43・昔の出来事
それは、突然やって来た
この金髪美女のマシンガントークを聞いていたらふと、思い出したのだ。そう私は昔、ここに来たことがある。それは、私が海難事故にあったその後の事だ
「確か…あの時」
「思い出してくれたの⁉︎」
海に沈んで目を開けたら花畑にいて道があったから歩いてさっきみたいにここへやって来たんだ。それから、今みたいにこの場所でこの金髪美女に出会った
「あなたの名前は…オーディン?」
「うん!」
*
遡ること、数年前
幼い私はここで金髪美女と出会った。見た目がまるで神様のようだからここは天国かと思い私は悲しんだ。なぜなら、死んでしまったからと思っていたから。そんな私にオーディンさんは自分の名前を告げて抱き締めてくれた。それが、お母さんのようで自然と涙が溢れる
「ねぇ、お母さんは?お父さんは?弟は?」
気付けば私はオーディンさんの胸の中でそう問いかけていた。しかし、オーディンさんは首を横に振るだけで答えてはくれなかった。その答えが意味するのは分からない。なんで!と思う。あなたは神様でしょ!お母さんとお父さんと弟がいる場所に連れて行ってよ!なんてことを私はオーディンさんに言う
「ここはね、天国じゃないの」
興奮する私にオーディンさんは優しく答えてくれた。そして、私を抱っこして大きな木の根元に行くと膝の上に乗せてくれて話し始める
「天国じゃないならここはどこ?」
「ここは、願いを与える場所」
「あなたは自分が死ぬ前になんて心の奥で願った?」
「死にたくない?」
ここは、よく覚えていなくて曖昧だったから語尾が小さくなってしまった。でも、自分の中でなんとなく違うような気がする。もっと、こう大事なこと
「あなたは、最後にこう願ったはずよ」
【お願い!届いて!私の声が届いて!】
まるで、空から声が降ってくるような感じで私の耳に届きました。そうだ、私は最後、生きたいとか死にたくないとかじゃなくて、お母さんとお父さんと弟に自分の声を届けたかったんだ
「その思いが強くてあなたはここへ導かれた」
「それなら、他の人も願ったんじゃないの?」
「かもしれないけど、この異世界はあなたの願いに反応した。あなたの願いが他の人よりも強かったのよ」
ようやく泣き止んだ私にオーディンさんは右手を私の目の前に出した。その手のひらは少し丸めてあり今から何かが出てきそうな勢いだった
「私は願いを叶える事しか出来ないの。それが、本当に良い判断か私には分からないけど、今、私が出来ることはこれだけだから」
半分、自分に言い聞かせるようにオーディンさんは言う。そして、右手の中には徐々に緑色の粒子が集まっていた。その粒子は集まり、形を変形し、ついにはビー玉のような小さくて丸い綺麗な玉へと変化する
「あなたは声を届けて欲しいと願ったから」
その緑色の玉をゆっくりと私の口元へと近付ける。頭に疑問符を浮かべた私はただ、見つめるだけ
「あなたには『言霊』の能力を渡します」
「なにそれ」
「ふふ、使い方はそのうち分かるわ」
手をお椀のように差し出してオーディンさんから緑色の玉を貰いました
「この能力さえあればあなたはここから出て元の世界に行ける」
「元の世界?」
もしかして、家族に会える!
「ねぇ、すごい私のわがままなんだけど、もしあなたが良かったらここで一緒に暮らさない?」
「なんで?」
「だって、あなたの家族は……もう」
「?」
「いえ、なんでもないわ」
目を伏せるオーディンさんに私は嫌な予感しかしませんでした。でも、私の心は決まっています
「あっ!じゃぁ、少しの間だけ一緒にいてくれる?」
「嫌だ」
「そうだよね。ごめんなさい、本当に私は自分勝手だよね」
この時、私はオーディンさんが寂しがっているように思えましたが、私は一刻も早く家族の元へと帰りたかったので、ここは深く追求しませんでした
「私はね、帰りたいの」
「うん、分かってる。それなら、元の世界に戻る方法はその玉を飲み込むの」
ごくり
喉を鳴らして私はその玉を飲み込みました。味はほのかに甘かったのを覚えている。すると、急に眠くなり私は目を閉じてしまったのです。薄れゆく意識の中、私が最後に聞いたのはオーディンさんの声でした
「また、会えるよね」
気が付くと私はオーディンさんと出会った事を忘れていた。そして、目を覚ますとそこは病院の天井だった。ついでに後日、私はお母さんの親戚の人から悲しい事実を伝えられる。
*
昔話、終了
「また、会えたね」
オーディンさんは柔和に微笑み私の手を引き大きな木の下へと連れて行く。そのまま、木の根元に腰を下ろすと私も隣へ座る
「ここに来る条件は死ぬ前に強く願うこと」
「そう」
「私が最後に願ったのは【能力なんていらない】」
「その願いは今の私と同じなの」
えっ、それはどう言うこと?私が頭をひねっているとオーディンさんは苦しそうな顔で私を見てきました
「少しだけ、私の昔話しを聞いてくれる?」
そして、ここからオーディンさんの長い長い昔話が始まりました




