ!止まりやがれっ!」

チンピラの怒号が周囲に響き渡る、それでもその少年は止まらない。はたから見れば、おもちゃを買ってもらえずにダダをこねている4歳児と母親といった感じだろうか。

「………」

少年は何もしゃべらない。少年は次第にチンピラを引きずるスピードを上げていく。

「何とか言えよ!このクソ野郎ッ!」

突然、少年がチンピラを引きずるのをやめた。チンピラは少年に詰め寄った。そして、今まさに少年の顔を殴ろうという体勢に入った途端、少年の拳がチンピラの腹を突く。チンピラは全身の力が抜けてしまったかのように倒れ込んでしまった。倒れたチンピラは声にならない声を上げている。

「…よく覚えておけ、いくら進学校の生徒だからって甘く見ないほうがいいぞ。それと、殴りかかるまでのモーションが大きい。それだと相手に反撃のスキを与えることになってしまうぞ…ってあれ?」

チンピラは予想以上に痛かったらしく、路上にうずくまっている。

「あのー…大丈夫ですか…?」

チンピラの表情が何か見てはいけないようなものを見てしまったかのような表情になった。

チンピラはその場から走り去ってしまった。チンピラがうずくまっていた場所に何か落ちている、少年はそれを拾い上げてみると、それは、一枚の紙切れだった。中に書かれていたのは、数字の羅列。おそらく、誰かの家の住所と電話番号と思われるものだった。

「市外局番から考えるとこのあたりの電話番号だな…後で、沙織にでも聞いてみるか。」

そう言ってその紙切れを制服のポケットに押し込んだ。

 学校に着くと、クラスはクリスマス前ということもあって騒がしかった。そんなクラスメイトを横目に少年は沙織のもとへ向かった。

「なぁ、沙織、この電話番号とこの数字に何か見覚えないか?」

今朝のチンピラが落としていったものを沙織に見せた。彼女は何やら不思議そうな顔をしてその数字を見つめている。

「ねぇ…なんで翔平君この番号知ってるの?」

「えっ…」

困った。本当のことを話したら間違いなく怖がられる、ここは適当に嘘をついたほうがいいと思った。

「いや、今朝な前を歩いていた高校生くらいの人がこれを落としていったんだよ。」

「ふーん…」

「で、この番号見覚えある?」

「…この番号、私の家の電話番号と住所…」

「嘘だろ…」

俺たちの知らないところで何かが起こっている。そして、間違いなく狙われているのは沙織だ。不穏な空気が流れた12月の朝だった。



五時間目の授業が終わった頃だろうか…私は授業の疲れから机に突っ伏していた。改めて、今朝、翔平君に見せられた紙切れのことを考えてみる。

(なぜ、私の家の電話番号と住所を知っていたのだろうか…?)

考えれば考えれる程謎が深まっていく。答えがわからないもどかしさと私の知らない人が私の個人情報を知っている恐怖におそわれた。

「…なさん…ひなさん…朝比奈さん…」

私は自分の名前が呼ばれて起き上がった。

「あぁ…良治君か…」

彼の名前は逢坂良治、私のクラスメイトで私がちょっぴり気になっている男子だ。

「大丈夫…?体調悪そうだけど…?」

心配してくれるのはありがたいのだが今回は別に体調が悪い訳ではない、単に考え事をしていただけだ。

「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとね…」

そっけない返事をしてしまった…勿体無い、仲良くなるチャンスだったのに。私は再び机に突っ伏した。

 窓の外には夜空が広がっている、なのに教室ではまだ授業が行われている。嘆かわしい事だ。教室内では頭『は』良さそうな教師が授業をしている。こういう人は私は嫌いだ。早く終わって欲しいと思っていると授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

(やっと帰れる…)

『起立…礼…』

号令係がいつものように号令をかけた。

 私が帰りの準備を終えて、自分の席で本を読んでいると担任の教師がやってきてホームルームを始めた。

「大事なお知らせが一件、今朝、お前らが使う通学路で隣町の高校生が何者かによる暴行をうけた。誰か犯人を見たものはいるか?まぁ…うちの学生に限って犯人はいないだろう…とにかく、各自用心するように!以上!帰っていいぞ。」

私には無関係な話だと思って担任の話に聞く耳をもたないでそっぽを向いていた。ホームルームが終わり鞄を持っていつも通り悠奈の教室に向かおうとして気づいた。

「あの子今日休みだった…」

その事実に気づいてしまうと同時に今日は塾があるのを思い出してしまった。

「仕方ない…今日は一人で帰るか…」

 下駄箱でローファーに履き替えて、バス停に一人で向かう。バスから降りて塾にむかう途中、見知らぬ人から話しかけられた。

「ねぇねぇ!君、今時間ある?」

ナンパだ。正直に言ってこういう奴らは嫌いだ。滅んで欲しいくらいだ。

「すいません、今、急いでるもので…」

私は、抑揚無い声で当たり障りのない言葉を相手にぶつけてその場をやり過ごして塾にむかった。塾には行ってみたものの今日あったことを思い出してしまってまともに授業に集中できなかった。

 塾を終えて家に帰ってメールを確認すると、良治君からのメールだった。内容は実にシンプルなもので、今日の私のことを心配してくれたみたいだ。お礼のメールを送りベッドに倒れ込む。

「何がどうなってんのよ…」

ただ、あの事に対する疑問しか浮かばなかった。

「とにかく、いったんあの事は忘れよう…」

そう言ってベッドに身を預けた。一度リセットをかけよう、そう、明日になればこのもやもやも晴れるだろう。そんな淡い期待をいだきながら眠りに堕ちていった。


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